まずはしっかりとバットを振ってスイングを磨き上げる。悩める若者にとって、そんな端的な言葉が腹落ちした。こうしてネット(網)に向かってひたすら打つという基本的なトスやティー打撃をメインに、全体練習後や試合後に室内練習場で打ち込む日々が始まった。
「少しずつ感覚がつかめてくる感じがありました。ああ、この感覚かなあと」と西川は言う。そして「いつもサブローさんがボールを投げてくれて、教えてもらいました」と思い返した。
室内練習場に行くとサブローヘッドコーチの姿がいつもあり、ボールをトスしてくれた。2軍監督時代、多くの若手選手に同じようにボールを投げてきた。選手のスイングを間近で見て感じ取ることができる。息遣いを感じられる距離だからこその発見があり、それを元にアドバイスを繰り返す。
試合の様子を映像でチェックしていた時は「少し時間がかかるかなあと思っていた。じっくりと取り組もうと」という見立てをサブローヘッドコーチは持っていたが、実際に真横でそのスイングを感じると、考え方を変えた。「スイングが速いし、インパクトが強い。なによりも普通、言われたことができるようになるまで時間がかかるものだけど、彼は違った。すぐにできた。のみ込みが違った。センスやなあと思った」と振り返る。
こうして前さばきで打っていた打撃から、ボールを引きつけて打つことを提案された。「普通は確かに前で打つ方が多い。でも彼のスイングスピードなら多少、引き付けても打てる。少しでもそれができれば可能性は広がる」とサブローヘッドコーチは言う。
シーズンに入って2度の2軍落ち。しかし6月に入ると月間打率は4割を超え、6月28日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム)まで4試合連続打点を記録するなど、6月だけで7打点(通算10打点)をマークした。一時は打率1割3分2厘まで落ち込んだが、打率2割3分6厘と少しずつ、しかし確実に上げてきている。
西川は1軍昇格後も時間を見つけてはティー打撃などを行い、感覚を研ぎ澄ませる練習を継続している。「これまでやってきたことを継続してやっている。まだまだだけど、いい方向には来ていると思う」とうつむき気味だった若者に笑顔が戻ってきた。その姿にサブローヘッドコーチは「(山本)大斗と西川。同じ年の2人で引っ張ってほしいよね」と目を細めながら優しく見守る。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)