Business Insider JapanとMASHING UPは、女性や若手を中心とした起業家向けのアクセラレータープログラム「MASHING UP アクセラレーター」をスタートしている。
関連プログラムとして、2025年3月18日に、起業における課題や成長の道筋を学べるスペシャルイベント「若手起業家が語る『起業のリアル2』— スタートアップの開発秘話」を開催。
このセッションは、「起業に挑戦したいが自信がない」「創業準備中だが次のステップが見えない」「ビジネスを成功させるヒントがほしい」と考える人にとって、大きな刺激となる内容となった。
アクセラレーター応募はこちら実体験があるから生まれた起業のアイデア
木の実であるカポックの綿を用いて軽くてあたたかいダウンジャケットを展開するKAPOK JAPAN代表取締役の深井喜翔さん。創業6期目となる同社の代表取締役を務める傍ら、家業である創業79年のアパレルメーカーの4代目として事業に従事している。 撮影/中山実華家業があるなかで起業を決意した深井さん。そのきっかけは、あるアクセラレータープログラムへの参加だった。
このプログラムでは、参加者100人のうち20人にシリコンバレーへ行く機会が提供されており、深井さんはまずクラウドファンディングで実績を作り、見事に参加資格を獲得した。シリコンバレーを訪れると、現地ではスタートアップから上場後の企業から多くの学びを得ることができ、多くの起業家たちが挑戦を続けている姿を目の当たりにし、大きな刺激を受けたという。
一方、橋本さんは当時、IT企業の受付としての仕事を楽しみ、「天職だ」とさえ感じていた。しかし、ある出来事をきっかけに、起業という選択肢を意識するようになった。
「受付業務をしていると、新規のお客様は全体の2割程度で、残りの8割は定期的に訪問されるお客様でした。そのたびに、毎回名前などの情報を記録してもらう必要があったのです。 また、受付では1日に数えきれないほどの電話をかける必要がありました。
さらに、当時働いていた会社が受付システムを開発する際、受付業務を担当する橋本さんらへのヒアリングが一切行われなかったことにも、違和感を覚えたという。 「現場の声を反映しなければ、本当に良い課題解決型のプロダクトは生み出せない。このプロダクトは、私にしか作れない。そう確信しました」
当時、女性起業家は日本では今より少なく、起業家を支援する環境もまだ整っていなかった。それでも、コツコツと一歩ずつ前に進みはじめた。起業を決意した後、橋本さんは職場を円満に退職するため、お世話になった人々への挨拶を欠かさず行った。同時に、資金調達やプロダクトを共に開発し、事業を成長させていく仲間集めにも取り組み、これらすべてを1年で成し遂げた。
「初期の支援者はどのように集めたのですか?」と深井さんが尋ねると、橋本さんは 、「できるだけ多くの支援者とつながるために、SNSを最大限に活用し、また、エンジェル投資家へのアプローチも積極的に行なった。さらに、当時の職場の関係者にもアイデアを聞いてもらい、背中を押してもらうこともあった」と述べる。
起業には、人とのつながりを築くことや、アクセラレーターを活用した情報収集など、能動的に行動することが不可欠なのだ。
アクセラレーター応募はこちら創業時から今までに直面した課題は?
