起業家精神を育てる独自の教育を行う、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)。2024年より武蔵野EMCは、フィリピン、インドネシアのジャカルタ、シンガポール、インドのハイデラバードとムンバイの大学と連携し、グローバル展開を行なっている。
より良い世界を創るために、舞台を“世界”に広げる
伊藤さんは、パーソナルコンピューターの父と言われるアラン・ケイの言葉を『未来を予測する最善の方法は、それを発明することである』を挙げて、「ここにいる皆さん一人ひとりが未来を形づくる上で重要な役割を担っている。共に考えて繋がり、より良い世界を創る旅を始めましょう!」と呼びかけた。 撮影/児玉二郎基調講演では、学部長である伊藤羊一さんが、EMCの卒業生の状況と5年以内に実現したいことを伝えた。
「来月、私たちは初の卒業生を送り出します。60%の学生は就職が決まり、10%は大学院進学や海外進学を目指し、10%の学生は起業します。この“10%の学生が起業する”という事実は、日本の大学にとって注目すべきことです。
残りの20%は留学や個人的なプロジェクトに集中するために卒業を中断しますが、これも大学での経験を最大限に活用するという私たちの目的が反映されています。私たちは5年以内に卒業生の約20%が起業に踏み出せるよう、支援を強化していくつもりです」(伊藤さん)
平石さんの「内向的な日本の学生が世界へ飛び出すためにどうすればいいか」との問いかけに、ストーラーさんは「自信を持って、世界を自分の舞台にしてほしい」とアドバイスを送った。 撮影/児玉二郎また、EMCの教員でシリアルアントレプレナーの平石郁生さんは、ボストン大学クエストロム経営大学院・上級講師のグレゴリー・ストーラーさんとオンラインで繋ぎ、学生たちへのメッセージを伝えた。
「内向的な学生たちに伝えたいことは、世界を“機会”とみなすことです。世界はとても広いですが、努力しなければ狭くなる可能性があります。
東南アジアの課題を捉えたピッチが続々と登場
AI搭載のスマートセンサーで持続可能な農業を実現させる「AgriConnect」をプレゼンしたフィリピンのガメイヨンさん。 撮影/児玉二郎アジア各国の提携大学と日本から選抜された学生による「EMC GLOBAL部門」では、フィリピン、インドネシア、シンガポール、インド、そして日本の11チームの学生による熱いピッチが行われた。
「EMC GLOBAL部門」で特徴的だったのは、水田の害虫をリアルタイムで監視するシステムや農作物流通のプラットフォーム化など、農業に関連したピッチが多く見られ、東南アジアの農業大国が抱える課題が浮き彫りとなった。
最高賞に輝いたのは、フィリピン・アテネオ・デ・マニラ大学のガメイヨンさん。すでに、フィリピンで事業化している、持続可能な農業システム「AgriConnect」を紹介した。AgriConnectは、AI搭載のスマートセンサーで、水田の水位や害虫・病害などのデータを集積。それらのデータを活用して農業を効率化し、収益損失の問題を解決する仕組みだ。
「フィリピンでは害虫や熱波などで、年間2億6400万ドル(約402億円:2025年2月時点)の農業損失を抱えています。純粋にフィリピンの農家の人を助けたいという思いからこのビジネスを立ち上げました。世界中でこれらのエコシステムが導入され、農業従事者の苦労が報われることを願います」(ガメイヨンさん)
糖尿病ケアを新しい形で提案するアプリ「Buddy Betes」を打ち出すフィリピン大学のプリンセス・ベンチャーズさんが、GLOBAL部門「オーディエンス賞」を受賞した。 撮影/児玉二郎次世代に田園風景を繋ぐ「あいづのあいつ」がダブル受賞
第二部の「EMC部門」では、1期生から4期生の10チームが登壇した。
「EMC部門」では、株式会社あいづのあいつが「オーディエンス賞」と、freee株式会社による「『起業時代』賞」の2冠を達成した。
写真左から、EMC教授の粟生(あおう)万琴さん、「あいづのあいつ」の代表・山口奈々さん、柳田宙輝さん。あいづのあいつは、福島県の西会津奥川の米を使った「おむすび屋『結』」を通じて、会津の田園風景を次世代に繋ぐ地域継承プロジェクト。定住人口でなく、観光による人口ではなく、地域と関わる人々の数を「関係人口」と示すが、自らも「関係人口」という代表の柳田宙輝(ひろき)さんと山口奈々さんの働きかけにより、西会津奥川の関係人口が拡大。彼らの活動は数々のメディアに取り上げられてきた。
「西会津に止まらず『〇〇のあいつ』を全国各地に広げたい」と意欲を見せる。その一方で、目標を達するためには地力が必要だと感じ、二人は卒業後、一般企業に就職するのだという。
「活動する中で、お米をブランディングするためには、マーケティング力が必要だと感じました。プロの世界で力をつけるために、デジタルマーケティングの企業に就職します。スキルをつけて強くなったらまた、『あいづのあいつ』に専念したいと思っています」(山口さん)
大賞受賞の「Wilup」は、EMCの学びを糧に世界へ羽ばたく
写真左から、EMC教授の岩佐大輝さん、「Wilup」代表の宇野瑚太郎さん、原田弘脩さん。 撮影/児玉二郎2025年のファーストプライズ「EMCアワード」が授与されたのは、株式会社Wilup。EMCの学びを中高生向けに提供する探求学習プログラム「Wilup」を手掛けている。
審査員の岩佐大輝さんは「素晴らしかった」と総評を送った。「3つのポイントで審査をしました。
Wilup代表の宇野瑚太郎さんと原田弘脩さんは、「EMCの4年間で学んだことは、行動することで未来が変えられるということ。世界で通用する起業家を目指して頑張りたい」と今後のビジョンを語った。
高校生の大学進学時のミスマッチをなくすサービス「クラビジ」を運営する、1年生の村上弓太郎さんがEMC特別賞を受賞した(右)。 撮影/児玉二郎「EMC GLOBAL SUMMIT」は、ピッチ以外にも、ポスターセッションなどを通じて、世代を問わず、さまざまな人たちの情報共有が行われた。小さなことから大きなことまで、世界には解決すべき課題が山積している。それらを斬新な発想で打破しようと挑む大学生らから希望が感じられた。彼らが世界中で活躍する姿を期待したい。
[ 武蔵野大学 EMC ]
取材・文/石上直美