三谷幸喜氏が自身のオリジナル脚本と監督で手掛ける、WOWOWの"完全ワンシーンワンカットドラマ"シリーズの第3弾『ドラマW 三谷幸喜「おい、太宰」』が、6月29日(日)22:00~WOWOWプライム/WOWOWオンデマンドで、放送・配信される。

本シリーズは、全編を一度もカメラを止めずに撮影するという前代未聞の挑戦が特徴で、2011年に放送されたシリーズ第1弾『short cut』では、山道に迷い込んだ夫婦の姿をワンカットで見事に描き、平成24年日本民間放送連盟賞(テレビドラマ番組)最優秀賞を受賞。
続く2013年の第2弾『大空港2013』では、空港を舞台に豪華キャストによる群像コメディが展開され、その斬新な演出と壮大なスケールで視聴者を魅了した。

12年の時を経て待望の復活を遂げたシリーズ第3弾となる同ドラマの舞台は"海"。太宰治が心中未遂を起こしたとされる海辺に迷い込んだ平凡な会社員が、時代を超えて奮闘する姿をコミカルに描く。物語の主人公で、太宰治を敬愛する会社員・小室健作を演じた田中圭に、本作の舞台裏と「モノづくりをする際に心がけていること」を語ってもらった。

○三谷幸喜監督ならではの独特のセリフ回しや、シチュエーションの面白さ

――田中さんはこのシリーズの大ファンで、三谷監督にたびたび熱いラブコールを送られていたそうですね。具体的にこのシリーズのどんなところに惹かれたんですか?

過去作を観た時、「なんだこれは?」って驚いて。「なぜこれをワンカットで撮ろうと思ったの? こんなに大変なことを……。負担しかないじゃん!」って思ったんです。「いったいどれだけ稽古をして、どれだけの時間をかけて撮っているんだろう?」って、頭の片隅では思いながらも、観ているうちにワンカットで撮ってることを忘れている自分がいるんです。で、また「これ、ワンカットだった!」って思い出す頃には、もはや感動すら覚えるといいますか……(笑)。同じ俳優として、傍から見ていても、スタッフもキャストもどれだけ大変なことをやっているのか分かるだけに、「スゴイ作品を見せてもらってるな」って。皆様へのリスペクトの気持ちが湧いてくるんです。


―——なるほど。それを踏まえて、本作の台本を読んだ時の感想は?

正直な第一印象としては、「おお、セリフ多いな」です(笑)。三谷さんならではの独特のセリフ回しや、シチュエーションの面白さで、クスクス笑いながら、どんどん読み進められちゃうんですけど、「これをどうやってワンカットでやるんだろう?」とは思いました。台本にはタイムスリップの細かい手法までは書かれていなかったので、「洞窟を通り抜けるとタイムスリップしてるってどういうこと?」って(笑)。

――舞台の場合は稽古期間がありますが、本作は映像作品ですよね。現場に入るまでに、具体的にどんな準備をされたんですか?

稽古期間が8日間あるのは最初から分かってはいたんですが、逆に言うと8日間しかないとも言えるので。しかも三谷さんから「セリフはちゃんと覚えておいてね」と直々に連絡をもらっていたので、台本の準備稿が届いた時点からセリフを覚え始めて。稽古の時には、ほぼセリフが入っているような状態で、三谷さんから細かい演出を受けつつ、他の共演者の芝居を見ながら作っていった感じでしたね。三谷さんの場合は台本も自分で書かれるから、稽古中もその場でどんどんセリフが書き換えられたり、新たなセリフが書き足されたりもするんですけど、すべて具体で指示を出してくれるので分かりやすいし、役の理解が深まっていくんです。

――宮澤エマさん、小池栄子さん、松山ケンイチさん、梶原善さんとご一緒されてみていかがでしたか?

三谷さんとよく組まれてるお三方と、松山さんと。皆さんお芝居が巧みでいらっしゃるので、すごく楽しくて。お互い変に気を遣う必要もないというか。
稽古も本番もすごくいい感じで出来たんじゃないかと思いますね。とはいえ一発本番の緊張感の中で、松山さんはいつ何時何を仕掛けてくるかわからないし、(梶原)善さんに至っては「それをやったらこっちの芝居も変わってくるやろ!」って思うような"余計なこと"をしてくる感じはありました。
○ずっと汗が止まらなかった

――今回、念願の"完全ワンシーンワンカット撮影"を経験されてみて、新たに発見したことは?

