新NISAで投資を始めた人の多くが、「とりあえずオルカンかS&P500」と選んでいるかもしれません。たしかに長期では有力な選択肢ですが、実際、ここ1年で見れば、オルカンやS&P500を大きく上回る成績を出しているファンドもあります。


特に、2024年は円高が進み、米国株ファンドには逆風の一年でした。そんな中でも堅調にリターンを出したファンドには、今だからこそ注目する価値があるはずです。

今回は、SBI証券投資情報部のシニア・ファンドアナリスト 川上雅人さんが、1年リターンで選ぶ「隠れた実力派ファンド」をピックアップ。意外な選択肢が見つかるかもしれません。

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円高の1年 オルカン・S&P500の1年リターンは?

5月に入ってからの世界の株式市場は、4月上旬の大幅下落からの回復基調が続いています。一方で、為替市場については、5月中旬までは円安ドル高となる場面もありましたが、米国の関税政策(以下、トランプ関税)への不透明感などから、足元の米ドルは上値の重い展開となっています(5月27日現在)。  

2024年4月末から2025年4月末までの1年間は、投資信託の基準価額(投資信託の1口あたりの値段のこと、株価のようなもの)の計算に使われてるドル円TTM(銀行が為替取引で使う基準レートのひとつ)は9.13%下落し、海外株式ファンドの基準価額押し下げ要因となりました。  

そのため、NISAで人気のeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)(以下、オルカン)やeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)(以下、S&P500ファンド)は、株式市場が上昇したものの基準価額は伸び悩む結果となりました。 

過去5年間におけるオルカン、S&P500ファンドの1年リターンの推移を示したものが、図表1となります。2ファンドは1年リターンがほぼ同じ傾向といえます。  

円高ドル安要因によって、2025年4月末時点のオルカンの1年リターンは+0.20%、S&P500ファンドの1年リターンは▲0.15%にとどまりました。円高ドル安による基準価額の押し下げ要因については、2025年4月末が過去5年間で一番大きかったことが分かります。


このような円高となった投資環境下で、オルカンやS&P500ファンドとの比較でパフォーマンスが好調だったファンドが、分散投資先として注目に値するのではないかと考えます。

オルカンやS&P500ファンドの1年リターンを大きく上回ったファンドがあるのかと調べてみるとそれなりの数がありました。その中からSBI証券取り扱いで1年好成績ファンド(オルカンの1年リターンを20%上回るファンド)を一定の条件で絞り込んだ一覧が図表2となります。以下、それぞれのファンドの特徴についてコメントします。
オルカン・S&P500 を20%上回った 1年好成績ファンドの特徴は?

分散投資先として有望な金ファンド

1年リターン1位のSMT ゴールドインデックス・オープン(為替ヘッジあり)は、金現物に投資する上場投資信託証券に投資し、LBMA金価格(円ヘッジベース)に連動する投資成果を目指すファンド、いわゆる金(ゴールド)ファンドです。金価格が好パフォーマンスとなったことに加えて、為替の変動による損失を避ける仕組みである為替ヘッジを行っているため円高の1年で高いリターンとなりました。

為替ヘッジを行う場合は内外金利差(米国短期金利-日本短期金利)に相当する部分などが為替ヘッジコストとなるため、今の環境では高いコストを間接的に支払う点に注意が必要です。

5位が同じく金に投資をしているゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)となりました。円高の1年リターンでは為替ヘッジありが優位でしたが、円安となった3年・5年のリターンでは、為替ヘッジなしが優位となりました。金ファンドは、オルカンやS&P500ファンドと値動きが異なるため、分散投資先として有望といえます。
金鉱企業の株式に投資を行うファンド

2位のブラックロック・ゴールド・ファンドは、南アフリカ・オーストラリア・カナダ・アメリカ等の金鉱企業の株式に投資を行うファンドです。金鉱株の株価と金価格は長期では同じ方向に動く傾向が見られ、金価格の上昇を受けて3ヵ月でもトップクラスの実績となっています。
値動きの振れ幅を示すリスクの目安となるファンドの値動きの大きさである標準偏差(3年)が大きいのが特徴といえます。

世界の成長株を厳選したファンド

3位のWCM 世界成長株厳選ファンド(資産成長型)(愛称:ネクスト・ジェネレーション)は、参入障壁の持続可能性、企業文化、構造的成長力、バリュエーション(株価が割高か割安かを判断するための評価指標)等に基づき世界の株式に投資するファンドです。

組入上位銘柄は、アプリケーション技術プラットフォームを提供する米国のアップラビン、消費者向けインターネット企業であるシンガポールのシー、ドイツのエネルギー企業のシーメンス・エナジー、プライベート・エクイティ・ファンド(上場していない企業に投資して、成長後に利益を得ることを目指すファンド)を中心に運用を行う投資管理会社である英国の3iグループなどとなっており、組入銘柄数は35銘柄です(※)。

