独立行政法人「国際協力機構」(JICA)が「第9回アフリカ会議(TICAD9)」の会合で、木更津など国内4市をアフリカ諸国の「ホームタウン」と認定したことについて、SNS上で「特別ビザが発給され移民を受け入れることになる」といった誤情報が拡散し、波紋を広げている。JICAや、ナイジェリアのホームタウンに認定された木更津市は「そのような事実はない」と完全否定し、市長名のコメントも発表。
しかし市役所への抗議はやまず、職員が対応に追われている。
 アフリカ諸国のホームタウンに認定されたのは、木更津市と山形県長井市、新潟県三条市、愛媛県今治市。JICAが21日の会合で認定状を交付した。JICAのニュースリリースによると、ホームタウン認定は相互交流を強め、地域活性化とアフリカの発展につなげる狙いがある。
 ところがその後、SNS上で「移民・定住のための特別ビザ制度が始まった」といった誤情報が拡散。「治安が悪化する」「なぜ住民同意なく決めたのか」などの批判であふれた。同国の若者や労働者向けに日本政府が特別ビザを創設するとの趣旨の情報をナイジェリアの政府系機関がネットで発信したことや、英国のBBCやガーディアン、ナイジェリア紙「パンチ」などの海外メディアが同様の内容を報じたことが発端となったとみられる。
◆「完全に事実無根」
 一方、JICAの広報担当者は「移民を受け入れる事実はない」ときっぱり否定。「ビザが緩和されるかのような海外報道が出たが、完全に事実と異なる。根拠不明かつ事実無根で、非常に困惑している」とし、誤った報道に対し訂正を求めていく考えを示した。
 JICAによると、4自治体は認定された国々と既に交流があり、ホームタウンはあくまで、交流を深化させることが目的という。
 木更津市は25日、ホームページで「一部のSNSなどで報じられている移住・移民の受け入れ、ナイジェリアにおける特別就労ビザの発給要件の緩和措置は、本市から要請した事実はなく、市は一切承知していない」とした上で「SNSで報じられている事実はない」と否定する渡辺芳邦市長のコメントを発表した。

 同市によると、東京オリンピック・パラリンピックのホストタウンとなったこと、JICAの「草の根技術協力事業(地域活性型)」の採択を受けたことが契機となりホームタウンに認定されたという。今後、ナイジェリアを舞台に野球・ソフトボールを通じた人材育成を予定している。
 「市役所では朝から電話が鳴り止まない状態」と市担当者は困惑する。電話は県内外の幅広い地域からあり、職員8~10人が対応に追われている。ホームページを通じて500件以上の意見が寄せられており、いずれも抗議や心配する内容が中心という。
◆熊谷知事「安心を」
 SNS上では「デマであるなら海外報道に訂正を求めるべき」「事前に詳細な情報を周知しない行政側の責任でもある」などと行政への注文も寄せられた。
 熊谷俊人知事にもX(旧ツイッター)を通じて懸念の声が相次いだ。知事は「少なくともこの取り組みによって木更津市や千葉県が危険になる、犯罪が増えることはありませんのでご安心ください」「県としても市から相談があれば適切に対応していきます」などと投稿し、沈静化を図った。
 市民の不安が高まっていることについてJICAの担当者は「本件は交流を推進するものにすぎず、移民を受け入れるものではないため懸念は当たらない」などと説明し、理解を求めた。
  (田村理、岡田正弘)
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