トランプ関税などによる経済的な停滞感に加え、中東情勢の緊迫化もあり、市場には一層の混乱が広がっています。オルカンやS&P500へ集中投資してきたものの、本当にこのままでよいのかと、不安を感じている人も多いのではないでしょうか。


もちろん、こうした局面でも淡々と積み立てを続けることは大切ですが、複数の資産に分散投資できるファンドを取り入れるという選択肢もあると、SBI証券投資情報部のシニア・ファンドアナリスト・川上雅人さんは語ります。

前回の記事では、オルカンやS&P500の1年リターンを大きく上回ったファンドをご紹介しましたが、今回はその“続編”として、よりリスク軽減が期待できる、株式・債券・金など複数資産に分散投資するバランスファンドを取り上げます。

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円高の1年 5月の資金流入動向は?

2025年5月の投資信託(追加型株式投信(ETF除く))の資金流入額(買付金額-売却金額)は、8,881億円となり、2024年12月以来の1兆円割れとなりました。投資信託の月間資金流入額は新NISA2年目の駆け込みで過去最高となった2025年1月をピークに減少傾向が続いています(図表1)。

足元の資金流入が減速している要因としては、①2025年に入ってからの円高ドル安によって、NISAで人気のeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)(以下、オルカン)やeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)(以下、S&P500ファンド)をはじめとした、海外株式ファンドの基準価額が伸び悩んでいること、②株式市場では4月上旬に大きく下落した後の回復スピードが速かったことに加えて、トランプ政権の関税政策の不透明感などによって投資家の様子見姿勢が強まっていること、などが考えられます。

このような投資環境下でファンドの積立投資においては、淡々と継続していくことが重要といえます。
一方で、ある程度まとまった資金を運用している方は、リスク(値動きの振れ幅)を抑えるために、海外株式を中心としたファンドのみの運用だけでなく、株式や債券や金などの複数の資産に分散投資を行っているバランスファンドを活用することが有効と考えます。

そこで今回は、円高の1年(2024年4月末~2025年4月末)で、基準価額が伸び悩んだオルカンやS&P500ファンドの1年リターンを上回ったバランスファンドが注目に値すると考えます。NISAで買えるSBI証券取り扱いの1年好成績のバランスファンド一覧が図表2となります。それぞれのファンドの特徴についてコメントします。
オルカン・S&P500 を上回った 1年好成績バランスファンド7選を紹介

7位 SBIグローバル・ラップファンド(積極型)(愛称:My-ラップ(積極型))

上場投資信託証券(ETF)および投資信託証券を主要投資対象とし、世界各国のさまざまな資産への分散投資により、中長期的な収益の獲得を目指すファンドです。ファンドの基本組入比率は株式型資産(金やリートを含む)が75%、債券型資産が25%となっており、株式型資産のうち金は9%です(※)。

6位 ピクテ・ゴールデン・リスクプレミアム・ファンド(愛称:ポラリス)

日本を含む世界の様々な資産クラス(株式、債券、金、リート等)に投資し、世界の市場環境に応じて魅力的なリスクプレミアムが期待できる資産を選定し、配分比率の決定を行うファンドです。基本資産配分の見直しは原則として月次で行い、資産別の構成比率は、株式29.7%、債券34.3%、金30.8%などとなっており(※)、過去も金の構成比が高いファンドとなっています。
5位 東京海上・物価対応バランスファンド(年1回決算型)(愛称:インフレ・ファイター)

米国短期国債、海外物価連動国債、国内物価連動国債、海外株式、日本および米国の住宅REIT、金に分散投資を行うファンドです。各投資信託証券への基本組入比率は、米国短期国債20%、海外物価連動国債20%、国内物価連動国債20%、海外株式20%、日米住宅REIT10%、金10%を基本とし、外貨建資産のうち、原則として、一部の投資信託証券において為替ヘッジ(円高・円安の影響を減らすための対策。為替変動のリスクを抑える仕組み)を行うことにより為替変動リスクの低減を図っています。
債券の比率が高いことや為替ヘッジにより実質的な外貨建資産の比率が低いことから、値動きの振れ幅を示す標準偏差(値動きの大きさのこと。数値が高いほど価格変動が大きく、リスクも高い)が小さいファンドとなっています。

