日本女性も負けてはいません。2016年10月18日に開催された「JWLI2016東京サミット」では、それぞれのセクターで活躍する女性リーダーたちの姿を知ることができました。
そこで出会ったのが「留職」という事業を手がけるNPO法人クロスフィールズ副代表の松島由佳さんです。20代で起業し、副代表として世界を駆けめぐる松島さんの原点と、留職がもたらす可能性、女性リーダーに求められスキルについてお聞きしました。
日本女性がリードする社会変革を。JWLI2016東京サミットJWLI(The Japanese Women's Leadership Initiative)とは、日本女性のリーダーシップ育成・支援を目的に、2006年に米国で設立されたフェローシッププログラムです。
フィッシュ・ファミリー財団と、シモンズカレッジ経営大学院ジェンダー研究所の運営のもと、日本から派遣された女性フェロー研修生たちがボストンに4週間滞在しながらアメリカにおける社会貢献のあり方と女性のリーダーシップについて学びます。
今年で設立10周年を迎えることを記念し、2016年10月18日に「JWLI 2016 東京サミット」を開催。のべ300人の国際色豊かな参加者が集まり、女性の活躍がいかにソーシャルセクターにおいて貢献し変革を起こしていけるのか議論を深めました。
その壇上に立っていたのが松島由佳さんです。「女性がリードする米国と日本社会変革」をテーマに、文化、人種、性別を超え、さまざまな違いをもった人々が集い、対話を通して信頼を築き、チームで取り組むことで起業や課題解決を可能にし、サステイナブルな組織運営が実現できることを語り合っていました。
オーナーシップをもって仕事がしたい松島さんが副代表を務める特定非営利活動法人クロスフィールズは、今年で創業6年目を迎えます。
松島さんは大学卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。3年で退職し、2011年5月に共同創業者の小沼大地氏とともにクロスフィールズを立ち上げます。
「コンサルティングの仕事は、商談のサポートをすることはあっても、自分実際に商談に出向くことはしません。自分のつくった提案がどんな利益をもたらしたのかを直接見届ける機会も多くはありません。そんななか、仕事をしながら活動していたプロボノ(プロのスキルを活かしたボランティア活動)での社会貢献活動は、ひとつのプロジェクトに対し、自分で最初から最後まで行う責任をもって仕事をしているという実感がありました。
もちろんコンサルティングも大きな責任のある大切な仕事ですが、またそれとは異なり、プロボノでの活動は、小さいものだからこそプロジェクトを全方位的に見ることができました。また、社会との接点が大きい活動をすることで色々な方と出会い、想像力が豊かになることは、ビジネスパーソンとしてもとても良い経験なのではないかと考えるようになりました」(松島さん)
とはいえ、まさか自分が起業するなんて夢にも思っていなかったという松島さん。起業へと突き動かしたきっかけとは−−。
「コンサルティングの仕事はとても楽しかったのですが、出社前の早朝や休日を利用してプロボノの活動をしていました。当時のわたしにはそれが精一杯だったのですが、もっと多くの人が勤務時間をも利用して社会貢献活動をできたらいいのに......と思うようになったんです。
でも、その仕組はいまの社会にはない。
女性リーダーの躍進が目覚ましいとはいえ、結婚、出産とライフイベントによって女性の働き方が左右される日本。その現状をどう変えていくかが大切と松島さんは語ります。
「女性だから、男性だから、若いから、そうではないから、という枠にとらわれるのではなく、ひとりの人間として社会にどう貢献できるかが大切なのではないでしょうか。
起業は、ある程度経験のある人がするべきだと考えていたところもありましたが、若くして起業をする例を近くで見て、自分もできるかもしれないと思いました。自分に制限を作らないで、むしろ自分自身が前例となって実例をつくれば、その後に続く人たちが働きやすい環境を生み出すことができるかもしれない。30代、40代とキャリアを積んできた女性たちには『経験』という財産があるので、それをどう活かすかはその方次第でいくらでも広がると思います。
わたし自身、コンサルティングファームで学んだことは、いまの仕事にとても役立っていますし、女性として20代のときに起業した経験も、楽しいことだけではなかったですが、これから何かに活かしていければと思っています」(松島さん)
貪欲にチャレンジする気持を大切に新興国では、たくましい女性たちの姿を目にすることもあるといいます。子どもを生み、育てながら地域のリーダーとして活躍する女性、経済的自立を目指し、自分自身で仕事を見つけ、新しいアイディアを率先して生み出すたくましさも。
「日本において、女性は、枠にはまることも多い環境から、逆に自分自身で枠を決めてしまう傾向にもあるのかもしれませんね。私自身も、とはいえ枠にはまって考えてしまうこともあります。自分自身だけで考えるだけでなく、同僚や、同じ立場の経営者やリーダーに相談するなど、困ったときは仲間を頼るようにしています。
わたし自身、リーダーという言葉を使うにはおこがましくて、まだまだ未熟で、学ぶべきことがたくさんあります。心がけているのは、問題を解決するときに、まわりも頼りつつ、自分自身としても高く客観的な目線で考えることですね。新興国のNGOや社会起業家のリーダーとしてのあり方からもいつも学ばせてもらっています」(松島さん)
留職先を訪れ、活動をサポートする松島さん。海外をアクティブに飛び回る
カンボジア、フィリピン、インドなど、途上国を中心に世界を駆けめぐる松島さんが大切にしているのは家族や友との時間。「オンタイムを健全にするためにもオフタイムは必要」と言葉を続けます。
「オフの時間をどう過ごすかで、仕事の効率は変わってくると思うんです。自分自身を俯瞰して見ることができ、物事に臨機応変に対応できる柔軟性が養われるのは、大切な人と過ごす、ゆったりとした時間のおかげかもしれません」(松島さん)
しなやかとたくましさ、そして美しさを兼ね備えた松島さん。お話をうかがっているうちにすっかりその魅力に引き込まれてゆきます。
「人それぞれ強みや持っている力は異なるので、自分らしいリーダーシップのあり方を考えていきたい」という松島さんの力強い言葉は、ビジネスパーソンとして活躍するキャリア女性への声援のように聞こえました。
東京大学経済学部卒業。ボストン・コンサルティング・グループに入社。2011年5月、共同創業者小沼大地氏とともに特定非営利活動法人クロスフィールズを設立。
日本企業の社員が発展途上国の社会課題解決を目指すNGOや社会的企業へと赴任し、本業のスキルを活用して社会課題に取り組む新興国「留職」プログラムを展開。これまででパナソニック、日立製作所、日産自動車など日本企業約30社が導入をしており、インドやインドネシアなどをはじめとしたアジアの新興国に100人超を派遣した実績を持つ。