さまざまな美術館を訪れ本物のゴッホの作品を鑑賞

Amazonオーディブル(以下、Audible)で6月30日から配信される『リボルバー』で朗読を担当した中谷美紀。ゴッホやゴーギャンの知られざる真実に迫る本作を朗読するにあたって、さまざまな美術館を訪れて彼らの本物の絵を鑑賞したという。その経験を重ねる中で芽生えた思いや収録時のエピソードについて中谷に話を聞いた。


原田マハ著『リボルバー』は、ゴッホが自殺に使用したとされる拳銃「リボルバー」を起点にストーリーが展開する、アート史上最大の謎に迫るミステリー小説。ゴッホとゴーギャンという、生前顧みられることのなかった孤高の画家たちのヴェールを剥がす物語を、中谷が朗読で表現する。

原田氏の小説が原作の映画『総理の夫』(2021)で主演を務めた中谷は、その縁で『リボルバー』出版の際にコメントを寄せたそうで、「素晴らしい本だなと思い、ゴッホやゴーギャンの世界を堪能させていただきました」と作品に魅了されたという。

Audibleのオファーを受けたのは1年以上前。「緻密に書かれた書籍だからこそ、簡単にはできないなと。声で演じ分けるというのは難しいと思ったので、しばらく逃げていました」と当時の心境を明かす。

そして、「どうしたらできるだろうか」と自分なりに方法を探して出た答えが、「ゴッホやゴーギャンの実際の絵に触れること」だった。それまでも、一鑑賞者として何度も見てきた作品を、画家本人の気持ちになって見つめる体験を重ねた。

オランダ国立美術館やパリのオルセー美術館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、さらにウィーンでも、本物のゴッホの作品を鑑賞し、「画家たちの筆に込められた思い、その声が聞こえてくるような体験を重ねるうちに、少しずつゴッホに近づけるような気がしてきました」と自身の中で変化があったという。

『リボルバー』の表紙にはゴッホが描いたひまわりが使用されているが、「15本の異なるひまわりがゴッホには人間に見えていたという視点で物語が描かれていて、多様性という視点でも絵を見るようになりました」と見方が変わったという。

また、ゴッホが描いた「ローヌ川の星月夜」からもゴッホの心境に近づける感覚があったと言い、「ゴッホの孤独感やエゴイスティックな一面、そして理知的な部分を、少しずつ心の中で積み重ねていきました」と語る。

朗読の収録では「自然に感情が引き出されました」

朗読の収録においては、演じ分けの難しさを感じつつも、自然に感情が引き出されて演じることができたという。


「思いもよらず、小説として読んだ時と、声で表現するべく読んだときの心への響き方が異なり、景色がもっと立体的になって、自然に感情が引き出されました」

演じながら心が揺さぶられて涙が出てくる場面もあったと明かす。

「Audibleは耳から聴いていただくので、クリアに聴こえなくてはいけないと思いますが、物語を読んでいるうちに、どうしても心が揺さぶられて泣けてしまって、なかなか前に進めなかったり、このまま読むと聞き苦しいだろうなという場面もありました」

音楽や絵画など芸術を深く愛し、物語の舞台であるパリに住んでいたこともある中谷。本作の朗読を務める人としてまさに適任だと思われるが、「造詣が深いわけではなく、ただ好きなだけです」と謙遜しつつ、「だからこそ、あまり難しいことは考えずに、絵画から得られるインスピレーションをそのまま感覚でキャッチするようにしているのですが、この物語を読ませていただくと、絵画が描かれた背景を身近に感じることができました」と語る。

そして、原田氏の作品からは「美術の間口を広げて、できる限り敷居を下げて、より多くの方々に美術の魅力を伝えたい」という使命感が伝わってくるという。

「日本人の読者にも共感しやすいキャラクターを配していて、今回だと冴(さえ)らが出てくることによって、ゴッホやゴーギャンという歴史上の人物がより立体になって、まるで隣にいるかのように感じられるのではないかなと思います」と述べ、「ゴッホがいた世界に一緒にいるかのような、風を一緒に感じたり、痛みを一緒に感じたり、この朗読を通じてそういった体験をしていただけたらと思います」と語っていた。

■中谷美紀
1976年1月12日生まれ、東京都出身。1991年に芸能活動を開始し、1993年に女優デビュー。その後、数々の映画、ドラマ、CMなどに出演。映画『嫌われ松子の一生』(2006)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞ほか、多数の受賞歴を持つ。絵本、エッセイ集、旅行記の刊行など、その活動は多岐にわたる。著書に『インド旅行記1~4』『オーストリア滞在記』『オフ・ブロードウェイ奮闘記』などがある。

■『リボルバー』
著者:原田マハ ナレーター:中谷美紀
パリのオークション会社に勤務する高遠冴の元にある日、錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれた。
それはフィンセント・ファン・ゴッホの自殺に使われたものだという。だが持ち主は得体の知れない女性。なぜ彼女の元に? リボルバーの真贋は? 調べを進めるうち、冴はゴッホとゴーギャンの知られざる真実に迫っていく。
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