日立製作所は6月10日、東日本旅客鉄道(JR東日本)との間で、首都圏の鉄道運行管理・保守業務におけるAIエージェントの効果測定を目的とした共同検証を、2025年9月ごろより実施することで合意したことを発表した。

○鉄道運行管理に特化したLLM構築で業務効率化貢献へ

首都圏の在来線の運行を管理する東京圏輸送管理システム(ATOS)は、多くの機器が複雑に組み合わさった大規模システムで構築される。
そのためトラブルや機能に関する問い合わせなどが発生した場合に、それらの解析や原因の特定を行う指令員には、非常に高度な専門知識やノウハウが求められるといい、マニュアルなどでの解決が難しい場合には熟練者への問い合わせが必要となるなど、故障原因の特定から復旧までに時間を要することがある。

しかし昨今では労働人口の減少がさらに進行しており、指令員の人材不足も見込まれるため、より少ない人数でさらなる安定輸送を実現する必要があるとのこと。そこで日立とJR東日本は、DXによる業務変革を見据え、AIエージェントを活用した安全で持続可能な鉄道運行の実現を目指すとする。

具体的には、日立によるこれまでの数百の事例から獲得したOT(制御・運用技術)ナレッジの活用手法に加え、データと知見を価値に変えるという「Lumada」のアプローチを通じて、JR東日本が有するシステム仕様書(形式知)や日立のインフラ制御システムが保有する制御機器のドキュメント(形式知)、運用ノウハウ(暗黙知)など、両社の知識資産を取り込むことで、鉄道運行管理に特化した大規模言語モデル(LLM)の構築を行うとのこと。さらに、熟練者の思考プロセスを再現した故障対応シナリオに基づくAIエージェントも開発し、LLMとも組み合わせることで、故障個所の特定や対応方針の提案を自動的に行うことができるか、そして指令員の判断を支援できるかどうかを検証するという。

共同検証の実施は2025年9月ごろを見込んでおり、ATOSにおいて、複数拠点で連動して稼働する複数の機器の1つに障害が発生した状況など、具体的な障害発生を想定して検証を行うとする。そうした障害が発生した場合には、その機器に連動する各機器からもアラートが同時に発報され、指令員の監視端末にすべてのアラート情報が集約される。そのうえ、現地作業員からの現場情報の報告も加わる中で、指令員が錯綜する情報を総合的に分析し、原因究明および復旧方法の特定を行うという、実際の業務シナリオに沿って進めていくとのこと。通常では指令員は膨大なマニュアルを参照しながら調査作業を行うものの、高度な専門知識とノウハウが必要であり、相当な時間も要していたことから、今回の検証ではそうした障害発生時の業務シナリオにおいて、2社の知識を融合したAIエージェントを適用したプログラムを活用することで、指令員の対応工数や時間が削減できるのかが検証される。

日立は今後、共同検証で得られるデータや知見を詳細に分析し、同社およびJR東日本が有する暗黙知を組み込むことで、AIエージェントの精度をさらに向上させていく予定だとする。さらに両社で協力して継続的にDXによる業務変革を推進することで、設備故障対応に要する時間の短縮や工数の削減を実現し、鉄道運行停止リスクを低減することを目指すとした。

また日立は、今般の共同検証から得られる成果は、運行管理領域にとどまらず、運用保守やシステム要件定義、設計・製作業務への応用も視野に入れているといい、そうしたノウハウや技術を活かしてミッションクリティカルな現場を有するOT分野へとAIエージェントの適用を進めることで、フロントラインワーカーの業務変革を支援するとともに、環境・幸福・経済成長が調和する社会の実現に貢献するとしている。
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