「変化球も頭にはあったけど、いろいろと考えずにシンプルに前に飛べばいいというような意識。オレが決めるとかそういう力みはなく、無意識の中でいい結果をつくれたと思う」とヒーローは試合後、白い歯をのぞかせた。
プロ11年目。初のサヨナラ打だけに「どういうリアクションをとればいいか、いまいちわからなかった」と笑う。そしてアマチュア時代にサヨナラ打を打ったことがあるかとのメディアの問いに「記憶にないですね。わからないです。調べてみてください」と笑顔で返した。
頼れる選手会長はチーム全体に目配りをする。そしてチームスタッフへの配慮も忘れない。1年のスタート。石垣島春季キャンプ最初の休日前夜のことだ。宿舎内を大きな段ボールを抱えて歩き回る中村奨吾の姿があった。チームスタッフ一人一人の部屋の前に特製のウォーターボトルを置いて回っていた。ボトルと共に直筆で「いつもありがとうございます。背番号『8』より」というメッセージの紙も添えられていた。
これは毎年恒例。日ごろ、バックアップしてくれる裏方への感謝の想いから行っているプレゼントだ。昨年はオリジナルタオル。ランニングシューズやサングラスの年もあった。
25年、意識はないと言うが笑顔のシーンが多い。強い責任感からチームの勝敗を背負い込み、表情が硬くなることも多かったが、今年はどちらかというと温厚な表情でグラウンドに立っている。11年目、32歳。たどり着いた境地のようなものを感じる。ただ、心はいつも熱い。誰よりもチームの勝利を喜び、負けると悔しさをにじませる。今年こその強い想いを胸に背番号「8」が突き進む。チームのためにプレーした先に選手、首脳陣、スタッフ全員で分かち合える歓喜の瞬間が待っていることを信じている。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)