無情の雨となった。北九州で行われた7月17日のホークス戦。
試合は六回表にマリーンズが4点を奪い勝ち越しに成功するものの攻撃途中で雨が強まり、中断。結局、雨が弱まることはなく、審判から降雨コールドが宣告された。この結果、ゲームとしては規定により六回表の攻撃が成立せず。五回を終わって2-2の同点までが公式記録として残った。
 ベンチで頭を抱え、天を仰いでいたのはプロ2年目の上田希由翔内野手。六回には右翼へ勝ち越しの2ランを放っていた。これが記念すべきプロ初本塁打のはずだった。マリーンズベンチは大いに沸いたが喜びもつかの間、夏の雨がメモリアルアーチを幻に変えてしまった。普通であれば、なかなか心の整理がつかない状況も上田は気丈に振る舞った。試合後、メディアに取り囲まれ、幻の一本の感想を聞かれると「いろいろな人の記憶には残ったと思うので、いいかなと思います」と前を向いた。プロ初本塁打が降雨コールドで公式記録から消えたのはプロ野球史上初。確かに話題となり、記憶には残された。
不運と嘆くのではなく、起きたことをプラスに捉えることができる人間力が背番号「10」にはあった。
 「みんなが思ってくれているほど、ボクは引きずっていなかった。ボクは元々、良かったことはすぐに忘れてしまうタイプ。悪かったことはいつまでも覚えていますけどね。そういう意味では終わったこととして特に考えることはなかったです」と上田はその時の心境を語った。
 北九州は上田にとっては思い出深い土地だ。母親が小倉出身。自身も球場から、ほど近い病院で生まれたと聞いていた。子供の時は夏休みなどに家族で帰省した楽しい思い出も残る。この日は祖父もスタンド観戦。幻とはなったが、一時は勝ち越しとなるホームランを目の前で見せることができた。自然現象はどうすることもできない。
いつまでも嘆くことなく1軍のスタメンで打っている元気な姿を祖父の前で見せたこと。そしてこの日、話題になったこと。記録には残らないにしても1軍公式戦で痛烈な打球を打つことができたことを喜ぶことにした。
 上田はその2日後、本拠地ZOZOマリンスタジアムに戻ってのバファローズ戦で3安打1打点。お立ち台に上がった。すぐに気持ちを切り替え、前を向いた男に幸運の女神はほほえんだ。ヒーローになることができた。
 プロ野球は後半戦に入った。戦いは熾烈(しれつ)を極める。上田は「しっかりとコンスタントに結果を出していかないといけない立場。毎日、しっかりと振り返りながら、やっていきたい。まだ、試合に出させてもらっている感じ。
結果を出すことで頼られる存在になりたい。今は同じ年の選手とか自分よりも若い選手が活躍している。負けてはいられない。しっかりとアピールしてチームに欠かせない戦力になりたい」と気持ちを込める。2023年ドラフト1位でチームの主軸候補として大きな期待を背負って入団したスラッガー。メモリアルアーチを記録する日もきっと、そう遠くはないはずだ。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)
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