そう語るのは、立教大学体育会女子ラクロス部「ULTIMATES」で外交窓口とリーダーを務める新3年生の金子さんだ。 ULTIMATESは、「ずっと強い立教」、「社会で活躍する女性を輩出する」という理念を掲げ、日本一を目指す強豪チームである。
全日本大学選手権の常連校であり、2019年には創部史上初の大学日本一を、2023年には準優勝を果たしている。 そんなULTIMATESの強さの礎となっているのが、多様性を活かした組織づくりだ。 今回は、金子さんをはじめ、3名のメンバーにULTIMATESが築いてきた文化、自身の役割やチームにおける多様性の重要性、そしてULTIMATESでの経験が社会でどのように活かせるのか、将来の展望について話を聞いた。
さまざまなかたちでチームの勝利に貢献できる
ULTIMATESには現在170名の部員が所属し、代表チーム、サブチーム、スタッフチームの3つに分かれて活動している。経験の有無にかかわらず、希望するすべての学生が入部できるという方針のもと、大所帯組織が確立されている。
この体制には、「誰もが自分の強みを生かし、チームの勝利に貢献できる場をつくる」という狙いがある。試合に出る機会が限られたメンバーであっても、全員が自らの役割を見つけ、活躍できる環境づくりがULTIMATESの特徴だ。これこそが、部員全員で日本一をめざす「立教スタイル」である。
社会でも生かせる人材の育成
副将、ASとして活躍する神子さん。試合中にMacを用いてプレーを細かく分析。試合の流れの分析結果から見れる課題や改善点を選手に伝えたり、試合後のミーティングで議題にあげる。スタッフチームの一例として、「Analysis Staff(以下、AS)」と呼ばれる分析担当が存在する。
副将でありASの一員として活躍する神子さんは、「ASを希望するメンバーの中には、データに興味がある人もいれば、選手として試合に出場するのではなく、分析という形で日本一という目標に貢献したいと強く思う人も多くいます。公募制によって一人ひとりの考えを尊重できるからこそ、全員が一丸となって試合に挑めるのだと思う」と話す。
さらに、カメラ担当、イベント運営、リーグ戦運営など、多様な分野でリーダーシップを発揮できる機会がある。イベント運営では、他大学との協同を企画するなど、試合外でも主体的な活躍が求められる。
取材の際、ヘッドコーチの佐藤壮さんは「取材は全部彼女たちに聞いてください。全て自分たちで話せるので」と話していた。部員一人ひとりが自らの将来像を思い描き、主体的に行動する力を育み、ULTIMATESで培った経験が、卒業後の社会でも活かされるような人材の育成をめざしているのだ。
ブレない軸と多様性でチーム力を高める
立教大学体育会女子ラクロス部「ULTIMATES」で外交窓口とリーダーを務める新3年生の金子さん。 画像提供/ULTIMATES外交窓口を担当し、リーダーでもある金子さんはラクロスの未経験でULTIMATESへ入部。ほかのスポーツでは経験者ばかりが活躍しがちだが、ULTIMATESには未経験者も多い。
元々人とコミュニケーションを取ることが好きだった金子さんは、その特性を生かして外交窓口を担当。ULTIMATESでの活動を通して、ラクロスの枠を超えた貴重な経験を積み、日々学びが多いことが喜びの一つになっていると話す。「外交窓口として多くの企業の方々とやりとりをするなど、他の大学の部活動ではなかなかできない経験ができています」
ULTIMATESの活動内容やチームならではの組織づくり、文化を丁寧かつ熱心に教えてくれる金子さん。「ULTIMATESでは全員に活躍できるチャンスが与えられます。自分にできること、自分ならうまくできることを見つけ、自分の裁量で考えながら取り組むことができる」と語る。そうして得られる達成感や成功体験、自信がチームへ貢献したいという思いを強くする。一人ひとりがその思いを積み重ねていくことで、お互いに支え合い1つのチームとしての結束力を高める。
一方で、日本一という共通の目標に全員が挑むなかで、互いの個性や特性を尊重することは簡単なことではない。また、多様なメンバーがいることで価値観や意見のぶつかり合いも生じるだろう。しかしその時は、メンバー全員で「ULTIMATESのめざす姿」を見つめ直し、徹底的に話し合うこと、両方の意見をまずは受け入れ、やってみることを重視している。
「多様なメンバーをまとめることに難しさは感じていません。自由さと『レールから外れること』は明確に異なります。ULTIMATESのメンバーは、過去の先輩が築き上げてきた伝統を誇りにし、それを継承しています。その土台の上で多様性を大切にしているので、軸は常にブレず、イキイキと活動できるのです」(金子さん)
ULTIMATESで見つけた将来像
4年生の宮原さんと小川さん。チームでは自分らしい役割を見つけることができたと語る。4年生で代表チームの選手として活躍する小川さんと宮原さんは、「社会で活躍する女性を輩出する」というULTIMATESの理念をどのように捉えてきたのか。また、その理念のもと活動してきた経験をどうキャリアに生かせると考えているのかを聞いた。
社会における女性活躍について考えるようになったのは、ULTIMATESに入部してからだと小川さんは振り返る。「入部当初は部活動って目標のためにただ目の前のことに取り組むんだと思っていました。でも、このチームにはさまざまな役割やプロジェクトがあり、そうした経験が、高い意識を醸成し社会でも大切になるのではと気づきました」
宮原さんは、選手であるかたわら、ULTIMATESの中でラクロス協会の新人委員として活動。大会の企画から運営までをこなしている。一人ひとりが活躍できる環境だから「認められている」、「一人じゃない」と感じることができ、その達成感や包括性がチームワークに繋がっていると話す。
「ラクロスはパスをつなげていくスポーツなので、信頼関係がすごく大切なんです。170名もいれば、誰かは不安や悩みを抱えていたり、お互いのコミュニケーションが不足しているとプレーにも影響が出てしまいます。誰かの悩みに耳を傾けるだけで、その人の意識や行動が変わり、チーム全体の雰囲気も良くなると思います。自分の立場としては、誰にとっても話しやすい存在になり対話を循環させ、それがプレーにも生きればいいなと思っています」(宮原さん)
また、そうした環境のなかで、おのずと将来の理想像や自分のめざす在り方が見えてくる。ULTIMATESでは、チームの勝利だけでなく、個人の成長や将来のビジョンを大切にする文化が根付いている。
「みんなを巻き込んでチームの士気を上げたり、外部への発信力を高めていく。そんな人になれたらと思っています」(小川さん)
小川さんと宮原さんは、これまでの活動で得た発見や経験を繰り返し「ULTIMATESにいたからこそ」だと語る。自ら役割を見つけ、考え、体現する。ULTIMATESは、一選手としての成長だけでなく、人としてのあり方を教えてくれる唯一無二のチームである。
取材、文、撮影/杉本結美