本格的な悪路走破性を突き詰めたトヨタ自動車のSUV「ランドクルーザー70」(以下、ナナマルと呼びます)。最新のクルマでありながら、外観や内装、各パーツなどは、まるで昔のクルマをそのまま再現したかのようだ。
今の10~20代は昭和~平成の文物に関心が高い「レトロブーム」の世代だといわれるが、ひょっとするとナナマルは、彼らにもすんなりと受け入れられるかもしれない。

古典的でレトロ感満載のナナマル

ランクルにはいくつかのバリエーションがある。その中でも、最も悪路走破性に優れ、無骨で古典的なモデルはといえば、1984年に登場したランドクルーザー70、通称ナナマルだ。日本市場では一時的に休眠状態となり、海外のみの販売となっていた時期もあったが、2014年には新型ランドクルーザー70が期間限定モデルとして復活。2023年にはレギュラーモデルとして販売が始まった。

2023年発売のナナマルは新型モデルと言えるが、内外装はデビュー当初から大きく変わっていない。悪く言えば古臭いのかもしれないが、ここは古典的かつレトロ感にあふれたクルマだと考えたい。

例えばヘッドライトは、1984年の初代モデルと同じく丸型だ。昔は多かったが、最近の新型モデルで丸目のヘッドライトを採用しているクルマは少ない。この顔つきからして、どこか懐かしさを感じてしまう世代は多いはずだ。

ピラー(窓と窓の間の柱のような部分)は垂直で、窓枠は角張っている。ウインカーやブレーキランプなどの造形も、なんら変わっていない。
サイドアンダーミラー(前方左にある車体下部を確認するためのミラー)がそのまま付いているのも古めかしい。クルマが全体的に角張っていて、昭和感のあるデザインだ。

車内もノスタルジックだ。エンジンを始動する際には、物理キーを差し込んでしっかりと回さなければならない。エアコンの調整は、最近では見かけなくなったレバーで行う。近頃は安価なクルマでも、高級感を演出するため車内のいたるところにメッキを多用したり、革素材に見えるようプラスチックに型押しの模様を付けたりしているが、ナナマルの装飾を排したインテリアからは潔さを感じる。

あえて乗るカッコよさ

悪路を走るための道具として捉えるのであれば、無駄な装飾は必要ないというのがナナマルのアイデンティティだ。クルマは趣味と考えている人もいるが、移動するための道具にすぎないともいえる。そうなると、ナナマルのようなSUVには過度な装飾は不要。結果として、ツール感にあふれ、昭和レトロな印象が強くなっているわけだ。

ナナマルは480万円もするので若者向けのクルマとは言えないかもしれないが、レトロブームの真っただ中にある彼らにとって、あこがれのクルマになる可能性は十分にあるのではないだろうか。最新モデルであれば、安価なクルマに乗っても古臭さを感じることはまずないが、どれも同じように見えてしまい、つまらない気もする。
個性を大事にする人たちは、「ナナマルにあえて乗るカッコよさ」に価値を見出すかもしれない。

旧車のように、中身から外観まですべてが古いクルマに乗るとなると、維持費やメンテナンス頻度の問題でコストがかかる。そういう意味で、雰囲気はレトロだが中身は新しいナナマルは若い旧車好きにも刺さるかもしれない。クルマ自体には興味がなく、単に古いものが好きという人にとってはオーバースペックなナナマルではあるが、レトロ感を感じたい若者にはぜひ一度、体験してほしい。若者ではない筆者でも、個人的にグッとくるものがあった。

ナナマルだけレトロなのはなぜ?

ランクルには、よりデイリーユースに適した「ランドクルーザー250」や、高級フラッグシップSUVの「ランドクルーザー300」などのバリエーションがある。いずれも最新モデルらしく、内外装は凝った作りだ。ではなぜ、ナナマルだけ、ここまでレトロ感満載なのだろうか。ランドクルーザーのチーフエンジニアの森津圭太氏は次のように話している。

「『ナナマルは昔のまま変えずに作り続けてほしい』というお客様からの熱い声をたくさんいただきました。そこで、ランドクルーザーというブランドとして、ヘリテージな部分をしっかりと継承していこうということになったんです。その象徴のひとつが丸目のヘッドライトだと思います」

では、ナナマルのあるべき姿とは? 森津氏はこう話す。


「ナナマルは、欧州の鉱山やアフリカの人道支援など、世界中のさまざまなお客様の生活を支えてきたクルマです。そのため、フレームの堅牢性や車体の頑丈さ、シンプルな構造で直しやすいところがナナマルの良さであり、なくすことができない部分です。時代に合わせて変えるところは変え、守るところは守っています」

これまで、過酷な環境で使用するクルマはマニュアルトランスミッション(MT)を採用するのが常だった。しかし、新型ナナマルはオートマチックトランスミッション(AT)のみの設定となる。この点について森津氏は「扱いやすくしてほしいという要望もあり、環境や燃費に配慮した2.8LのディーゼルエンジンにあえてATを組み合わせました。この部分は時代に合わせて変えた部分といえるでしょう」と話す。

ナナマルは、ディーゼルエンジンを採用した「AX」のみの単一グレードとなる。ボディカラーは「ベージュ」「スーパーホワイトII」「アティチュードブラックマイカ」の3色のみ。選ぶ楽しみはあまり得られないが、迷わなくてすむというメリットもある。燃費は10.1km/Lと、このクラスのクルマとしては平均的。乗り心地も悪くない。SUVということを考慮すれば取り回しも良好だ。


レトロ感満載なのに、ここまで扱いやすい本格SUVはそう多くない。気になったら一度、販売店などで試乗してみてほしい。きっと、新しいのに懐かしい不思議な魅力に取り憑かれることだろう。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら
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