工場や物流施設の敷地内における自動運転レベル4での無人搬送サービスを提供するeve autonomyは、認知度拡大や人材戦略の強化に向け、羽田イノベーションシティに新オフィス兼ショールームを開設。これに際し同社は9月6日、新拠点の開所式を開催。
○屋外搬送自動化へヤマハ発動機とティアフォーが共同で設立
eve autonomyは、ヤマハ発動機とティアフォーの2社による合弁会社として2020年2月に設立された。ただそのルーツは2018年までさかのぼり、ヤマハ発動機の浜北工場において生じていた輸送課題の解決に向け、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を主導するティアフォーと共に、自動運転車両の共同開発プロジェクトを始動させたことに端を発するという。そして翌2019年には、同工場にて自動運転レベル3による無人搬送機の運用を開始。その成功を受け、サービスとしての展開を進めるためにeve autonomyとして始動したとする。
同社が現在提供するのは、自動運転技術を搭載した電動車両による工場や物流施設での屋外搬送の自動化ソリューション「eve auto」。「特定条件下における完全自動運転」となるレベル4の自動運転技術を用いることで、モバイルロボットを採用するには長く、有人トラックを使用するには短い“ラストマイル”の搬送自動化を実現するとしている。
同サービスの核となるのが、屋外搬送を担う電動車両と自動運転を実現するソフトウェア技術だ。車両については、ヤマハ発動機グループ全体で年間約7万台を売り上げるゴルフカーの技術を転用したとのこと。車両自体を小型化し小回り性能を向上させつつも、雨や風など天候の影響を受け、場合によっては整地されていない路面を走る必要もある屋外搬送にも対応できる、高信頼性の電動車両を提供する。一方のソフトウェアについては、ティアフォーが開発したオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を活用。業界の先端を進む同ソフトウェアを用いてレベル4の自動運転を実現し、物流現場では不要となる機能を削減してスリム化させ搭載することで、導入コストも最低限に抑制されるという。
○eve autoが有する3つの特徴とは?
eve autonomyの代表取締役CEOを務める星野亮介氏は、羽田新オフィス開所式に際したプレゼンテーションの中で、eve autoが有する3つの特徴について説明した。
星野CEOが語ったeve autoの特徴
“EASY” - 手軽さ
“POWERFUL” - 走破・搬送力
“FLEXIBLE” - 柔軟性
○“EASY” - 手軽さ
eve autoの強みとして初めに挙げられたのは、導入の手軽さだ。同サービスは、自動搬送を開始するための工事が必要なく、ソフトウェア側での簡単な操作によって運用することができるという。
サービス導入の前段階では、自動搬送車の走行ルートや台数、運用方法などに関する打ち合わせを重ねながら、走行ルート設計書などを確認する。その後は本格導入に向け、敷地内で想定される走行ルートをたどる形で車両の手動走行を行い、点群データによるマップを作製するとともに、走行経路や停止すべき位置などを計測。その後はソフトウェア上にて、施設の作業員が通行しうる障害物検出エリアや一時停止位置などを設定したうえで、ベクターマップ上でのシミュレーションを実施する。
それらが完了してからは、実際の車両を用いた試運転や微調整、そして運用におけるトレーニングなどを実施し、最終的な引き渡しを行うとのこと。なお、計測工程は1日以内、ソフトウェア上の処理は1~3週間、試運転からトレーニングを経て引き渡しに至るまでは3日ほどと、全体を通じても1か月足らずで運用を開始できる点も強みとする。
○“POWERFUL” - 走破・搬送力
また、車両の走破性や搬送力もeve autoの強みだ。屋外搬送で想定される天候の変化や多少の悪路に対応できることは先述した通りで、それに加えて牽引能力は1.5t、積載能力は300kgと、物流現場や製造現場において十分な搬送力を持つとしている。
