背番号「51」の想いを乗せた打球が、レフトスタンドへと消えていった。山口航輝外野手は打球の行方を見守ると、かみしめるようにダイヤモンドを一周した。
8月5日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム)、二回に生まれた先制の1号3ランは本人にとっては昨年4月23日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム)以来となる本塁打となった。今シーズンは6月初旬に2軍落ち後もチャンスが来る日を信じ、ファームで必死にバットを振り続けてきた男にスタンドからは万雷の拍手が注がれた。
 「ホームランになって一番、自分がビックリした。ちょっと先だったのでどうかなあと思ったけど、外野手の追い方を見て、入ったと確信した。うれしいというか、ホッとしたというか。今日の打席にすべてを賭ける気持ちで昨日の夜からずっと気持ちを作っていた。結果につながって良かった」とヒーローとなり、久々のお立ち台に招かれた山口はうれしそうに話をした。
 二回無死一、三塁の好機で迎えた第1打席。「2軍でもチャンスの時によく打席が回ってきた。だから逆にチャンスで回ってきたことでいつも通りに冷静に打席に入れたのかもしれない」と冷静だった。ネクストバッターズサークルでは、前の打者がどのような攻められ方をしているのかをジッと見つめた。そして定めた狙い球はチェンジアップだった。

 「前の打者の池田(来翔)さんもチェンジアップで攻められていたので、チェンジアップは頭に入っていた。だから狙って思いっきり打った」と1ボールからの2球目をフルスイングした。山口らしい豪快なスイング。そしてこの男、独特の大きな弧を描くアーチだった。
 「ボクを応援してくれる人、いるんやろうか?」。試合前、不安な想いが胸の内を駆け巡った瞬間もあった。しかし、それはもちろん杞憂(きゆう)だった。打席で名前がコールされると大声援に包まれた。「ボクを応援してくれる人がこんなにいるんだとうれしくなった。感謝しかない」と山口。ずっと待ってくれていたファンへの想いを届ける一発となった。
 そしてこの日は昨年9月に生まれた娘がZOZOマリンスタジアムで初めてスタンド観戦をしていた。
気持ちが落ち込んだ時の支えとなってくれた妻と娘への感謝の一発となった。「2軍では気持ち的にも苦しかったけど、家に帰って娘の顔を見るだけで癒やされた。頑張れた」と目を細めた。ヒーローインタビューを終え、ライトスタンドでファンにあいさつを行う一連の儀式を終え、一塁側ベンチに戻った時にスタンドにいる家族の姿を見つけた。「もちろん、まだ小さいので将来、覚えていることはないけど、目の前で打ててよかった」と笑って手を振った山口。その後、関係者駐車場で再会するとファンの方の厚意で返してもらったホームランボールをうれしそうにプレゼントした。
 「やるしかない。やるかやられるかの気持ちだった。これからも一日一日、この気持ちを忘れずにやっていく。今年は若い選手たちが活躍しているのでボクも負けじと存在感を出していきたい」。翌6日の同カードでも山口は本塁打を放った。悔しかった想いをバットに乗せ、日々全力で存在感を見せる。
8月18日生まれの山口にとって真夏は大好きな季節。ここから思う存分、暴れ、苦しかった日々を支えてくれた人々に感謝を伝え続けていく。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)
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