通信を軸に、幅広いサービスを展開するKDDIグループ。
“「つなぐチカラ」を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。”をビジョンに掲げ、命、暮らし、心を「つなぐ」取り組みを進めている。今回は3つの取り組みにフォーカスし、背景にある課題や目指す未来を紹介する。
まちと一緒につくり上げる、未来のモビリティ
最初に紹介したいのが、2022年に「スーパーシティ型国家戦略特区」に指定されたつくば市との取り組みだ。
KDDIは2019年からつくばスマートシティ協議会に参画し、モビリティ領域を中心に同市の活動を支援。つくば市がスーパーシティに選ばれ、現行の法制度では推進困難な実証実験が可能となったことを受け、「陸」と「空」のモビリティに関するさまざまな取り組みを進めている。
その一つが、ドローンやロボットを活用した配送だ。
先端的物流サービスの実現に向け、ドローンによる病院から検査機関までの検体配送と、ドローンと自動配送ロボットを組み合わせたフードデリバリーサービスの実証実験を行った。 KDDI市民の安全・安心確保のため、XR(クロスリアリティ)技術を用いてドローンが飛行するルートとなる「空の道」を可視化し、ドローンが歩道を横断する際は、歩行者に対してXRアプリ上の赤信号で通知する機能も実装した。
KDDI「第三者上空の飛行には人口密度の制限があり、都市部でドローンを飛ばすことは困難です。
そこで私たちは、自社が有するリアルタイムの人流データを活用し、人通りが少なく、リスクを最小化できるルートを確定しドローンの飛行を行いました。
また『都市OS』と呼ばれるデータ連携基盤を用いて、つくば市のアプリケーションにドローンの位置情報や飛行情報を紐づけ、つくば市全体にドローン飛行を通知する仕組みを評価しました」(KDDI 事業創造本部/KDDIスマートドローン プラットフォーム事業部 足立崇さん)
他にも、最先端モビリティサービスという側面でいえば、つくば市・関東鉄道・筑波大学との官民学のオープンイノベーションによる筑波大学周辺での自動運転バス走行実証も実施している。
高齢化を背景とする取り組みとしては「つくば医療MaaS」実証実験がある。
KDDI総合研究所が開発したアプリを使って相乗り型のオンデマンドタクシーを予約すると、AIが自宅と病院間の最適なルートや他の利用者との相乗りマッチングをし、目的地まで送り届けるという仕組みだ。
「60代以上の高齢の方の利用率が高く、『便利で助かる』『事前予約が不要なのが良い』など満足の声をいただきました。
一方で、サービスを続けていくためのマネタイズ方法の検討など、実証実験によって課題を洗い出すことができました。現在は、実装に向けて関係者との協議を進めているところです」(KDDI BI推進部1G 山口修平さん)
“一石二鳥”のサステナブルな基地局
2つめに紹介するのは、曲がる太陽電池を活用した「サステナブル基地局」だ。
現在、基地局の多くを占めている電柱型基地局など敷地面積が少ない基地局では、太陽光パネルの設置は難しい。
この取り組みでは、「薄い・軽い・曲げやすい」といった特長を持ち、次世代太陽電池として期待が高まるペロブスカイト太陽電池を、電柱型基地局に設置したポールに巻き付けて発電する。
ペロブスカイト太陽電池のほか、 CIS太陽電池、 CIGS太陽電池といった3種類の太陽電池を用いて、発電効率や設置方法、コストのバランスなどを検証・調査。 KDDIカーボンニュートラルの実現に向けたこの取り組みだが、実は別の側面もあるという。
「晴れている⽇中に停電した場合は、バッテリー使⽤を抑制し運⽤時間を延⻑します。
サステナブル基地局は、カーボンニュートラルだけでなく災害対策にも貢献できると考えています」(KDDI カーボンニュートラル推進室 市村豪さん)
KDDIは、電力などのエネルギー消費を通じて年間約94万トンのCO2を排出しており、そのうち基地局に関連する電力使用量はKDDI全体の電力使用量の約5割を占めるという。基地局の省電力化を進めることにより、2030年度までのCO2排出量実質ゼロを目指している。
豊かな海と人に優しい水産業を目指して
3つめの取り組みは「スマート水産業」。
水産業を持続させるには効率化が必須だ。そこでKDDIはICTを活用し、「アナログからデジタルへのシフト」「デジタルのノウハウとデータ蓄積を新たな価値創造につなげる」という2段階で水産業に変革を起こそうとしている。
2016年から始まったKDDIのスマート水産業だが、その取り組みの一つが、徳島県海部郡海陽町、宍喰漁業協同組合、株式会社リブル、国立大学法人徳島大学、KDDIの5者連携 で行われている「あまべ牡蠣スマート養殖事業」だ。
養殖場の水温、濁度、養殖カゴの揺れをIoTセンサーでモニタリング・分析し、牡蠣の生育状況に関するデータをクラウドに蓄積。関係者間で共有し、生産現場の省力化と安定性の実現を目指している。 KDDI「環境情報と養殖作業を分析することで、牡蠣のへい死を減らし、商品価値の高い形状に育てることを目指しています。
また季節によって異なる生育スピードを予測し、高く売れるタイミングを見極めて出荷時期をコントロールすることで販売・経営に貢献しています」(KDDI 地域共創室 加藤英夫さん)
さらに別の取り組みとしては、三重県鳥羽市での「ブルーカーボン貯留量の自動計測システムの開発による漁村の脱炭素・収益向上に向けた取り組み」(独立行政法人国立高等専門学校機構 鳥羽商船高等専門学校、国立大学法人三重大学、三重県水産研究所、三重県鳥羽市、KDDI、KDDI総合研究所)がある。※
ブルーカーボンとは、海草や海藻、植物プランクトンなど海洋生物の作用によって海中に取り込まれる炭素のことで、CO2吸収源の新たな選択肢として注目されている。
この研究では、まず漁船に取り付けた水中カメラセンサーを使って藻場の水中画像データと位置情報を収集。これをもとに藻の種類の識別を行い、藻場の3Dモデルを使って各種藻類の繁殖量を体積で算出し、地域全体の総炭素貯留量を算出する。
KDDI次に、藻場観測システムを開発して現場へ導入し、藻場の生長・衰退などによる炭素貯留量の変化を自動計測。
※本研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(22602)により得られた。
「現状では、炭素貯留量を容易に計測するための技術が確立できていません。カーボンニュートラルと収益モデルの実現に向け、ブルーカーボンの自動計測を目指し研究を進めていきます。
この取り組みの意義は、将来的にこの技術が必要になった時にすぐに使える状況をつくっておくこと。私たちはこれからも『つなぐチカラ』を未来のために役立てていきます」(KDDI 地域共創室 加藤英夫さん)
さまざまな取り組みから分かるのは、あらゆる産業の成長・発展において「つなぐチカラ」は欠かせないものであり、KDDIがいかに幅広い領域に目を向けて活動しているかということだ。通信やICTを活⽤した、社会課題解決のための挑戦は続いている。
※2024年4月に実施された、台湾政府・企業による日本のESG視察ツアー時の内容を抽出・編集したものです。
※本記事は、2024年7月19日掲載Business Insider Japanの記事の転載です。
文:星野愛、撮影:中山実華、編集:中島日和[Business Insider Japan Brand Studio]