撮影/高木亜麗

「健康経営優良法人ホワイト500」 において8年連続4位という SOMPOひまわり生命。保険業界では1位に輝いた。

同社は、CHROの野田美智子さん率いる人財開発部の独自施策によって、「全社員が働き甲斐のある企業へ」と躍進を続けている。野田さんは2023年から初めて人事担当に。営業、広報などさまざまな部署を経験してきたからこそ、「従業員が働きやすくなるために」という思いも強い。今期は自律的キャリアを支援する業界初の「 ひまわりMYパーパスキャリア制度 」をスタートさせ「自律型人財の育成」を目指している。野田さんならではの視点、そこに込めた想いを聞いた。

女性活躍は当たり前の企業風土に

野田美智子(のだ・みちこ) SOMPOひまわり生命保険株式会社 執行役員 CHRO 人財開発部長 SOMPOひまわり生命保険株式会社名古屋支社に営業事務として中途入社。東京本社に転勤してからは主に社内業務改革を担当。管理職として、システム、内部監査、営業、広報とさまざまな業務に従事し、2023年から現職。自身のパーパスは「メンバーが、まずやってみようと勇気の一歩を踏み出し活躍できる、そして個人ごとさまざまな制約がある中『やりきった』と胸を張ってもらえる環境をつくること」。 撮影/高木亜麗

──まずは野田さんの、これまでのキャリアについてお聞かせください。

野田美智子さん(以下、野田): 入社後、営業やシステム、内部監査、広報を経験し、マネジメント職に就いたのは女性活躍が謳われ始めた2016年。2023年、CHROに、というお話がきたときは驚きましたし、「人事の経験がないのに……」と迷う気持ちもありましたが、これまでいろんな部署を経験したこともあり、各部門の課題や悩みも把握していました。会社がどういう方向に向かうと社員が活躍できるか、ということはなんとなくわかっていたので、従業員の皆さんの活躍のためにやってみようかと辞令を受けました

──日本企業で女性のCHROはまだまだ少ない印象ですが。

野田: SOMPOホールディングスでは、4社のCHROが女性です。会議は自由に発言ができる雰囲気で、積極的に意見交換できる環境にあります。この空気感は非常に重要かつ、カルチャー醸成に有効だと感じています。

弊社ではこれまで女性活躍を後押しするプログラムを何年もかけて行ってきました。マインドセットや視座を高める研修、いろいろな人との交流などを行い、価値観を少しずつ変えていってもらった結果、いわば「女性活躍は当たり前」の状態になっています。女性管理職比率30%を掲げていますが、すでに29%超え。本当は50%を目標にしたいところです。現在は「女性活躍支援のプログラムはもう不要なのではないか、あるいは女性に限らず、男性も一緒に受けてはどうか」という議論をしている段階にあります。

自律的キャリア形成を後押しする人事制度とは?

撮影/高木亜麗

──現在の人事戦略の軸となる人事制度「 ひまわりMYパーパスキャリア制度 」はいつから開始されたのですか?

野田:この4月から、人事異動に新しく「 ひまわりMYパーパスキャリア制度 」という制度を導入しました。これは自律的なキャリア形成を後押しする「全社員参画型」の人事制度です。MYパーパスとは、「自分自身の人生の意義や目的」あるいは「働く意義」を指します。これまでの会社主導型ジョブローテーションではなく、自身で次のキャリアを選択するというものです。

具体的には、以下の5つのコースになります。

「ひまわりMYパーパスキャリア」制度

  • 「他部署チャレンジコース」は新たな部署にチャレンジしたい社員が対象です。
  • 「スカウトコース」は応募者の「ひまわりMYパーパスキャリア」制度に共感した部署が応募者にオファーするもの。もちろん「知識・スキル」「経験・経歴」「実績」を見てのオファーになります。
  • 「マネジメントチャレンジコース」は課支社長ポストへチャレンジしたい社員が対象。部門問わず、チャレンジが可能です。
  • 「自部署チャレンジコース」は、現在の所属部署で引き続き活躍したい社員が対象。ポイントは、現在の部署で引き続きチャレンジしたい業務を明確にし、その理由も明確にすることです。「なんとなくそのまま残る」ということはできません。
  • 「一般コース」は、いわゆる会社主導型のジョブローテーション。私のキャリアはまさにこれですが、さまざまな部署を経験し、活躍したい人が対象です。

もちろん、全員が希望通りに異動できるわけではありませんが、希望が通らなかった人は次のチャンスに向けてスキルを磨いたり、成長をするきっかけになります。何より「自分がどう働きたいか」ということを考える機会になることが、自律的キャリア形成の支援になると考えます。

