甲子園への思い、先輩たちの無念、強敵に立ち向かおうとする闘志―。全てを胸に秘めた市船橋が、最後の最後、紙一重で八千代松陰を上回った。
涙をのんだ昨夏の決勝に続き同点で九回を終え、迎えたタイブレーク。十回表に4点を失うも、その裏に一挙5点を奪い、サヨナラで3年ぶりの頂点に。7―7の2死満塁。背番号1の川崎耕司が「市船ソウル」に乗って中前適時打を放ち、3時間54分の熱戦に終止符を打った。
九回まで一度もリードできない苦しい展開だった。六回には「3番・捕手」の大黒柱、花嶋大和が顔面に死球を受ける。約10分間の治療を経て、グラウンドに戻ってきた背番号2の口元の左はガーゼで覆われていた。海上雄大監督は「彼中心でここまでチームをつくってきた。彼の『出たい』という意思があった」。ガーゼに血がにじみ、試合後は病院に直行するような状態で、戦った。
俺たちが勝つ―。思いは連鎖し、難敵を乗り越える。
七回1死二塁から満崎隆一郎が適時打を放ち同点に。甲子園まであと1勝とした昨夏、1点差で及ばなかった延長タイブレークに突入する。無死一、二塁から始まる極限の状況で、六回途中から投げる川崎は長短打や死球で4失点。ただ、イチフナが底力を見せたのはここからだ。
十回裏の攻撃。点差を考えれば、犠打はできない。ボール球は振らず、好球必打。その意識を全員が持った。先頭から2四球を選んで1点を奪い、無死満塁。手負いの花嶋が右中間へ意地の2点二塁打を放つと、最後は「狙いを絞った」という川崎がマウンドの借りを返すサヨナラ打を中前へ運ぶ。グラウンドにナインが飛び出し、大逆転劇が完結した。
勝利の立役者となった花嶋や川崎、満崎らは昨夏もベンチに入った。
他の選手もスタンドで、先輩の無念を間近に見た。ダブル主将の一角、田中健人は「去年、ここ(ZOZOマリン)で先輩たちが負けて、崩れ落ちる姿は今でも忘れない」。卒業生や、メンバー入りできない3年生の思いも背負い、勝ち切った。試合後、海上監督たちが胴上げされる姿を、応援席の先輩や部員が見守っていた。
(森大輔)