1. テレワーク志向の就活生、一方で進む「脱テレワーク」
コロナ禍を契機に普及したテレワークは、今や若年層の働き方意識に大きな影響を与えています。特に就活生の間では、「テレワークありき」の企業選びが基準の一つとなりつつあります。
マイナビが実施した「2025年卒 学生就職モニター調査(2024年7月時点)」によると、就職活動に影響を与えたニュースワードに、4年連続で「テレワーク、リモートワーク、在宅勤務」が上位にランクされるなどテレワーク環境を整えている企業に魅力を感じる学生の割合が多くなっていることが読み取れます。
しかし、一方で、企業側の姿勢は変化しつつあるのです。筆者もクライアントとの雑談で「テレワークは、今はほとんどしていません」や「在宅するのも月に数回でしょうか」といったようにオフィスを縮小した企業など物理的に難しい事情を除いて、管理部門の担当者は、原則、出社している割合が多い印象です。
米GoogleやAmazonでは「週5出社」への移行が進み、日本でも大手企業を中心にテレワークの見直しが加速しています。「原則、出社」や制度の限定的運用が行われ始めており、「脱テレワーク」の波が確実に押し寄せています。これは、業務効率化および生産性の向上、組織文化の再構築、人材育成の必要性などを理由にした流れといえます。
私自身もコロナ禍では週2日は在宅勤務をしていましたが、今では月1~2回程度とほぼ出社している状況です。今後、日本企業も海外の流れに同調していく可能性が高く、テレワーク志向が強い就活生との間にギャップが生じる懸念も考えられます。
2. テレワークのメリット・デメリットと就活生の懸念
テレワークには多くのメリットがあります。まず、挙げられるのは通勤時間の削減です。総務省統計局が実施した「令和3年(2021年)社会生活基本調査」においても通勤、通学にかかった時間が示されています。全国平均で片道1時間19分通勤、通学にかかっており、首都圏(神奈川、東京、千葉、埼玉)では、1時間30分程度と全国平均よりさらに長い時間かかっていることが示されています。
1日3時間近くかかっている時間が削減されることは、大きなメリットといえます。また、集中しやすい環境が確保できること、ワークライフバランスの向上は、特に学生に好まれる要素となっています。
テレワークを採用した柔軟な働き方は、多様なライフスタイルや家庭事情にも対応でき、特に小さな子どもや要介護者がいる家庭では「テレワークの選択肢があったことで退職せずに済んだ」という声も多く聞きます。家庭事情があっても働き続けられる環境は大きなメリットといえるでしょう。
しかしながら、デメリットも見逃せません。OJT担当者がテレワークすることでコミュニケーションが満足に取れず、効率が悪くなる。さらにはコミュニケーション不全による人間関係の悪化もコロナ禍ではありました。新卒社員にとっては、OJTの機会減少、ランチや飲み会など先輩社員との非公式な接点の減少、そして出社しなくなることにより、社内文化への適応が困難になるなどといった問題が指摘されているのです。また、「配属ガチャ」により、実際にはテレワークができない職場に配属されるリスクもあり、学生側もその実態を不安視しているといいます。
3. テレワーク前提での企業選び、そのリスクと見極め方
テレワークを前提とした企業選びには、いくつかの落とし穴があるのです。まず、現在「フルリモート可」としている企業でも、生産性が上がらない場合や運用上、弊害が出ているなど何かしらの不都合があった場合には、将来的に制度が見直される可能性がある点です。
筆者も多くの就業規則(テレワーク規程)を見ておりますが、規定を確認すると、多くの企業では一般的に「会社が適当でないと判断した場合にはテレワークを中止することがある」など規定の仕方に多少の違いはあるものの、テレワークを中止することができるように規定されています。
つまり、会社の都合により、いつでも中止できる運用になっていることと、実際に、制度としては存在していても、「所属長の判断により認める」とされていれば、配属先や上司の裁量によって運用されないケースも少なくありません。
加えて、「柔軟な働き方=テレワーク中心」とは限らないのです。ハイブリッドワークやフレックスタイム、時短勤務、週休3日制など、柔軟性を実現する方法は多岐にわたります。就活生は、単に制度の有無だけではなく、その制度がどのように運用され、文化として根付いているかを見極める必要があるのです。会社説明会や面接等今はカジュアルに受け付けている企業も多いです。ミスマッチの起こらないよう制度の有無のみに限らず、なぜその制度を採用しているのか。どの程度運用されているのかなど実際の運用面においても、実績ベースで確認しておくことでミスマッチが起こりにくくなるでしょう。
4. 企業の成功事例と今後の展望
2026年卒の就職人気企業ランキングでは、テレワークを導入している企業が上位に名を連ねています。伊藤忠商事(柔軟な勤務制度)、富士通(ハイブリッド勤務)、NTTデータ(テレワーク推進)などがその代表例です。この傾向は今後も続く可能性が高いです。結論として、企業と学生の間で「理想の働き方」に関する対話の重要性は増しています。
学生は制度の見た目に惑わされず、実態に基づいた情報を収集することが大切です。
また、企業側も働き方の柔軟性と組織との一体感をどのように両立させるかが今後の鍵を握ります。つまり、テレワーク制度の有無そのものよりも、コロナ禍で浮き彫りになったテレワークの課題についてどう対応しているのか見極める必要があるのです。
オンライン中心の働き方でも、帰属意識や仲間意識を高める工夫が必要です。具体的には、定期的な1on1面談、雑談イベント、バーチャルオフィス活用など、非業務的な接点づくりが今後ますます重要になると考えられます。「働く環境をどうデザインするか」「どのように組織に帰属してもらうか」が問われる時代になるといえます。就活生は、上述したようにこうした工夫に取り組んでいる企業かどうかを見極める目を養い、自分に合った環境で成長できる職場を選ぶことが求められるでしょう。
5. 柔軟な働き方の法制化とは? 法的な観点から「週5出社」について考える
最後に法律の動きについても見ていきましょう。
日本では少子高齢化が深刻化しており、出生数、出生率は歴史的低水準となっています。そのような状況下で2023年12月に「こども未来戦略」における「共働き、共育て」は少子化対策の柱の一つとなっています。この推進の目的は仕事か子育てか二者択一を迫られない社会をつくることが目的とされています。このような背景の中、育児介護休業法の改正が具体的施策の一つとして行われました。
今年の10月から育児介護休業法上で会社は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して次の5つから2つ労働者が選択できる形で柔軟な働き方を実現できるようにすることが求められます。
(1)始業時刻等の変更
(2)テレワーク等(10日以上/月)
(3)保育施設の設置運営等
(4)就業しつつ子を養育することを容易にするための(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
(5)短時間勤務制度
つまり、今後について法的にも会社はテレワークを含めた柔軟な働き方を整えておく必要があるのです。国の施策の観点や労働者の置かれる状況からもより柔軟な働き方が求められます。日本の少子高齢化が深刻化している状況下であってもテレワークを廃止にすること自体はNGではないものの、単に週5出社を命じることは受け入れられにくいといえるでしょう。
土井裕介(大槻経営労務管理事務所) どい ゆうすけ 特定社会保険労務士、医療労務コンサルタント、ジョブオペTM認定コンサルタント。静岡県出身。家族の病気をきっかけに医療現場の働き方を目の当たりにする。働きやすい医療現場作りに貢献したいと考えコンサル業務に取り組む。また、フジテレビの番組「Live News イット!」において「調べてみたら」の年金コーナーの監修を行うなど、各種メディアへの執筆を通してわかりやすい制度の解説を心がけている。 この著者の記事一覧はこちら
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