「ニューロダイバーシティへの理解は、一人ひとりが強みを生かせる社会の実現につながる」──こうした考えを実践するのが、京都大学経営管理大学院の客員准教授であり、ブレインヘルスケアエコシステムの研究を行っている大塚泰子さんだ。

2025年2月12日に開催された「MASHING UP オンラインセミナー Vol.22 ニューロダイバーシティ 脳から読み解く多様性」では、ニューロダイバーシティの観点から、多様な特性を持つ人材の採用や維持、アンコンシャス・バイアスへの対処など、企業成長に活かせるヒントを詳しく聞いた。

脳が健康な人ほど、共感性と意欲が高い

大塚さんは、京都大学経営管理大学院の客員准教授を務める一方、約20年にわたり経営コンサルティングにも携わっている。元々は前職で出会った人物が、脳の健康度を定量的に測る指標「BHQ(Brain Healthcare Quotient)」を開発したことをきっかけに、認知症の研究から始まり、脳とビジネスを掛け合わせた研究に関心を持つようになった。

定量的に脳の健康度を測るBHQ指数で示す、年齢と脳の萎縮の相関図。右のグラフは横軸が年齢、縦軸が脳の健康度を表している。20歳を過ぎると脳は萎縮していく。 資料提供/大塚泰子

BHQの研究を通じて大塚さんが注目したのは、脳の健康状態には個体差が大きい点だ。

例えば、同じ40~50歳でも、20歳並みに健康な脳を持つ人もいれば、すでに80歳相当まで萎縮している人もいる。

一方で、脳の健康を維持する方法についても研究が進められている。BHQが高い人は、どのような食生活を送り、社会とどう関わり、どんなマインドセットを持っているのか。それを明らかにすることで、脳の健康を維持し、ビジネスにも活かせる可能性があると大塚さんは考える。

どのようなアクションがBHQへネガティブな影響、またはポジティブな影響を与えるのか明らかになっている。 資料提供/大塚泰子

また、ストレスや身体の健康状態がBHQに与える影響や、脳は萎縮し続けるだけでなく、回復する可能性もあるということが明らかになった。

「脳がどんな要因で回復するのか。

これは希望のある研究領域です。また、因果関係を考えると、脳が健康な人ほど意欲が高く、共感性も高いことが先行研究で示されています」(大塚さん)

「偏見がある自分」を理解することから

人間の脳の反応なので、完全にバイアスなくすことは難しい一方で、組織の仕組みを変えていくことでバイアスやステレオタイプは防ぐことができる、と大塚さん。

大塚さんの研究メンバーが公開したBHQ Actionsでは、脳を健康にするための18のアクションが示されている。そのなかでも大塚さんは、「多様性を受け入れること」が脳を健康にしていく一つの要因であることに着目し、研究をすることに。

大塚さんはニューロダイバーシティを、「一人ひとりの違いをリスペクトし、それぞれが活躍できること」と定義している。この定義をもとに、脳の基本的な働きを理解し、偏見やステレオタイプがなぜ生じるのか、そしてそれをなくすために何ができるのかを考えることが重要だと指摘する。

「脳は瞬時に人や物事を判断する傾向があります。また、1日に消費するエネルギーの約20%が脳の活動に使われており、できるだけ省エネモードで働こうとするのです。だからこそ、人にラベルを貼ることは、脳にとって省エネ=効率的なのです」と大塚さんは説明する。

しかし、脳はその後すぐに前頭葉が合理的な判断を下す機能を持っている。たとえ瞬間的に自分と異なる相手に対し、「嫌だ」「怖い」と感じたとしても、それを抑制し、合理的に考え直す力も備えているのだ。

「この研究結果から言えるのは、まず自分もバイアスを持っていることを理解すること。その上で、どう行動するか、そして 合理的な判断をどう活かすかが重要だということです」(大塚さん)

セミナーでは、このほかにも、

  • ステレオタイピングが脳に与える影響
  • ニューロダイバーシティをビジネスに生かすには
  • 環境の変化と脳やパフォーマンスの関係

などのトピックスを紹介。

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