The Browser Companyは6月11日(米国時間)、開発中のWebブラウザ「Dia」のベータ版の提供を開始した。招待制の提供になっているが、「Arc」ブラウザの登録ユーザーはすぐに使用を開始できる。
対応OSはmacOS。対応環境はmacOS Sonoma以降が動作するApple Silicon搭載Macに限定される。

The Browser Companyは「長く基本設計が変わっていないWebブラウザをゼロから開発したらどのようなものになるか?」というコンセプトのもと、2022年に「Arc」ブラウザを発表した。Arcはその革新的なデザインとユニークな機能により、新しいテクノロジーやデザインに関心を持つユーザー、情報整理や作業効率を重視するユーザーから支持を得た。しかし、習熟に時間がかかるというハードルがあり、一般ユーザーへの普及が進まず、ユーザー規模の拡大には至らなかった。

この反省を踏まえ、The Browser CompanyはArcの開発を中止し、一般ユーザーにも扱いやすい新たなスマートブラウザとして「Dia」の開発に着手した。

DiaはAI活用を前提に設計されたChromiumベースのブラウザである。同社はArcにもAIを導入していたが、それは従来のブラウザにおける拡張機能的な位置づけにとどまっていた。これに対し、DiaではAI機能がブラウザのインターフェースに統合されている。

長文記事の要約、難解な内容の解説、翻訳など、WebコンテンツにAIツールを利用する機会は増えている。Diaはそうした新たなブラウザ利用を反映したものとなっている。ChatGPTやPerplexity、ClaudeといったAIサービスに移動することなく、いつでもAIチャットを通じて検索やタスク処理を利用できる。
ユーザーがAIモデルを選択する必要はなく、チャットを開始するだけで、質問や依頼に最適なAIツールが自動的に選択され、応答が提供される。Diaによれば、現在はOpenAIの大規模言語モデル(LLM)を使用しており、日本語を含む多言語に対応している。

なお、Arcユーザーは優先的にDiaのベータ版を使用できるが、DiaはArcの後継ではない。プライバシー重視など共通点はあるものの、サイドバー中心のユーザーインターフェースや、「スペース」によるタブ管理といったArcの特徴はDiaには採用されていない。AIチャットを中核としたまったく新しいブラウザである。そのため、ArcユーザーがDiaベータ版を利用する際にはArcのログイン情報は使えず、新たにDia専用のログインを作成する必要がある。

DiaのAIチャットはサイドバーまたはフローティング表示され、タブを指定してチャットすることで、そのタブのページ内容が読み込まれ、文脈に即した対話が可能となる。要約や翻訳の処理速度は高速であり、複雑なリクエストに対しては推論モードが自動的に作動する。複数のタブを対象にすることもでき、たとえば購入を検討している複数のファッションアイテムのページを開き、それらの中から色の組み合わせや用途に適した商品を提案してもらうといった使い方も可能である。

DiaのAI機能は、一般的な質問、検索、翻訳、要約、タブや履歴に関する問い合わせに対応する「チャット」、文章作成を支援する「ライティング」、プログラミング関連の質問やコード生成、デバッグ、解説などを行う「コード」という3種類のスキルで構成される。

これらのスキルは、ユーザーの入力内容に応じて自動的に最適なものが選ばれるほか、「/write」や「/code」と入力することで手動で呼び出すことも可能である。

さらに、任意のチャット応答をカスタムスキルとして保存することもできる。
たとえば「AI関連の主要ニュース、東京の今日1日の天気を教えて」といった対話を行い、その結果を「Save as Skill」機能で「morning」という名称で保存すれば、次回からは「/morning」と入力するだけで同じリクエストを行える。

プライバシーに関しては、チャット、履歴、ブックマーク、閲覧コンテキスト、ファイルはすべて暗号化され、ローカルに保存される。Diaに質問すると、そのリクエストに関連するデータのみがデバイス外に送信される。送信されたコンテンツデータはプロフィールと紐付けされず、30日後にはサーバーから自動的に削除される。

閲覧コンテキスト機能を利用すると、過去7日間のアクティビティに関してDiaに質問することが可能である。これはクラウド上で生成され、ローカルに保存される要約情報によって実現されている。この機能はデフォルトでは無効化されており、設定で有効/無効を切り替えられる。

The Browser Companyは「設計段階からのプライバシー保護」を強調している。たとえば、ミーティングの予定を調整するメールを開いた状態でカレンダーをチャット内でメンションすれば、Diaが適切な日程を提案してくれるといった使い方が可能である。Diaとコンテンツデータを共有することで、AIを活用した効率化が期待できる。一方、AIを深く組み込んだブラウザの提供は始まったばかりである。プライバシーポリシーにおいて、銀行や医療機関などの機密性の高いサイトのデータに関しては「保存・処理しないよう努めます」となっており、完全なブロックが保証されているわけではない。
ユーザー自身も設定の見直しやデータ削除を適宜行うなど、プライバシー保護への意識を持って利用することが求められる。
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