これぞ交流戦の醍醐味だ。プロ3年目の田中晴也投手が初めて経験する交流戦の舞台で、まるで野手のような打撃を見せた。
6月7日、バンテリンドームでのドラゴンズ戦。マリーンズの勝ち越し打は自らの打撃で生まれた。
 五回無死満塁。1点ビハインドの場面ながら絶好の状況で打席を迎えた。初球だった。少し落ちるボールを見事に逆方向にはじき返すと、走者2人が生還。一時は勝ち越しとなるタイムリーを記録しスタンドを沸かせた。マリーンズの投手による安打は2023年6月15日、ドラゴンズ戦での美馬学投手以来。タイムリーとなると14年6月4日、ドラゴンズ戦の古谷拓哉氏以来、11年ぶりの出来事となった。
 「三振でもいいやくらいの気持ち。振らないとなにも始まらないと思ったので、初球から積極的にいこうと思っていました。たまたまです。
変化球来るかなあと思っていました」
 クレバーな読みを見せた。1打席目にフォークで三振に終わったことを想定に入れて、落ちる球に照準を合わせていた。「3球、投げられて、1球、狙い通りに来てなんとか当たればいいやくらいの気持ち」と振り返る。サブローヘッドコーチから「三振していいから思いっきり振ってこい」と送り出されたことで、気持ちも楽になった。その初球、狙い通りに落ちる球に反応し左前にはじき返し、一塁ベース上で笑顔を見せた。
 高校通算20本塁打で、野球を始めたころから左打者。高校2年夏、3年夏と2度甲子園に出場し、安打も記録するなどアマチュア時代は打撃でも注目される存在だった。高校時代、身近な人から野手の方が良いのではという声も聞こえてきたが、田中晴也は投手としての自分の可能性を信じた。
 「マウンドで投げる方が好きでしたし、守るところもないかなあと。周りはいろいろな意見がありましたし、自分の耳に入っていましたけど、自分の中では揺らぐことはなかった。ピッチャーで勝負したいとずっと思っていました」と田中晴也投手は振り返る。
 そして投手として無限の可能性を見い出していたマリーンズがドラフト3位で指名。
1年目からじっくりと育成する方針の下、徐々に力を発揮。昨年プロ初勝利を挙げると今年、開幕からローテーション入りを果たし、すでに3勝を挙げる存在となっている。
 この試合は本職の投手としても見事な修正力を発揮した。初めての球場。バンテリンドーム独特の高いマウンドに苦戦し、自慢のストレートは高く浮ついた。一方で、フォークを中心とした変化球の曲がりが大きいことを序盤に気付くとフォークをメインに組み立て、立て直してみせた。四回に上林誠知外野手にライトスタンドに運ばれる先制本塁打を許すが「ソロはOK。切り替えようと思っていた」と冷静なピッチングを続け、結果、7回を投げて1失点に抑えて見せた。試合は最終回にサヨナラを許す結果となってはしまったが、強く手応えの残るマウンドとなった。
 「交流戦はまだ続く。また次、投げる試合で頑張ります」と田中晴也投手。すでに気持ちは次回登板に向いている。
一喜一憂しないこの心の持ち様もまた一流の証しだ。マリーンズ次代のエース候補が躍動し続けている。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)
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