ユニークなのは、他部署チャレンジ、スカウト、マネジメントチャレンジの各コースは応募者(従業員)が2つの部署に挙手できること。優秀な人材はどの部署もほしいので、受け入れる部署側も自部署の魅力をアピールするわけです。お互いが努力しないとマッチングしないというわけですね。今年から複数合格ありという人事異動制度を用意しました。

この 「ひまわりMYパーパスキャリア」制度 は毎年実施の予定で、コース変更も可能。ライフスタイルに合わせて希望を変更することもできます。年2回、1on1を実施してコースを決めてもらいます。自分がどうなりたくて、どんなときに幸せを感じて、どんな風に働きたいか。これまで以上に考える機会になっており、社員からの反響も良い手応えです。来年4月の人事異動に反映されますので、皆さんにとって最善の結果になるよう、このさきは人財開発部のがんばりどころですね。

──社員の皆さんにとってはとても良い機会だと思いますが、マネジメント側の負担などは課題になっていませんか?

野田:社員のエンゲージメントを高めることがマネジメントの仕事だということ、一緒に働いているメンバーの成果を出すことが重要な業務だということは、既にしっかり浸透しています。そのため、 社員の成長を後押しする業務 を負担に感じるという声はありません。

マネジメントを全員集めて「経営塾」という研修を行っており、今年は「自律的キャリアの支援」をテーマに行いました。マネージャー層への理解が浸透しているので、1on1など、キャリア面談に時間を割くことにも積極的です。

──ということは、面談を行う際の心理的安全性も高いとお見受けします。しかし「ただ優しい組織」では生産性の低下やぬるま湯になるという議論も耳にします。

野田:心理的安全性に関しては、ほとんどの人がしっかり配慮できているのではないでしょうか。でも、自由に発言してよいこととぬるさはまったく違うことだという意識合わせはしています。「働きやすさ」がある中で「働きがい」を高めていくこと、自分の仕事が会社の中でどの役割を担っているのかをしっかり理解してもらうようにしています。これらの研修は3、4年前から継続して実施しています。

意見を取り入れるカルチャーに。採用面でも優秀な人材が集まっている

撮影/高木亜麗

──DEIの推進によって、良い変化はありましたか?

野田:女性活躍はじめ、多様性や心理的安全性の確保で「いろんな意見を取り込もう」というカルチャーになってきています。当社は日本でいち早く「週休3日」制度をスタートさせ、多くの取材もいただきましたが、ほかにも時短制度やフレックス、プレミアムフライデーなど多様な施策を実施しています。 それがホワイト500に8年連続で選ばれている理由だと思いますが、 マネジメント層に女性が多いことで実現している側面もあるのではないでしょうか。

昔は「上司の指示を待つ」ことが多かったように思いますが、今は会社を良くしていくための意見は上下関係なく発言し、取り入れようという組織風土です。人数が多いほど、いろんな知恵が集まり、アイデアも出てくるし、社員のやりがいにもつながっていますね。 採用面でも非常に優秀な人材が集まるようになってきたと実感します。新卒や中途採用市場でも、当社を選んでくださる人が増えてきましたね。

──障がい者採用、LGBTQ+についてはいかがでしょうか。

野田: 障がい者採用に関しては、当社としては法定雇用率をクリアしていますが、本質的には法定雇用率をクリアすることが目的ではありません。雇用することが目的ではなく、どうすればみんなが活躍できるのかを考えることが重要。ご家族が安心して送り出せる職場でありたいと思っています。 今は求人の段階で職種を開示するように募集方法を変え、活躍している方はどんどん昇給もするように制度を整えました。

LGBTQ+に関しては、まずは制度面を整備。新オフィスにはジェンダーレストイレも導入しました。必要な方が困らないように、当たり前に使えるように制度をさまざま用意している、という段階になります。

──では最後に、今後の展望をお聞かせください。

野田:まずは 「ひまわりMYパーパスキャリア制度」 を活用した人事異動の制度がうまく軌道にのって、全社員が活躍できる職場になることです。 希望が通らなかった人が「応募しなければよかった」という気持ちにならないように、 先読みして手を打たなければならないし、軌道修正も必要になってくると思いますが、幸せで働き甲斐を感じる社員でいっぱいになってほしいですね。そして、 SOMPOグループ全体を引っ張っていける存在になるように、さまざまな施策の指標を上げて、クリアしていきたいと思っています。

聞き手/遠藤祐子、執筆/島田ゆかり、撮影/高木亜麗

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