吹き替えは“お手伝い” 戸田奈津子経由のやりとりも明かす
『ミッション:インポッシブル』シリーズをはじめ、数々の作品でトム・クルーズの声を演じ、トム・クルーズ公認声優として活躍している森川智之。BS10スターチャンネルで6月28日より放送される『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア[新録吹替版]』では、自身が吹き替えを担当する以前のトム・クルーズに声を吹き込んだ。森川にインタビューし、トム公認声優として大切にしていることやトムとのエピソードなどを聞いた。――どの作品においても共通して、トム・クルーズさんの吹き替え声優として心がけていることを教えてください。
トムの考えている演出意図を汲み取ることを心がけています。(トムの通訳を担当している字幕翻訳家の)戸田奈津子さんとも「僕らの仕事は何ですかね」と話したことがありますが、2人が共通して言っているのは「私たちの仕事はお手伝いよ」と。彼の魅力を最大限に表現するという思いでやっているので、どうすれば日本語に置き換えた時にトムの演出意図に寄り添う演技ができるのかというのを主眼に置いています。
――「お手伝い」という意識は当初からですか?
そうですね。僕もトムと同じようにもともと映画ファンで、映画が大好きなので、作り手側の意図に対する敬意を絶対に忘れてはいけないと思ってやっています。
――数々のハリウッドスターやキャラクターの声を演じられていますが、その中でトムさんを演じることは森川さんにとってどういうものになっているのか、そのやりがいなどお聞かせください。
ライフワークにもなっていますし、常にトムが今何をしているのかなって、ストーカーチックにSNSなどをチェックしています(笑)
――それぐらいトムさんのことを何でも把握しておこうと意識されているんですね。
トムが『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の撮影中に足を骨折した時も即連絡しました。僕は連絡先を知らないので戸田さんに連絡して。「トムがケガしたみたいだから、大丈夫かどうか」「お見舞いしなきゃ」と話をしたら、戸田さんはネットを見ないので「え、そうなの!?」とびっくりされて、「わかった。連絡する」と。
そうしたら、「大丈夫だよ、平気だよ」とすぐ返ってきて。骨折しているから平気じゃないんですけどね。「とても素晴らしい映像が撮れたからその映像をちゃんと使うつもりだ。ぜひ楽しみにしていてくれ」という返事までくれました。そういう全方向に楽しんでくれという気持ちが彼にはあるんですよね。
――人を楽しませたいというエンタメ精神は森川さんにも共通してそうですよね。
ファンサービスなどはトムからすごく勉強させてもらっています。何時間もレッドカーペットにずっと立ってファンサービスするハリウッドスターなんていないじゃないですか。すごいですよね。
――トムさんからもらった言葉で大事にしていることはありますか?
会うたびに「いつも頼むよ」「ありがとうね」と言ってくれるので、それが自分のエネルギーになっています。たくさんの人たちがいる中でも、戸田さんはもちろん、僕のこともちゃんと見つけて挨拶してくれるので、それがすごく自分の中では宝物になっていて、これからも頑張ろうという気持ちになります。
トム・クルーズは“いい兄貴”「これからも一緒に歩んでいければ」
――今回、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)の新録吹替版が、視聴者からの熱いリクエストによって森川さんの吹き替えで制作されましたが、新録が決まった時の心境をお聞かせください。間に合ってよかったなと。僕が60代、70代になってからだと厳しいかもしれないので、今でよかったなと思いました。なので、今のうちに早く昔の作品を録っておきましょう(笑)。冗談はさておき、トムの代表作の1つでもある『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』ができて、形として残るという意味では、すごくうれしく思うし、トムの遍歴をずっと一緒に、片隅で辿っている僕からすると、昔の作品に関われたということはとてもうれしいです。
――永遠の命を持つ美しき吸血鬼たちが織りなす愛と苦悩を描く本作。主人公レスタト役で30歳頃のトムさんが演じられ、しかも人間ではなくヴァンパイアという特殊なキャラクターということで、アフレコで意識されたことはありますか?
メイクもコスチュームもザ・ヴァンパイアみたいな形で決まっていて、なりきり感がすごくて、トム自身もものすごくレスタトというキャラクターを落とし込んで演じていると思うので、僕も人外というような作り込みを考えて。常に危険な香りのする、人間から見たらすごくエッジの効いたキャラクターを声でも表現しようと思いました。
――森川さんがトムさんの吹き替えを担当される以前の、30歳頃のトムさんを演じたことはご自身にとってどんな経験になりましたか?
『トップガン』(1986)から8年経ち、まだプロデューサー業はやっていない頃で、いろんなことに挑戦する時期だったと思うんですよね。この作品はその最たるものだったのかなと。その当時のトムを演じたことで、自分の中では関わることがより深くなっているので、トムをこれからも演じる自信になっています。
――トムさんの公認声優としての今後の抱負をお聞かせください。
これからもトムと一緒に歩んでいければうれしいなと。
次どういった作品をやるのかなというのを楽しみにしつつ、いつまでもついていきますという気持ちです。年齢的にも少し先輩なので、いい兄貴みたいな感じです。
――今後の活躍を楽しみにしている森川さんのファンに向けてもメッセージをお願いします。
たぶん僕のファン=トム・クルーズのファンだと思いますので、トムの健康と活躍をみんなで祈りつつ、全力で応援して、そしてトム・クルーズの作品を皆さんと共に楽しんでいければなと思っています。
――トムさんを演じ続けるために森川さんも健康を大事に?
そうですね。でも、僕は普通に健康でいられればいいんですけど、トムの場合は、陸海空と活躍の場が人外なので。そのうち宇宙にも行くかもしれないですし、体に気をつけてほしいです(笑)
■森川智之
1月26日生まれ。神奈川県出身。1987年に声優としてデビュー。『鬼滅の刃』の産屋敷耀哉役、『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし(2代目)役など、人気作品のキャラクターを数多く演じる。また、トム・クルーズ専属吹き替え声優として知られているほか、キアヌ・リーヴス、ユアン・マクレガーら数々のハリウッド俳優の吹き替えを担当している。
■『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア [新録吹替版]』
放送:BS10スターチャンネル 放送日:6月28日18:40~、7月6日15:00~、7月29日25:40~ほか 出演:トム・クルーズ(吹替:森川智之)、ブラッド・ピット(吹替:入野自由)、キルスティン・ダンスト(吹替:新津ちせ)、クリスチャン・スレイター(吹替:阪口周平)、アントニオ・バンデラス(吹替:子安武人)
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