日本が誇る世界有数の腕時計メーカー、シチズン時計を取材。人気ブランド「シチズン アテッサ」のルナプログラム搭載モデルを例に、腕時計の新製品がどのようなプロセスを経て誕生するのかをお届けします。
この連載では、シチズン時計の商品企画部門、技術部門、デザイン部門が、新しい時計の誕生にどのように関わるのか見てきました。最終回は発売後の話です。
○腕時計を発売したあとは、次へ向けてリサーチ
宮原氏(商品企画):時計は完成したら終わりではなく、私たち商品企画は宣伝部と一緒にどのようなプロモーションを展開するか考えて準備します。発売してからはユーザーの反応も集めて、次の製品作りの参考にします。
原口氏(技術部門、現・商品企画):通販サイトのレビューもよく見ています。褒めてくれている意見はもちろんうれしいですが、「針が見づらい」「操作が複雑」といった厳しい意見も真摯に受け止めています。
井塚氏(デザイン部門):どういうきっかけで購入したのかなど、評価とは違う情報もとても参考になりますね。
原口氏:一人ひとりにヒアリングするよりも、レビューのほうが広く見られます。それに通販サイトではユーザーのレビューがある商品のほうが売れる傾向があります。
○日本人が好む「正確さ」「手間いらず」「情緒」を持つ製品へ
―― ルナプログラムを搭載したアテッサのムーンフェイズモデルが好調に販売数を伸ばしているとのことですが、人気の背景をどうとらえていますか。
宮原氏:ありがたいことに人気が出て想定以上のお客さまにご購入いただいています。電波時計という大きなカテゴリーの中では、機能の面で競合となる製品がなく、市場にユニークな商材を投入できたことが奏功したと思っています。
原口氏:このムーンフェイズモデルは腕時計を初めて買う人にも手に取りやすいモデルですし、2本目や3本目にもなりえる間口の広さを持っています。高機能な腕時計を持っている人が、1本くらい遊び心のあるものを持ちたいというときにもピッタリです。
井塚氏:海外ブランドの時計にはない、日本の時計らしい、シチズンらしい時計が作れたと思っています。多くのユーザーが潜在的に求めていた「正確さ」「手間いらず」に、「情緒」が加わったモデルです。スマートフォンの月齢アプリを使うのと異なり、文字板にキレイな円盤が隠れていることで価値が生まれています。
宮原氏:シチズンの企業としてのカルチャーは、トップダウンで降りてきたものをみんなで作っていくのではなく、各部署の担当がそれぞれ全力でがんばれる組織です。その良さがこの製品では発揮されました。
―― ありがとうございました!
今回は「1本の腕時計ができるまで」の具体例として、シチズンの人気モデル(ルナプログラムとムーンフェイズを搭載したアテッサ)に焦点を当てました。日本人の好みを凝縮した時計が生まれた背景には、多くの人が関わり、それぞれの担当が知恵を絞り、時間をかけて完成させていることを実感した取材でした。
腕時計が誕生するまでには、どのメーカーのどの製品も、1本1本がどんな人にどんな風に使ってほしいか――という思いを込めて作られていることが伝わったのではないかと思います。時計を愛し、時計作りに情熱を傾ける人々の活躍によって、これからも魅力的な新しい腕時計が登場していくことでしょう。
著者 : 諸山泰三 もろやまたいぞう PC雑誌の編集者としてキャリアをスタートし、家電流通専門誌の編集や家電のフリーペーパーの編集長を経験。