4位 グローバル経済コア

日本を含む世界の株式、債券、リート、金に分散投資し、各投資対象市場の代表的なインデックスへの連動を目指す運用を行うファンドです。株式及び債券の基本組入比率は、地域別(日本、先進国、新興国)のGDP(国内総生産)総額の比率を参考に決定しています。資産別の構成比率は、国内株式3.60%、外国株式20.25%、新興国株式12.50%、国内債券2.45%、外国債券19.12%、新興国債券12.20%、J-REIT4.87%、グローバルREIT5.08%、金18.98%などとなっています(※)。
3位 ピクテ新興国ゴールデン・リスクプレミアム・ファンド(愛称:新興国ポラリス)

新興国の株式および債券、金等様々な資産に投資を行い、世界の市場環境に応じて魅力的なリスクプレミアムが期待できる資産を選定し、配分比率の決定を行うファンドです。基本資産配分の見直しは原則として月次で行い、資産別の構成比率は、株式37.5%、債券21.7%、金36.3%などとなっており(※)、過去も金の構成比が高いファンドとなっています。

2位 ダイワFEグローバル・バリュー(為替ヘッジあり)

割安と判断される世界の株式等に投資、金ETF、債券、転換社債などの資産も投資対象としているファンドです。運用は、ファースト・イーグル・インベストメント・マネージメントが行っており、為替ヘッジ有のファンドです。円高となった1年のリターンでは為替ヘッジありが優位でしたが、3年リターンなどでは為替ヘッジなしが優位でした。
資産別の構成比率は、北米株式44.2%、欧州株式21.7%、日本株式6.7%、金関連(金ETF、金関連株式)14.0%などとなっており(※)、株式の比率が高いバランスファンドといえます(※)。
1位 ROBOPROファンド

世界の株式、債券、リート(不動産に投資するファンド。不動産から得られる賃料収入などを原資に分配金を支払う)および、商品市場で取引される資源であるコモディティ(金)に分散投資し、各資産配分にあたっては、マーケットデータ、対象資産の期待収益率、リスク、各資産の相関等に基づく合理的判断によりAIが月1回配分比率を決定しているファンドです。機動的な資産配分の変更によって1年では相対的に高いリターンを獲得しました。資産別の構成比率は、先進国株式33.1%、米国株式29.7%、新興国株式13.4%、ハイイールド債券(信用力が低い企業などが発行する債券で、高い利回りが期待される分リスクも高い)13.4%、金9.8%などとなっています(※)。好パフォーマンスとなったファンドの運用状況等の詳細は動画(動画のURLは記事末尾参照)をご参照ください。

オルカン・S&P500の1年リターンを上回った上記バランスファンド7本は、投資対象やリスクの水準は様々ですが、共通点としては金に分散投資しているファンドとなっています。

金はオルカンやS&P500ファンドとは値動きが異なり、長期でも好成績の資産でもあるため、分散投資先として有望といえます。過去20年における金のトータルリターンは米国株式(S&P500)を超えています(図表3)。


金ファンドに投資することも有効となりますが、金を組み入れたバランスファンドの活用も選択肢となります。

それぞれのバランスファンドの特徴を理解した上で、オルカンやS&P500ファンドなどと組み合わせて投資することが、特に不透明な環境下においてはリスクを抑えた分散投資の有効なツールになると考えます。

(※)資産別の構成比率または基本組入比率は4月末基準。

※米国株式はS&P500(配当込み)、全世界株式はMSCI ACWI(配当込み)、先進国株式はMSCIコクサイ(配当込み)、新興国株式はMSCIエマージング・マーケット・インデックス(配当込み)、国内株式はTOPIX(配当込み)、先進国債券はFTSE世界国債インデックス(除く日本)、新興国債券はJPモルガン・GBI-EMグローバル・ダイバーシファイド、国内債券はNOMURA-BPI総合、先進国リートはS&P先進国REITインデックス(除く日本、配当込み)、国内リートは東証REIT指数(配当込み)、金はLBMA金価格から算出
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません

掲載されたファンドの情報はこちら

『投資情報メディア』より、記事内容を一部変更して転載。

川上雅人 かわかみまさと SBI証券 投資情報部 シニア・ファンドアナリスト(公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト) 慶應義塾大学卒業。丸三証券で国内株アナリスト、国内大手運用会社で18年間、商品企画・営業などを担当後、2020年よりauカブコム証券でファンドアナリストとして活動。2022年11月から現職。最新の投資情報を発信する『投資情報メディア』のレポート・コラムなどで投資信託や資産運用(新NISAなど)に関する情報提供を行う。 この著者の記事一覧はこちら
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