iPad一台で来客受付の自動化が可能なクラウドサービスを展開するRECEPTIONIST代表取締役兼代表執行役員CEOの橋本真里子さん。創業10期目に入る同社立ち上げは、自身の受付としての経験からヒントを得て起業を決意した。 撮影/中山実華 家業の後継ぎとして期待されていた深井さんにとって、家族の理解を得て納得してもらうことは大きなハードルだったという。
当時、部長を務めていた深井さんが突然起業を宣言したことで、家族を説得するには時間を要した。しかし、シリコンバレーへの渡航、ピッチコンテストでの優勝、さらにはメディア露出の増加といった実績を重ねるうちに、次第に家族からの理解を得ることができた。
「自分の事業がいかに優れてるかをただ言葉にするだけでは、まわりを説得するのは不十分。第三者から得た評価を示すことではじめて目を向けてもらえるのだと感じました」(深井さん)
現在、深井さんは家業にも関わりながら、自らの事業も続けている。それは、一方の事業で得た経験や知見をもう一方に生かせるからだ。 また、異なる事業を並行して進めることで、トライアンドエラーを重ねやすく、「失敗から学ぶ」というマインドセットを確立しやすい。
橋本さんは、創業当初の資金調達に苦戦したと振り返る。資本政策や契約書の知識が乏しく、わからないことばかりだったため、ひたすら勉強を続けたという。 悩み、迷いながらもエンジェル投資家に協力を仰ぎ、弁護士を紹介してもらうなどして信頼関係を築きながら、一つひとつ乗り越えてきた。
「わからないことがあれば、素直に聞くことが非常に大事だと思います。 また、私が特に意識したのは、レスポンスの速さです。時間がかかる返答であっても、少なくとも『確認しています』とすぐに伝えるようにしていました。
深井さんは、アドバイスや意見をもらえることは非常に貴重だとしつつも、こう述べる。 「すべてのアイデアを形にすることはできません。いただいた意見も、しっかりと検証することが必要です。その際に、『この人の言うことは信じよう』、『この人から出された宿題だけは必ずやろう』と、自分なりの軸を持つことも大切だと思います」。意見を真摯に受け止め、自分なりに咀嚼することで、どうすればよいかの答えが見えてくる。必ずしも言われた通りに行動するのではなく、自分の解釈を踏まえた上でアウトプットし、その意図を説明できれば十分だと話す。
事業を成長させるメンバーとの信頼関係
参加者からも様々な質問が寄せられた。 撮影/中山実華当初、地方で事業を行っていた深井さんは、事業を大きくしたいという想いと「社会に貢献しながら良いビジネスを作りたい」というソーシャルビジネスの精神が、自身の中で強く混ざり合っていた。東京へ進出し、さまざまな賞を受賞し、メディアにも取り上げられるなど、表向きには順調に見えたが、「自己認識が甘かった」と当時を振り返る。
「メディアに取り上げられる際、どちらかというとソーシャルビジネスの側面ばかりがクローズアップされていたんです。 その結果、自分自身も気づかぬうちに、ある種『綺麗なピエロ』を演じていたように思う。 私たちは『生産者と消費者、そして環境のすべてがサステナブルな世界を目指します』と掲げていましたが、ある時社員のメンバーに、『その生産者に、従業員である私たちは含まれていますか?』と問われました。
その言葉に、ハッとさせられました。理想を掲げるのは簡単ですが、スタートアップとして立ち上げたばかりの状態では、正直「そこまで手が回らない」という葛藤がありました。その葛藤に改めて向き合わせてくれた仲間には感謝していますし、 事業の方向性についての自己コントロールの甘さに気づけたのも、彼らがいたから」(深井さん)
橋本さんは、なぜこの事業を行うのか、その意義は何か、そしてなぜ自分が代表であるべきなのかを共有し、チーム全体の認識を合わせていくことが、徹底して続けるべきだと述べる。
深井さんはまた自分よりも優秀な人材を見つけてくることも経営者として必要な能力だとし、また突出した能力がある人は、学び続ける意欲もあるだろうと話す。
最後に、起業してよかったことについて深井さん、橋本さんはこのように語る。
「生きてる感じがします。自分の中にあるエネルギーをどこに、どのように発散すれば良いのか、ずっと悩んでいた時期があった。言われたことだけを頑張るのではなく、自分の意思で熱量を持って取り組むことができている。それが生きている実感につながっている気がします」(深井さん)
「起業は確かに大変なことや辛いことが多い。でも、やらなきゃよかったと思ったことは、一回もないんです。普通に生きていたら出会えないような人、行けないような場所に行けたり多くの経験ができるのも、起業家だからこその利点だと思います。
プロダクトを開発し、それがあらゆる場所で使われるようになると、やりがいや達成感をひしひしと感じます。
MASHING UPアクセラレーター応募は3/28まで!
右から、KAPOK JAPANの深井喜翔さん、RECEPTIONISTの橋本真里子さん。MASHING UPの遠藤祐子がモデレーターをつとめた。 撮影/中山実華MASHING UPアクセラレーターは、シード・アーリーステージの起業支援に注力し、基礎から応用まで体系的に学べる実践的なコンテンツを提供します。さらに、業界のトップリーダーや投資家とのつながりを築く場も用意しています。
MASHING UPアクセラレーターのエントリー締め切りは2025年3月28日まで。起業に興味がある方から、事業の可能性を広げたい方まで、多くの方の挑戦を応援します!
アクセラレーター応募はこちら取材・文/杉本結美