三井住友信託銀行が設置している「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は6月11日、勤労者の報酬満足度に関するアンケート調査の結果を発表した。調査は2025年1月、全国の18~69歳10,000人を対象にインターネットで行われた。

○勤労者の報酬満足度は?

2025年度春季生活闘争(春闘)では、2年連続で定期昇給込み5%台の賃上げが実現しており、定期昇給を除く賃上げ分も過年度物価上昇率を上回った(連合|労働・賃金・雇用 春季生活闘争 2025年春闘より)。

石破首相は2025年1月の施政方針演説で「賃上げこそが成長戦略の要」と明言し、物価上昇を上回る賃上げによって、国民の所得と経済全体の生産性向上を図ると表明した。ここまでの賃上げの流れについて、今後も政府が引き続き強力に旗振りを進める旨が表明されている。

賃上げが浸透しつつある現状において、勤労者は報酬に満足しているのだろうか。同社は2025年1月に全国1万人規模の調査を行い、そのうち約7,600人の勤労者における「金銭的報酬」に対する満足度を調査した。

勤労者の報酬水準への満足度を5段階で調査したところ、報酬に満足している人の割合は全年代で21.6%にとどまり、不満を持つ33.5%に比べて少ないことが分かった。

年代別では、若年層ほど満足度が高い傾向が見られ、18~29歳は「満足」の回答割合が、「不満」の回答割合を上回る結果になった。一方で、年代が上がるにしたがって、報酬満足度は減少傾向となった(60代を除く)。

本人の年収別に「会社・団体の報酬水準(給与・賞与・退職金等)」に対する満足度を聴取したところ、年収1,000万円付近までは、年収と満足度は比例して上昇していた。

しかしながら、満足者の割合は年収1,000万円の層で頭打ちとなり、それ以上では、満足している人の割合は横ばいとなった(ただし、「とても満足」の回答者は増加した)。

○勤労者の報酬満足度と家計行動の関係性

勤労者が報酬に満足している/いない原因は、単に金額の問題だけでなく、人事評価や業務内容など様々な要因が複雑に絡み合っていることが考えられる。

本レポートでは、報酬に対して「とても満足」「満足」との回答者を「満足している群」、「不満」「とても不満」との回答者を「不満がある群」と称し、この両者の「家計行動」の違いを考察していく。


まず、ライフプランの策定状況は、どの年収区分でも「報酬に満足している群」の方が、「不満がある群」に比べてライフプランを立てている割合が多いことが分かった。

また、金融リテラシーの自己評価も比較すると、「報酬に満足している群」の方が、「不満がある群」に比べて金融リテラシーに自信がある人が多いことが分かる。年収700万円以上で報酬に不満がある人は、およそ4割が金融リテラシーの自己評価が低い結果となった。

これらの他にも、どの年収区分でも、報酬に満足している人は家計の収支把握をしている割合が高く、報酬に満足していない人は、年収が高くてもお金の面で苦労している人が多いことが分かった。

つまり、一概には言えないものの、報酬に満足している人は、相対的に金融リテラシーを身に付けたうえで、家計管理やライフプランニングなどにより自身の家計と向き合い、行動をしていることが想定される。
○報酬満足度を上げるカギは?

では、企業・団体の立場において、勤労者の報酬満足度を向上させるカギは何なのだろうか。上述のとおり、年収の高さによる満足度の向上がみられるため、賃上げなどによる報酬水準の向上は一定程度有効といえる。加えて、ここまで見てきた家計行動に紐づけて考えると、勤労者個人の「家計行動に対する支援」も有効になり得ると考えられる。

例えば、職場での金融教育経験がある人は、そうでない人に比べて、報酬満足度が高い人の割合が1.7倍に増えている。特に、年収が上がるほど、この差が顕著になっている。

また、報酬には、定例給与などに加え、今は支給されなくとも、退職時に支給される「退職金」もある。この退職金の水準を把握している人は、そうでない人に比べて、報酬満足度が高い人の割合が1.9倍と、大きな差となった。
こちらも、年収が上がるほど、この差が顕著になっている。

こうした結果を受け、調査では次のようにまとめている。

勤労者の報酬に対する満足度は、賃上げなどによる客観的な水準の向上が重要である。一方で、勤労者個人の満足度は主観に依るところも大きく、客観的な水準の向上だけでは一定程度の限界があることも示唆されている。企業や団体にとっては、単に賃上げを実施するだけでなく、従業員が「この所得で十分に生活できる」と実感できるような取り組みが求められる。そのためには、従業員一人ひとりが金融リテラシーを身につけ、自身の家計状況を把握し、将来の人生設計に基づいた行動をとることが重要となる。特に、退職金といった将来の大きな収入を認識することは、家計に対する自信や満足度に大きく影響すると考えられる。
編集部おすすめ