「とにかく振るぞ」。ドラフト1位ルーキーの西川史礁外野手は2軍に合流した時に言われた言葉を忘れない。
オープン戦で好成績を残し、開幕スタメンに名を連ねるなど順風満帆にスタートしたように見えたプロ1年目だったが、シーズンに入るとなかなか思うようなパフォーマンスができない日々が続いた。再調整のため2軍に合流し、サブローヘッドコーチ(当時2軍監督)の元へあいさつにいくと、開口一番、そう言われた。
 まずはしっかりとバットを振ってスイングを磨き上げる。悩める若者にとって、そんな端的な言葉が腹落ちした。こうしてネット(網)に向かってひたすら打つという基本的なトスやティー打撃をメインに、全体練習後や試合後に室内練習場で打ち込む日々が始まった。
 「少しずつ感覚がつかめてくる感じがありました。ああ、この感覚かなあと」と西川は言う。そして「いつもサブローさんがボールを投げてくれて、教えてもらいました」と思い返した。
 室内練習場に行くとサブローヘッドコーチの姿がいつもあり、ボールをトスしてくれた。2軍監督時代、多くの若手選手に同じようにボールを投げてきた。選手のスイングを間近で見て感じ取ることができる。息遣いを感じられる距離だからこその発見があり、それを元にアドバイスを繰り返す。
大事にしている指導者としての流儀だった。
 試合の様子を映像でチェックしていた時は「少し時間がかかるかなあと思っていた。じっくりと取り組もうと」という見立てをサブローヘッドコーチは持っていたが、実際に真横でそのスイングを感じると、考え方を変えた。「スイングが速いし、インパクトが強い。なによりも普通、言われたことができるようになるまで時間がかかるものだけど、彼は違った。すぐにできた。のみ込みが違った。センスやなあと思った」と振り返る。
 こうして前さばきで打っていた打撃から、ボールを引きつけて打つことを提案された。「普通は確かに前で打つ方が多い。でも彼のスイングスピードなら多少、引き付けても打てる。少しでもそれができれば可能性は広がる」とサブローヘッドコーチは言う。
自身も現役時代、ポイントを身体の近くに置くスタイルで確実性を上げ数字を重ねてきた。このスイングなら、このインパクト力なら可能だと判断した。そして現役時代に多くのコーチから自身が教えられたのと同じ練習方法を惜しみなく伝え、アドバイスをした。また似ている打者としてライオンズ、ドラゴンズなどで活躍をした和田一浩氏の名を挙げ、イメージとして共有した。
 シーズンに入って2度の2軍落ち。しかし6月に入ると月間打率は4割を超え、6月28日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム)まで4試合連続打点を記録するなど、6月だけで7打点(通算10打点)をマークした。一時は打率1割3分2厘まで落ち込んだが、打率2割3分6厘と少しずつ、しかし確実に上げてきている。
 西川は1軍昇格後も時間を見つけてはティー打撃などを行い、感覚を研ぎ澄ませる練習を継続している。「これまでやってきたことを継続してやっている。まだまだだけど、いい方向には来ていると思う」とうつむき気味だった若者に笑顔が戻ってきた。その姿にサブローヘッドコーチは「(山本)大斗と西川。同じ年の2人で引っ張ってほしいよね」と目を細めながら優しく見守る。
今シーズン4番に入り8本塁打を記録するなど躍動する山本大斗外野手や、同世代の仲間たちの活躍を刺激にしながら、背番号「6」が再びまばゆい光を放ち始めた。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)
編集部おすすめ