みなさんは普段、外部が原因である危機を感じながら仕事をされていますか?ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授で著名な著者であるジョン・コッター氏の変革のリーダーシップの手法に「Leading Change」があります。その中には8つのアクセラレータ(連続する段階)があり、最初のフェーズが「A Sense of Urgency」で、日本語にすると「危機感」になります。
なぜ危機感が重要なのか
今回はこの「危機感」が大事だという話をします。危機感を生み出さないと行動にはつながらないので、業界や顧客の状況が変化しても無視をし続けます。そして、危機が迫っても、それに対して適切な打ち手を打てない状態に陥ります。いわゆる、「茹でガエル」になるということです。残念ながら、そういう会社は多いですよね。書籍『なぜ人と組織は変われないのか - ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版 著者:ロバート・キーガンら)を読むと、人間の基本は変化を自発的に行うことが苦手なところから来ていると思います。
ちなみに茹でガエルは古くから実証実験がされており、現在ではカエルさんは逃げ出せる手段があれば、確実に逃げ出すと結論付けられています。人間の妄想が作った比喩です。
さて、話を戻します。「Leading Change」は変革を管理する、チェンジマネージメントの手法として有名です。
危機感を生みだす
全社の各部門各階層から幅広い人材を持った人材を集め、変革主導チームを築く
戦略・ビジョンと変革施策を策定する
戦略やビジヨンに賛同する社内のボランティアの数を増やす
非効率的なプロセスや古い規範などの障害を取り除き、行動を可能にする
変革の勢いを増すため、短期的な成功を創造する。成功がないと社内は疲れるものです
短期的な成功から学び、加速を維持する
変化を組織内に定着化させる
この1-8を何度も回していき、継続して変革を起こしていきます。いやはや変革も大変です。
これらの内容を簡単にした書籍に『カモメになったペンギン』(ダイヤモンド社 著者:ジョン・P・コッターら)があります。ペンギンさんが住む氷山が溶け出すという危機に、8つのアクセラレータを経てどう対応するのかを描いています。すぐに読めるのであれば、まずはこちらを読まれるとよいかと思います。
8つのアクセラレータの実践方法
今回話題にする最初の「危機感を生み出す」においては、従業員に大きなチャンスがあることを示し、そのチャンスをいち早くつかまなければいけないという危機感を生みだします。これはリーダーの仕事ですね。ポイントは、危機感は、機会損失や市場シェア減など、具体的な危機にしないと共感が得られないということです。
この危機感を持たないとどうなるのでしょうか?筆者がマイクロソフトで働いていたとき、マイクロソフトはGoogleを無視しました。当時のCEOは「あんなの敵じゃない」と社内ミーティングで言っていました。
しかし、そもそも危機感はどのように作るのか疑問が湧きますね。会社がどうなるのだろうという一抹の不安や恐怖を感じることはありますが、危機感はより具体的で、自社が置かれている状況を把握しなければなりません。ヒントとして、最近筆者が読んだ書籍『ディスカバリー・ドリブン戦略 - かつてないほど不確実な世界で「成長を最大化」する方法』(東洋経済新報社 著者:リタ マグレイス)では、次の8つの行動をとりなさいと述べていました。
行動1:情報を役員室に流れるしくみをつくれ
行動2:思考の多様性を常に考えろ
行動3:アジリティを発揮し、バランスをとれ
行動4:小さな賭けを促進せよ
行動5:屋外の外へ踏み出す
行動6:言いにくいことでも、重要な情報は明らかにする
行動7:現実から逃げない
行動8:今、展開しつつある未来と向き合う
まぁそうですよね。会社の外をみて、センサーを持つ社員の多様な意見を取り、素早く行動せよということです。特に役員の人がそのようなリーダーシップを取ることが大事です。ただ、他責にしないで、自分でも同じような行動を取ることも重要です。危機は役員だけでは乗り切ることが不可能で、全社を挙げて共通認識を持ち取り組む必要があるのです。
"茹でビジネスパーソン"にならないために
この中で筆者が実践していることを少し説明します。
「アジリティを発揮し、バランスをとれ」と「小さな賭けを促進せよ」では、過度の成功を求めていないです。そんな成功が続くとも思わないので、3分の2は失敗するくらいの前提で筆者は仕事をしています。その代わりにスピードと初期の成功を大事にしています。もちろん失敗から学び同じ失敗を繰り返さないことが前提です。
「屋外の外へ踏み出す」では、複数社のクライアントをサポートしてきたこともあり、必然的に外に出ていますが、実はFacebookやLinkedInの業界を代表する多くの知人からいろいろなことを教えてもらう機会が多いです。メディアやビジネスコンサルタントの会社のニュースレター購読も効果があります。
「現実から逃げない」については......うーん、逃げますね。でも、なるべくKPIベースで仕事をするようにしており、ターゲットとのギャップを見てそれを埋めるために常に修正プランを考えております。
最後の「今、展開しつつある未来と向き合う」を見ると、今ある危機だけでなく、将来起きる可能性のある危機も予測せよと言っていることが分かります。
このような予測の中でも、ITの世界では特にガートナー社のハイプ曲線が有名です。このパイプ曲線では、テクノロジーは、黎明期、「過度な期待」のピーク期、幻滅期、啓発期、生産性の安定期と段階を経て、市場に適応していきます。市場で普及し始めたら、競争も激しくなり、対処の柔軟性が欠如してしまうのです。どこで手を打ち始めるかは難しい課題です。
"茹でビジネスパーソン"にならないように、危機感のセンスを磨いてください。
北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。