撮影/ MASHING UP編集部

2024年12月2日、経済産業省が主導する人的資本コンソーシアム第3回総会が開催された。本総会では、今期の活動の実績と成果が報告されるとともに、来期に向けた活動内容が発表された。

加えて、人的資本経営のトップランナーである企業の有識者や投資家によるパネルディスカッションも実施された。

日本企業の人的資本経営状況、前年度比でスコア3以上に増加

人的資本コンソーシアムの取り組みを総括した伊藤邦雄さんは、持続的な企業価値向上に向けた人的資本経営の実現を目指し、具体的な実施内容や投資家への伝達方法を可視化したレポートを発表した。 撮影/MASHING UP編集部

今期実施された全4回の「実践分科会」では、リスキリングや人事部門のケイパビリティ向上についてリーディング企業の取り組みや課題が共有され、議論が行われた。一方、「開示分科会」では、人的資本データの可視化や定量化など情報開示方法に関する先進事例が共有された。また、投資家とコンソーシアム会員企業の対話の場が5回にわたり設けられ、投資家の視点を学ぶ貴重な機会となった。

さらに、2024年2月から4月にかけて、CEOやCHROを対象に実施した調査では、人的資本経営の取り組みを「企業理念の明確化」「リスキルの機会提供」「取締役会の役割の明確化」など28項目に細分化し、状況を把握。その結果、2022年比で半数以上の項目に改善が見られ、すべての項目でスコア3以上を達成した。一方で「KPI設定 現状とのギャップ把握」や「経営人材育成の監督」など、依然として課題も残った。

地域へ人的資本経営の波及を

こうした課題を受け、来期の活動目標には「人的資本経営の定着と深化」と「自治体等と連携した地域への波及」の2つが掲げられた。活動のポイントは「地域版人的資本コンソーシアム」の立ち上げだ。

「先進事業の事例を共有し、半年間の実践期間を設けることで各企業の取り組みを後押ししたい。また、自治体や地方経済産業局の協力を得ながら、地域版コンソーシアムを展開し、中堅・中小企業へ人的資本経営の認知を広げていく」(伊藤さん)

2月には、関東経済産業局と本コンソーシアムが連携し、大企業と地域の交流やセミナー、イベント「越境フェス」を開催する予定だ。

AIの進化にあわせ、不可欠となる人的資本経営

左上から時計回りで、キリンホールディングス 磯崎功典さん、リクルート 北村吉弘さん、ソニーグループ 吉田憲一郎さん、日立製作所 東原敏昭さん。 撮影/MASHING UP

次に、日本を代表する企業トップによるパネルディスカッションが行われた。

キリンホールディングス代表取締役会長CEOの磯崎功典さん、リクルート代表取締役社長の北村吉弘さん、日立製作所取締役会長 代表執行役の東原敏昭さん、ソニーグループ取締役 代表執行役 会長CEOの吉田憲一郎さんが登壇し、各社の人的資本経営状況について報告した。

モデレーターの伊藤邦雄さんが「時代の変化に伴い求められるスキルも変化する中で、人材をどう経営戦略に生かすか」と問うと、各氏がそれぞれの見解を示した。

日立製作所 東原さんは「経営戦略と人材戦略は同じであるべき。社会にイノベーションを起こすには、社会課題と戦える主体性と共感力、リーダーシップ、インクルージョンの力が必要だ。これが経営戦略に生きる」と答えた。日立製作所ではさまざまな国籍の人材が活躍しているが、東原さんは、「同属性の強い画一的なチームでは新しいアイデアは生まれない」とあらためてダイバーシティが重要であることを伝えた。

クリエイティビティを重視するソニーグループでの人的資本の捉え方について、ソニー 吉田さんは「創業者が最も大事にしていたのは“好奇心”」とし、「人は常に『意義』を求める。会社や仕事が何のために存在しているのか、その理由を従業員一人ひとりが理解することが重要である。技術や知的財産、知恵、パッションといった無形資産が生み出す価値は、パーパスの実現に直結する」と伝えた。

まさに人材に関わる事業を展開するリクルート 北村さんは、「当社にとって、人材は資本でありビジネスそのものだ。サービス業は基本的に人のアイデアや創造性によって新しい価値が生み出される。サイクルが速いこの分野において、人材、そして日本の人材マーケット全体に価値をつなげる貢献を目指していきたい」と話した。

来期のコンソーシアムの活動について、キリンHD 磯崎さんは、「AIの著しい進化によって、雇用の創出が社会的あるいは国家的な使命になるだろう。これからは、AIを活用し価値につなげることができる人材が必要となる。『何をすればいいか』というある種の主観的な判断が必要になってくるのではないか。人的資本経営の考えも、人材の活用だけじゃなく来期以降はその根源的な課題へアプローチすべきだ」と述べ、AIの進化にあわせてより人的資本への取り組みが喫緊の課題であることを再認識すべきだ、と強調した。

後半のパネルディスカッションの様子。日本経済新聞社コメンテーターの中山淳史さん、アストナリング・アドバイザー代表の三瓶裕喜さん、SCSK代表取締役執行役員社長の當麻隆昭さん、日揮ホールディングス代表取締役社長の石塚忠さん。 撮影/MASHING UP

後半は、企業における人的資本経営の事例紹介をはさみ、最後に、鈴木俊一 内閣府金融担当副大臣がこのように伝え、幕を閉じた。

「本コンソーシアムは、日本企業が人的資本経営を開示の両輪で取り組む場として非常に有意義なものであると考えている。今後も人的資本への投資を促進し、その実践が促された開示が充実することを目指します。また、企業と投資家との間で建設的な対話が生まれ、より望ましい資金の流れを実現する循環の形成に寄与していきたい

取材・執筆・撮影/杉本結美

編集部おすすめ