撮影:伊藤圭

“Eat Well, Live Well.” のコーポレートスローガンでおなじみの味の素。

調味料や食品を中心に、幅広い製品群をグローバルに展開する同社の100年以上にわたる歴史はいかに始まり、発展を遂げてきたのか。

健康や生きる喜びと直結する「食」にまつわる、“ビジネスを通じた社会貢献のあり方”を紐解く。

日本発の「うま味」から世界の「UMAMI」へ

撮影:伊藤圭

味の素の創業は1909(明治42)年。その始まりは、一人の科学者による「うま味」の発見だった。

ある時「湯豆腐はなぜおいしいのか?」と考えた東京帝国大学教授の池田菊苗博士は、湯豆腐に使われる昆布だしには、4つの基本味である「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」のほかにもう一つの味があると確信。

研究の末に、おいしさの正体はグルタミン酸というアミノ酸の一種であることを突き止め、この味を「うま味」と命名した。

ドイツ留学時には、現地の人々の体格や栄養状態の良さに驚いたという池田博士。

「日本人の栄養状態を改善したい」という思いを原動力に研究に没頭した結果、グルタミン酸を原料とするうま味調味料の製造方法を発明し、1909年に世界初のうま味調味料「味の素®」が発売された。

味の素株式会社

今では世界で知られる「UMAMI(うま味)」

創業当時からの「おいしく食べて健康づくり」という思いは脈々と受け継がれ、現在は調味料にとどまらず、加工食品、サプリメント、医療用食品、栄養ケア食品と幅広い製品群を展開。さらに、アミノ酸の技術を応用した化粧品原料や電子材料の製造・販売にも注力している。

アミノサイエンス®で独自の価値を生み出す

撮影:伊藤圭

味の素は世界各国に120の工場を持ち、グループ全体で約3万4000人の社員が働くグローバル企業へと成長を遂げた。その経営の軸となっているのが「Ajinomoto Group Creating Shared Value」、略して「ASV」だ。

「お客様に製品やサービスを購入いただくことで利益を得る『経済価値』は、その製品・サービスや事業を通じた社会課題の解決につながる『社会価値』の創出によって生み出すこと。これが私たちの目指すASV経営です」(味の素株式会社 グローバルコミュニケーション部 石川有紀子さん)

味の素株式会社 グローバルコミュニケーション部の石川有紀子さん。
撮影:伊藤圭

さまざまな素材や技術を生み出し、人・社会・地球のWell-beingに貢献してきた味の素。独自の科学的アプローチである「アミノサイエンス®」を通じて、“Eat Well, Live Well.” を体現している。

「おいしさや栄養を与える、体の調子を整えるなど、アミノ酸にはたくさんの機能があります。それらを使いながら私たちは100年以上にわたり多様な製品を生み出し、技術を蓄積してきました。

アミノサイエンス®の力で、これからも味の素グループにしか実現できない価値を生み出していきたいと考えています」(石川さん)

2030年までに実現したい2つの成果

「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」というパーパスのもと、味の素は2030年までに「環境負荷を50%削減」「10億人の健康寿命を延伸」という2つのアウトカム(成果)を目標として掲げている。

食品が製造・加工され、生活者に届き、消費されるまでの一連の活動はフードシステムと呼ばれるが、そこには気候変動、食品ロス、食塩の過剰摂取などさまざまな課題がある。

そこで味の素は2つのアウトカムを実現するべく、課題解決を図っている。

味の素株式会社

一つは、環境負荷削減。これについてはKPIを設定し、温室効果ガス、プラスチック廃棄物、フードロスの削減および持続可能な調達に取り組んでいる。また、生活者に向けて具体的な取り組み内容を発信するほか、フードロス削減に役立つ身近な情報なども積極的に提供している。

もう一つの健康寿命の延伸に向けては、減塩やタンパク質の摂取をサポートする製品の開発・提供に注力するが、ここに味の素ならではの「味」へのこだわりがあるという。

「塩分控えめの食事は、あまりおいしくないイメージがあるかもしれません。

そこで当社の製品を日々の料理に取り入れていただくことで手軽に塩分を減らしつつ、おいしくて栄養バランスの良い満足できる食事をサポートできればと考えています。

決して味に妥協することなく、栄養をお届けすることが私たちの願いです」(石川さん)

また、開発途上国などでの食品アクセスの改善にも取り組み、世界34の国・地域に拠点を置き、130以上の国・地域に製品を届けるための強固なシステムを構築。

製品開発においても、現地の生活様式や食生活、味の好みに合わせて多様なラインナップを展開し、「つくる」「届ける」の両面から人々の暮らしと健康を支えている。

味の素株式会社

2030年までに「栄養価値を高めた製品の割合を60%まで引き上げる」「栄養価値を高めた製品のうち『おいしい減塩』『タンパク質摂取』に役立つ製品を年間4億人に提供する」など具体的な目標を掲げているが、その根底には、製品の先にいる生活者一人ひとりのへの切なる思いがある。

「年齢とともに体の筋肉量は減っていくため、タンパク質の素であるアミノ酸を意識して摂取いただくことが重要です。

タンパク質を十分に摂ることは足腰が弱るのを防ぎ、長く健康でいるための助けとなります。当社の製品をより多くの方にお届けすることで、年齢を重ねても元気な毎日を過ごしていただけるよう貢献していきます」(石川さん)

塩分の過剰摂取やタンパク質の摂取不足は現代社会における大きな課題であり、味の素の取り組みはまさに人々のWell-beingに直結していると言えるだろう。

ステークホルダーとの対話を惜しまない

最後に、情報発信の取り組みについても触れておきたい。同社の代表的な製品である「味の素®」は幅広い世代に浸透している一方、うま味調味料に対して「体に悪い」「安全ではない」などネガティブなイメージを持つ人もいるだろう。

味の素はこうした状況を把握したうえで、長年にわたり多方面からの情報発信を行ってきた。

「当社には科学的なエビデンスに基づいて情報発信を行う部門があり、その発信先の一つが行政です。

食品に関するルールづくりを担う方々に向けたコミュニケーションをとるほか、日本うま味調味料協会の会員として食品業界を中心に正しい知識の普及に努めてきました。

さらには世界各国の生活者の皆さんに向けても、積極的に情報発信を行っています」(石川さん)

こうした発信活動を地道に続けてきたことで、うま味調味料に対する印象はだんだんとポジティブなものに変わってきたという。

「今後も情報発信を継続しながら、ステークホルダーの皆さまと積極的にコミュニケーションをとり、世界中の人々の幸せとWell-beingに貢献できる企業を目指していきます」(石川さん)

※2024年4月に実施された、台湾政府・企業による日本のESG視察ツアー時の内容を抽出・編集したものです。
※本記事は、2024年8月20日掲載Business Insider Japanの記事の転載です。
文:星野愛、撮影:伊藤圭、編集:中島日和[Business Insider Japan Brand Studio]

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