NTT東日本グループは、日本におけるカーボンニュートラル実現へ貢献するために、グリーントランスフォーメーション分野への取り組みを強化している。NTT東日本でカーボンニュートラル推進を担当しているキーマン、中川応能氏にその意義を伺ってみたい。
○カーボンニュートラルからグリーントランスフォーメーションへ
日本は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを目的とした「カーボンニュートラル」(以下、CN)を目指すことを宣言した。政府と企業は、このCN実現に向けたさまざまな取り組みを進めている。
だが、CNに息苦しさを感じている人もいることだろう。日本ではCN実現に向けた取り組みとして、二酸化炭素の排出量をゼロにするという「脱炭素」がひとつのキーワードになっている。しかし、長らく経済成長が停滞している日本において脱炭素を掲げても、人々の共感を得るのは難しい。企業にとっても脱炭素はガバナンスの側面が大きく、「気候変動リスクへの対応のため」の義務、いわば“罰ゲーム”に近い印象があったことは否めない。
そのようななかで、岸田文雄前首相が提案したのが「グリーントランスフォーメーション」(以下、GX)という新しい価値観だ。ポイントは、「取り組まないことによるリスク」ではなく「取り組むことによるメリット」を提示したことだろう。
この提案によって、それまで仕方なくやる義務だったCNに変化が起こった。企業各社は現在、GXを“競争力の源泉”と捉え直し、産業を起点とした成長戦略として活動に邁進している。
○GXを新たなビジネスへのチャレンジに繋げたい
NTT東日本グループは、そんなGXを推進している代表的な企業のひとつだ。NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 まちづくり推進部 カーボンニュートラル推進担当部長 中川応能氏は、「脱炭素のために脱炭素化をする人は少ないはずです。
「CNというと大変なことをしなければならないように聞こえますが、実は冷蔵庫の天板を月に一回掃除するだけでも省エネになるんです。また、例えば学校への太陽光パネル設置では、脱炭素化だけでなく災害時の対策にもなります。“義務”ではなく、少しの工夫から”楽しみ・面白さ・便利さ”をみんなで見出して、結果としてCNを実現することが望ましいGXの形だと思います」(中川氏)
NTT東日本グループはそもそも地域社会との繋がりが強い。もともと全国津々浦々に通信網を張り巡らせることを使命とした会社であり、大都市圏のみならず各地域に拠点があるからだ。そして現在はその強みを活かし、地域社会と共創し、地域を活性化させ、循環型社会を創生することをパーパスとして活動している。
その一環が、GXを軸とした新たなビジネスへのチャレンジと言えるだろう。千葉県・東金市での森林の現状把握に向けた実証実験や、埼玉県4市とのエコアクションチャレンジなどがわかりやすい例と言える。
GXをビジネス化し、地域社会がしっかりと利益を得ることこそ、GXを実現する上で欠かせないピースだ。
自然豊かな富良野市の循環型社会をより発展させる取り組み
北海道・富良野市は、NTT東日本グループがGXの取り組みを行っている街のひとつだ。実は同市はいまでも森林が豊富で、すでに炭素の排出量よりも吸収量が多く、CNを実現済みのエリアだが、他の自治体に先駆けたリサイクルシステムを築き上げている。
廃棄物は13種類に分別されており、生ごみは全量リサイクルに回され、堆肥化したのちに地元農家に供給、農作物の生産に活用しているそうだ。
この他に太陽光発電の取り組みなどにも協力しているが、富良野市は観光の街でもあるため、田園風景の中に突如現れるメガソーラーは負の感情を抱かせてしまいがちだ。ゆえに屋根の上をはじめとした景観を悪化させない場所に設置する配慮を行っている。
「富良野市さんとは、以前からデジタル人材派遣やDX教育などで協働しておりました。GX領域では、2年前よりグリーン専門人材派遣を行っております。富良野市を訪れる観光客が増加し、街がより発展していくことを目指しています。一方、ホテルが乱立し、田園風景すら崩れていくのは富良野市さんも我々も望んでいませんので、引き続き議論を続けています」(中川氏)
○脱炭素先行地域・仙台市の政策をサポート
脱炭素先行地域(※)に選定されている宮城県・仙台市もまた、NTT東日本グループとともにGXへの取り組みを進めている街だ。(※環境省が推進する脱炭素選考地域)
仙台市は、この交付金を利用して住宅用太陽光発電の設置に対する助成を行っているが、初日から申請のために多くの人が訪れ、業務が滞ってしまうことは他の自治体の例から予測できた。そこでNTT東日本グループはコールセンター事業を提案するとともに、申請が一段落した後は市民に向けた啓蒙活動を提案、CNの実現に向けた行動変容の考え方を伝える役割を果たした。
「我々が市民のみなさんに行動変容のきっかけとして行ったのは、例えば冷蔵庫の節電によって電気代が安くなるといった提案や、省エネ家電買い換えキャンペーンの実施など、具体的なメリットです。合わせて自治体には、使用電気量が減った際にインセンティブ(地域通貨・商品券)を還元するなどの提案をしたりもしました。もちろん、コールセンターにおいて受付から発送まで一気通貫で行います。
○NTT東日本グループが目指す地域循環型社会
包括的なソリューションによって、特定の製品やサービスに縛られることなく、電力・ガス・森林管理・決済などのさまざまなアプローチを行えることは、GXにおけるNTT東日本グループの大きな強みだ。その実績は、これまでの自治体支援からも見て取れる。
地域社会との共創を行う上で、NTT東日本グループが気を配っていたのは「東京にある大企業が地域からお金だけ取っていく」という形にならないことだという。地域のお金が地域に還元されることこそ、同グループの目指す循環型社会のひとつの姿と言える。そして、NTT東日本グループはあくまで“黒子”でありたいのだという。
「実際に計画作りをしているのはあくまで自治体さんです。我々は自治体さんがやりたいことを支える存在ですし、そうでありたいと思っています。良くも悪くも、NTT東日本グループにはGXに関するプロダクトがありません。そのぶん、包括的なアプローチと、地域特性に応じたきめ細かな支援を行うことができます。今後も新たな領域への展開を進めながら、地域循環型社会の実現に向けた取り組みを加速させていきたいと思います」(中川氏)