撮影/MASHING UP

2024年8月22日、パナソニック コネクトで「障がい体験会」が実施された。「障がい体験会」は、同社が昨年度実施した生理痛体験と同様のマイノリティ体験の一環で、マジョリティのマインドセットを変革する、DEI推進における取り組みの一つだ。

毎年9月は「障害者雇用支援月間」でもあり、参加する役員が障がいのある人々の日常を体験することで、かれらが直面する課題や困難への理解を深めることを目的としている。

DEIは上層部が変わらなければ進まない

聴覚障がいの体験。身振り手振りを大きく、表情や唇なども動かしながらコミュニケーションをとる様子が伺えた。 撮影/MASHING UP

体験会に参加したのはすべて役員だ。なぜ、上層部が対象なのか。そこには、DEIを組織全体に浸透させるためには、まず役員が意識を変える必要があるという思いがある。今後は様々な拠点で一般社員向けにも体験会を実施していく。

「障害者手帳アプリ」などを展開するミライロの滝田裕一さんらを講師に迎え、障がい体験がスタートした。最初に行われたのは「聴覚障がい体験」。二人一組のペアになり、片方がイヤーマフを装着する。もう片方は事前に出されたお題を、声を出さずに正確に伝えるというもの。日常で頻出するようなお題に対し、参加者は指で数字を表現したり、車を運転するようなジェスチャーをしたり、時に絵で表すなど、さまざまな方法で意思を伝えた。

大事なのは会話。
コミュニケーションが安心感に

目隠しをしながら、段差を超えたり、背丈のあるいすに座る。サポートする方は、相手にどのようなオブジェクトがあるか、正確に伝えなければならない。 撮影/MASHING UP

次に行われたのは「視覚障がい体験」。こちらも二人一組となり、片方が目隠しをつけ白杖を持ち、もう一方が歩行をサポートしながらオフィスを歩く。

段差がある場所では「30cmくらいの段差です、足をあげてください」と、より具体的に、数字を用いて伝えようとする人も。滝田さんは体験後、次のようにアドバイスをした。

「皆さんも意識されていたように、コミュニケーションを取る際は、数字や方角など、より具体性のある表現を使うことが重要です。また、ひと言声がけをしてから、肩を叩く。いきなり体を触られたら、怖い思いをさせてしまいます」(滝田さん)

選択肢を提示することも大事だという。オフィスでそのような状況になったときでも、押しつけや決めつけをせず、相手がどうされたいかを確認し、相手の意思を尊重した対応を心がけることを伝えた。

「ネガティブな感情を抱いてほしくない」

車いすでスロープを上るのに苦戦する姿が多く見えた。「難しい」「上がらない」「こんなに大変なのか」などの声が飛び交った。 撮影/MASHING UP編集部

最後は「車いす体験」。

この体験の大きな気づきとなったのは、スロープを車いすで上る難しさだ。1、2mほど距離をとり、勢いをつけて上る。一見スムーズに見えるが、ほとんどの人が上りきれず、後方に下がってしまった。

また、参加者からは、「押し引きのドアだと開けるのが大変」、「エレベーターや自動販売機のボタンは手が届かず押すことができない」などのオフィス環境に関する課題点も上がった。

参加者からは、このような声も上がった。

「車いすに乗っているときに、他の人とエレベーター付近ではち合わせた。『自分はその人の邪魔になってしまっているのでは』という気持ちになった。普段、車いす生活をしている人がそのような想いを抱くことがないよう、接し方やコミュニケーションに気を配りたい多様な人にとって生きやすい社会について、あらためて考えさせられた

本当に困っている状況を知ることから始まる

左から、山口有希子さん、樋口泰行さん、西川岳志さん。 撮影/MASHING UP

パナソニック コネクトは、2018年よりDEI推進を経営戦略の柱の一つとし、社内研修や講習会に加え、企業同士の勉強会を開いたりなど、社内外問わず活発に活動を行っている。2024年の東京レインボープライドには、最上位スポンサーとして参加している。

今回の「障がい体験会」について、代表取締役CEOの樋口泰行さんは、「パナソニック コネクトは人に優しい会社であること、企業として強烈な競争力をつけることをめざしています。

このトーンが組織全体に染み渡り、社員に届くと、大きな力となる。今日の様子を見て、働きやすい環境を作ろうという想いを持つチームになっていると実感しました」と述べた。

CMO兼DEI推進担当の山口有希子さんは、「生きづらさや働きづらさを抱える人にとって、本当に困っている状況とは何か。それを知ることからすべてが始まると、あらためて感じた」

優しさとは人の痛みや困難と対峙し、理解を深めることである、と強調する山口さんの言葉に、CFO兼DEI推進担当の西川岳志さんは、「実体験が行動を起こす一歩につながる」と続ける。

「困っている人がいれば、大多数の人が『サポートしたい』と思うはず。でも、その次の行動を起こせるか──。今日のような体験の場が、その一歩の後押しとなります。そういった社員がもっと増えれば、他の人も真似するようになる」(西川さん)

インクルーシブな会社であるために、今後も一人ひとりの課題に向き合っていく。

最後に3名は、「障がいのある人はもちろん、あらゆる人のチャレンジを体験する機会をDEI推進室でつくっていきたい」と柔らかい笑顔で、力強く語った。

(当記事はMASHING UP賛助会員の活動を伝えるものです。)

取材・文/杉本結美

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