1年・3年で好成績となっているのは、優れた成長株式の銘柄選定に加えて、好パフォーマンスとなった欧州株式の比率が高かったことも要因といえます。このファンドは、SBI証券が厳選した「長期投資×好実績」のSBIセレクトとなっています。
フィンテック関連のファンド

4位のグローバル・フィンテック株式ファンド(為替ヘッジあり)、8位のグローバル・フィンテック株式ファンドは、今後の成長が期待されるフィンテック関連企業の株式などに投資しているファンドです。

組入上位銘柄は、金融サービスプラットフォームを手がけるフィンテック証券アプリ企業である米国のロビンフッド・マーケッツ、カナダを拠点にクラウドベースのeコマースプラットフォームを提供するショッピファイ、暗号資産取引プラットフォームを運営する金融インフラ技術プロバイダーの米国のコインベース・グロ―バル、ビッグデータ解析のソフトウェアプラットフォームを提供する米国のパランティア・テクノロジーズなどとなっており、組入銘柄数は40銘柄です(※)。

上昇しているビットコイン価格との連動性が高いのが特徴で、標準偏差がかなり大きいファンドです。
高い技術力や競争力等を持つ宇宙関連のファンド

6位の東京海上・宇宙関連株式ファンド(為替ヘッジあり)、10位の東京海上・宇宙関連株式ファンド(為替ヘッジなし)は、高い技術力や競争力等を持つ宇宙関連企業の株式等に投資しています。組入上位銘柄は、パランティア・テクノロジーズ、公共安全テクノロジー企業のアクソン・エンタープライズ、グローバルセルラーブロードバンドネットワークの構築・提供を手がけるASTスペースモバイル、エヌビディアなどとなっており、組入銘柄数は62銘柄です(※)。

宇宙は注目の成長テーマであり、3年・5年でも好成績のファンドで、為替ヘッジなしはSBIセレクトとなっています。
任天堂など、海外市場や訪日外国人の消費拡大が期待できるファンド

7位の海外消費関連日本株ファンド(愛称:クール・ジャパン)は、海外市場での消費の高度化や訪日外国人の消費拡大で収益の増加が期待される企業の株式に投資しているファンドです。
組入上位銘柄は、任天堂、ソニー・グループ、「ドン・キホーテ」などのスーパー事業を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス、コナミグループなどとなっており、組入銘柄数は50銘柄です(※)。

1年ではTOPIXや日経平均インデックスファンドを大きく上回る実績であり、トランプ関税の影響を受けにくい企業の株式に投資しているファンドといえそうです。
今後の成長が期待される非接触型ビジネスのファンド

9位のデジタル・トランスフォーメーション株式ファンド(愛称:ゼロ・コンタクト)は、今後の成長が期待されるゼロ・コンタクト・ビジネス(非接触型ビジネス)関連企業の株式に投資しているファンドです。組入上位銘柄は、パランティア・テクノロジーズ、ショッピファイ、暗号資産など新たな金融商品を販売しているオンライン証券会社のロビンフッド・マーケッツ、ゲーミングプラットフォームを展開するロブロックスなどとなっており、組入銘柄数は41銘柄です(※)。

上記ファンド10本は、①金鉱株式を含む金(ゴールド)関連のファンド、②世界や米国の成長株式(成長テーマ)に投資するファンド、③特色ある国内株式のファンド、の3つに分類されます。総じてトランプ関税の影響を受けにくいファンドといえます。それぞれのファンドの特徴を理解した上で、オルカンやS&P500ファンドと組み合わせて投資することが有効と考えます。

また、ポートフォリオ(保有している資産の組み合わせ)全体で海外資産の割合が高い方で、将来の円高ドル安を警戒するなら、為替ヘッジありのファンドや円資産である国内株式ファンドを組み合わせることも選択肢になると思われます。

(※)組入銘柄の情報は4月末基準。個別銘柄の取引を推奨するものではありません。

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『投資情報メディア』より、記事内容を一部変更して転載。

川上雅人 かわかみまさと SBI証券 投資情報部 シニア・ファンドアナリスト(公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト) 慶應義塾大学卒業。
丸三証券で国内株アナリスト、国内大手運用会社で18年間、商品企画・営業などを担当後、2020年よりauカブコム証券でファンドアナリストとして活動。2022年11月から現職。最新の投資情報を発信する『投資情報メディア』のレポート・コラムなどで投資信託や資産運用(新NISAなど)に関する情報提供を行う。 この著者の記事一覧はこちら
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