「ヤバかった」と本人が振り返るほど緊張をしていた。試合前もソワソワした。ブルペンでも変わらなかった。そんな若者の元にプレーボール直前、ベンチ前でキャッチボールをしていると吉井理人監督が近寄ってくれた。
「今日は吉川の日だから。一生に一度のプロ初先発。好きなようにやっていいから。ただ、一つだけ約束してくれ。絶対に逃げるな。攻める気持ちだけ忘れないでくれ」と言われた。
育成選手として迎えた3年目。なんとか今年中の支配下登録を目標にアピールをしてきた。そんな中、最初に支配下登録を勝ち取ったのはスティベン・アセベド外野手だった。支配下登録可能な枠は残り一つ。焦る気持ちはあった。「アセベド選手が先に支配下になって、ヤバいなあと。残り1枠。7月31日の期限も近づいていた。もう、ないかもと思ったこともあったが自分にできるのは諦めずにアピールをするだけだった」と吉川。
プロ初登板は翌8月1日のライオンズ戦(ベルーナドーム)。ビハインドの展開の2番手として4回を投げて3失点。「全体的にバラバラで、思うように投げられなかった感じ。中継ぎが慣れていないこともあり、ちゃんと心の面も含めて準備ができていなかった。だから今回はしっかりと準備をして挑みました」と振り返る。初登板の反省を胸に挑んだ初先発の大役で見事、結果を出した。
「こんなに早く勝つことができるとは思わなかった。うれしい」と吉川。試合は山口航輝外野手が3本塁打で援護。山口は「吉川とは2軍で一緒にプレーをして頑張っている姿を見ていたから、打てて良かった。昨日、一昨日とホームランを打って、吉川には『ボクが投げる試合でも打ってくださいね』と言われていましたし」と笑った。
この日は登板日ではない小島和哉投手もあえて帰宅せずに後輩のピッチングを見守ってくれていた。吉川は「小島さんには『ボクのピッチングを最後まで見てくださいね』とお願いしていました。本当に見てくれていてうれしい」と微笑んだ。先輩たちに優しく見守られながら若者はプロ初勝利を手にした。8月21日。一生、忘れることのない真夏の夜となった。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)