MASHING UP賛助会員であるディップが、2024年10月26日、「Labor Force Solution Conference dip 2024─AIとDEIで革新する働き方の未来─」が開催された。AI技術の最前線を知るOpenAI社代表・長﨑忠雄さんやビジネスリサーチラボ代表・伊達洋駆さんを含む10名の登壇者が集結。
AI活用がDEIの推進や労働環境の改善にどう貢献するのか、人の介在がもたらす価値とは何か──具体的で多角的な議論が繰り広げられた。
イベントの冒頭では、ディップ代表取締役社長 兼 CEOの冨田英揮さんが、開催への想いと背景を語った。
「私が起業した30年前、パソコンの普及はまだ珍しいことでした。しかし今では、パソコンやスマホ、インターネットが生活の一部と言えるほど身近な存在になった。そして、それ以上の変化がAIの進化によって訪れるでしょう。本イベントを通じて、AIが私たちの暮らしや働き方をどう変えるのか、進化を学びながら想像力を膨らませてください」(冨田さん)
AIの進化と企業の生産性
左から、ディップ 代表取締役COOの志立正嗣さん、OpenAI Japan合同会社 代表執行役社長の長﨑忠雄さん、Metaverse Japan共同代表理事の馬渕邦美さん。 Screenshot: MASHING UP via YouTube最初のトークセッション「進化するAIの今と未来を探る」では、ディップの志立正嗣さん、OpenAI Japanの長﨑忠雄さん、モデレーターとしてMetaverse Japanの馬渕邦美さんが、ビジネスにおけるAI活用と倫理的なAI活用についてディスカッションが繰り広げた。
「ChatGPTのような大規模言語モデルの普及がもたらす大きな波によって、7~8割の仕事がAIによって自動化される未来が訪れるでしょう。特にテックジャイアント企業では、セールス分野だけでなく、人事管理やマネジメントなど幅広い領域でAIが活用され、業務の最適化が進んでいます」(馬渕さん)
事実、2年前にChatGPT-4がリリースされて以来、世界中で約2.5億人のアクティブユーザーを獲得し、企業向けの「ChatGPTエンタープライズ」は100万以上の企業で採用されている、と長﨑さんはいう。「主に3つのパターンに集約されます。社員の働き方を変えること、業務フローを自動化すること、そして、ディップでも採用しているカスタマーサービスのAI化です。
実際にディップでは、2023年から生成AIを日常業務で活用する社員が約6割に達している。志立さんによれば、同社は会社横断型の推進チーム「dip AI force」を設立し、業務プロセスを分解し、AIで代替可能なタスクに取り組んできたという。
「2024年度からは、AI導入による生産性向上を具体的な目標として掲げてきました。例えば、1人あたり月7時間の業務時間削減を目指しています。さまざまなユースケースにチャレンジした結果、『後輩がAIを活用して商談相手の練習をするようになった』、『短期間で質の高い原稿アイデアを出せるようになり、顧客満足度が向上した』といった成果が生まれています。まずは業務の棚卸しを行い、生成AI導入による仮説を立てて検証を繰り返し、AI活用のレベルを高めることが重要です」(志立さん)
また、OpenAI社の長﨑さんは、社内でのAI活用を加速させるためには「トップのコミットメントが不可欠」とし、このように続ける。「現場に丸投げするのではなく、志立さんのようにトップがKPIを設定し、現場を巻き込むことが大きなポイントです。それが、ディップが1人あたり月7時間もの業務時間削減に成功した理由ではないでしょうか」
AIの安全性・倫理面をどう担保するか
「dipAI」の開発において「AIの倫理観と規範について議論するため、外部の第一人者を集めた諮問委員会を立ち上げた。どのような倫理観を持ち、どのように社会に浸透させるべきかを慎重に検討している」と語る志立さん。 Screenshot: MASHING UP via YouTubeさらに、ディップは求職者へのサービスとしてAIを活用した「幸せマッチング」を目指す「dipAI」を開発。対話形式で仕事を探したり、相談や雑談が可能なこのサービスは、企業の採用におけるミスマッチや定着率向上といった課題解決にも貢献している。人材領域で「どう幸せなマッチングを実現するか」という議題に対し、志立さんは「重視すべきは倫理的視点を持つこと」と語る。
AIの実装において、ユーザーに安心と安全をいかに提供するかは非常に重要なポイントだ。
最後に、AI活用への今後の期待について、長﨑さんは「AIを社会に浸透させることで、国際的な競争力の向上だけでなく、個人の生活をより豊かにしたい」と語る。また、志立さんは「AIの社内活用や当社のサービスをさらに進化させていきたい」と抱負を述べる。
人それぞれ違う幸せな働き方
左から、ディップ 技術研究所 所長の岡本周之さん、ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達洋駆さん、YeeY 共同創業者/代表取締役の島田由香さん。 Screenshot: MASHING UP via YouTube続いてのトークセッションのテーマは、「1万人の調査から解明した、働きがいを高める幸せマッチングとは」。登壇者はビジネスリサーチラボの伊達洋駆さん、ディップの岡本周之さん、そしてモデレーターを務めたYeeYの島田由香さんだ。
働き方が多様化し、新しいスタイルが次々と生まれる現代。この流れは今後さらに加速していくだろう。ディップは、誰もが「働く喜びと幸せ」を感じられる社会の実現をめざし、国内で1万人以上を対象に大規模な調査を実施した。伊達さんは、「学術研究の中でも、ウェルビーイングについて日本国内でこれほど大規模かつ網羅的な調査は非常に貴重だ」と話し、本調査の意義や価値についてこのように続ける。
「幸せに関する調査で最もリスクのある考え方は、『正しい幸せ』を全員に当てはめてしまうこと。ですので、それぞれが大切にしているものがしっかり満たされているか、という視点で調査を進めました。
この「働く幸せ33要素」と就業形態を掛け合わせた分析により、仕事への期待、現在の職場での満足度、そして重視する要素が多様であることが明らかになった。これについて、島田さんは「多様な就業形態が存在する中で、一人ひとりの働き方や価値観を丁寧に見ていくことが、DEIの推進にもつながる」と頷く。
年齢(10代~70代)×幸せ33要素の調査結果。10代、20代では仕事への期待が高い傾向にあるが、70代に近づくにつれ期待、満足度は減少。また重視する要素も変化する。 Screenshot: MASHING UP via YouTubeまた、副業やスポットワークと「幸せ33要素」に関する調査結果では、こうした働き方を選んでいる人の方が、仕事への満足度や期待値が高いことが判明した。「複数の仕事を持つことで、自立性や自分らしい働き方を実現できる可能性がある」と伊達さん。さらに、島田さんが「創造性の発揮にも寄与するのでは」と問いかけると、岡本さんは「クリエイティビティを発揮し、成長したいと考える人が、副業やスポットワークを手段として選ぶ傾向が見られます」と話す。
最後に岡本さんは、「一人ひとりが活躍するためには、企業側が多様な選択肢を用意することが重要です」と述べ、伊達さんは「一人ひとりの働く幸せを数値化・データ化することが、今後の鍵になるのではないでしょうか」とトークセッションを閉めた。
[ディップ]
(当記事はMASHING UP賛助会員の活動を伝えるものです。)
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