加えて、静止状態からであれば3cm以内の段差の乗り越えが可能で、1t牽引時でも7°までの傾斜を走行できるなど、さまざまなルートにも対応。満充電時の継続走行距離はおよそ40kmに上るといい、長時間の運用にも効果を発揮するとした。
○“FLEXIBLE” - 柔軟性
そして星野CEOが特に強調したのが、サービスの柔軟性だ。
また、プラグ式での充電が可能な電動車両だが、バッテリーの交換にも対応。オプションサービスとして追加バッテリーも利用できるといい、車両の停止を伴わない運用体制の構築により、24時間での車両稼働も実現できるとした。
なおeve autoでは、車両の提供やソフトウェアのアップデートに加え、運用に必要となるオペレーションツールやアフターサポート、そして定期メンテナンスサービスなども包括的に提供。さらに自動運転車両特有のリスクに備える保険サービスも含め、充実したサービス体系が用意されているとしている。
新オフィス開設で認知拡大と人材確保を狙う
○顧客アクセス向上と社内人材確保へ羽田に新拠点を設立さまざまな産業において自動化が推進される中、星野CEOは、「今はまだ屋外搬送の自動化をターゲットとした競合はほぼいないと言えるが、近いうちに間違いなく屋外搬送が自動化されることが“当たり前”の時代が来ると思っている」とする。そしてここ2年間では、サービスの認知拡大や導入数の増加を目標としてきたeve autonomyのスローガンとして、「2020年代のどこかでeve autoが屋外自動搬送の代名詞になること」を掲げた。
現在では、自動車メーカーや物流現場、化学・エネルギー企業の現場など、全国約40拠点でおよそ60台の車両が稼働しているというeve auto。そして今後の認知拡大や人材獲得、さらには事業の拡大に向けて、今回の羽田新オフィス開所を決定したとしている。
従来eve autonomyは、実際に車両が稼働するヤマハ発動機の浜北工場を見学するか、車両を貸し出し自社施設で試すことができる体験サービスが用意されていたとのこと。また2024年8月からは、静岡県磐田市の本社倉庫内に「竜洋ショールーム」を開設し、顧客向けのデモンストレーションの場として活用しているとする。
そして今般、国内外からのアクセスが良い場所にデモンストレーションの場を作るという狙いから、羽田空港に隣接した羽田イノベーションシティに新たな拠点を開所。
また加えて、首都圏の優秀な人材を獲得したり、首都圏で働くメンバーの拠点として業務効率化に貢献したりと、人材戦略の意味でも大きな意味を持つという新オフィス。「すべての『働く』に彩りを」というビジョンを掲げるeve autonomyの想いを込めた場所になっているという。
自動走行のデモンストレーションも実施
また開所式に際して、羽田新オフィス周辺での屋外自動走行のデモンストレーションも行われた。今回は、事前に設定されたルートを車両が走行し、途中の障害物やゲートに差し掛かった際には停止・再発進する、という形式で行われた。
デモンストレーションでの走行は、まさにスムーズそのもの。一般利用者も歩行する中でもトラブルなく走りを続け、障害物を検知した場合やあらかじめ設定された場所ではしっかりと停止。ゲートとはBluetoothを介して通信することで開閉を調整でき、同一システム上でゲートやシャッターとの連動も可能だとする。
eve autonomyの担当者によると、今後高めていきたい性能のひとつとして“正着性”があるとのこと。停止位置までもより細かく制御できれば、荷物の積み下ろしにも自動ロボットを活用し、搬送における完全自動化なども実現できる可能性があるとしている。
○拡大する自動搬送市場で将来的には売上高100億円を目指す
物流現場の“2024年問題”に代表される人手不足による社会課題は、今後も深刻化していく可能性が危惧されており、自動化ソリューションを活用した課題解決に対するニーズは増大する一方だ。
そうした中で星野CEOは、短期的には現在のeve autoを軸に事業を拡大することを目指すとし、2030年には年間1000台の市場規模となることが予想される搬送領域について、同時期に年間200台の販売、そして売上高50億円を目標に掲げた。