空気が読めない人や、協調性がない人が現場にいたら、できなかっただろうなとは思いました。僕が舞台を定期的に絶対やるようにしているのも、一連で芝居をしてその世界を生きることがすごく大事だと思っているから。それによって毎回初心に帰れたり、本質を見られたり、気づかされたりすることがあるからなんです。もちろん、一連で芝居をする大変さはたくさんあるけれど、その分、この状況でしか絶対に味わえない贅沢さがあるというのは、今回の現場でもすごく感じましたね。

――なかでも一番大変だったことは?

ずっと汗が止まらなかったこと!

――えっ? あの汗はリアルなんですか?

もちろん大リアルですし。結局、6回撮って、6回目がOKテイクだったんですけど、これでも汗をかいてない方だったんですよ。日が照ると、暑さと、動きと、芝居とで、本当に滝のような汗が噴き出して。もともとグレーのベストを着てたんですけど、汗染みで変な感じになっちゃうから、急遽途中で黒に変えたくらいなんですよ。

――なんと、そうだったんですね……! 実際に撮影はどんな風に行われたんですか?

このシリーズの過去作を観る限り、僕の中では計算され尽くしているイメージがあったんですが、今回は砂浜が舞台ということで、潮位の関係で芝居エリアが刻々と変わってしまうんですよ。一度タイムスリップしてから、また現実に戻ってきて、さらにもう1回過去まで行くと、「さっきより浜辺が少ない!」みたいなことになってるわけですよ。
それに加えて雨が降ったりすると、「昨日までなかったはずのところに、川が出来てる!」みたいなことが起きる。

自然相手という意味では、予想した以上に"ぶっつけ本番"感が強いというか。計算しようにも、その場の勢いでやらざるを得ない部分もありました。それこそカメラが回ってるときは、何がどうなってるのか分からないんですけど、撮り終わったら一度ホテルに帰って、みんなでプレビューを見るんです。そうするとそれぞれの部署ごとの課題が明確になるわけですよ。カメラアングル一つとっても、「こっち側からの方が撮りやすいけど、もうちょっと近づいた方が面白いですよね」みたいな感じで毎回少しずつアップデートしていくから、やればやるほどどんどん面白くなってくるのが分かるんです。カメラマンの山本(英夫)さんが、一番大変そうでしたね。

○僕自身、計算とか一切できないタイプ

――自然と、スタッフと、キャストのすべてのタイミングが合わないと実現できない企画だったと思いますが、この座組みだからこそできたと感じた瞬間はありますか?

もちろんすべての現場でそう思ってますけれども、この座組だからこそできたんじゃなくて、正しくは「この座組だからこうなった」んじゃないかと思うんです。もちろんこの役は別に僕じゃなくても成立しますけど、それだと"アガリ"としては当然違うものになるわけじゃないですか。

―——なるほど。では、田中さんが"モノづくり"の現場で心がけていることは?

僕、その場にいる全員が楽しくないと、嫌な人なんですよ。あくまでも全員でやることにこそ意味があるというか。
「それぞれのパートだけで固まってても意味ないじゃん! 現場にいるときはみんな同じチームなんだから」って僕は思うんですよ。まぁそうは言っても、もちろん限界はあるんですけど。本来なくていいはずの壁みたいなものは、自分が座長の現場ではできるだけ取っ払いたいなっていうのは、30代の頃からずっと意識してました。

――ちなみに、以前、別の作品で三谷監督に取材した際、監督は「共通言語がある俳優さんと何度も組む傾向にある」といったお話をされていたのですが、田中さんが一緒に仕事をしやすいタイプって、どういう人ですか?

やりやすいか、やりにくいかで言ったら、自分を見せてくれる人とはやりやすいですよね。たとえ嫌な人だったとしても、嘘なくその嫌な部分を僕の前で出しておいてくれさえすれば、それはそれで「そういう人なのね」って受け入れられるんですけど、下手に嫌な部分を隠されてしまうとどう接したらいいのかわからないじゃないですか。僕自身、計算とか一切できないタイプなので、分かりやすい人の方がラクですね。
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