撮影中は「鏡の前でにらめっこ」「顔の筋トレを毎日」
「般若っぷりすごすぎ!!!!!!」「最悪すぎて最高」「迫力が凄まじい」「夢に出てきそう」――。Amazon Originalドラマ『私の夫と結婚して』で、ひときわ異彩を放つ女優。その狂気の演技にネットでは“戦慄”コメントが続々と書き込まれているが、目の前にいる当の本人はまだ知らない。
配信開始前、親友・美紗(小芝風花)を裏切る悪女・麗奈を演じ終えた白石聖は、達成感をにじませながら、清々しい表情で「お芝居ってやっぱり楽しい」と笑みをこぼす。
今から8年前の2017年、出演CMの取材で受け答えする白石からは、未熟さを受け入れる真摯な姿勢の中にも、必死に成長しようとする躍動を感じた。
「カメラを向けられると普段と違う自分になれる気がします。でも、完成した映像を見ると自分のダメな部分が目立っていて、いろいろな経験を積みたいと思うようになりました」
エキストラに近い“名もなき役”に喜びを感じる一方、主役を張る同年代の存在は眩しく、現場でも刺激を受けた。自分の演技を見た人の感想が届くこともない。それでも彼女は穏やかに、迷いなくこう続けた。
「今はすごく楽しいです」
8年の時を経ても共通する、芝居の楽しさとは。それを知る上で、『私の夫と結婚して』は大きなヒントになる――。
○気合いを入れて臨んだ絶叫シーン「全部ぶっ潰してやる!」
本作は、同名のウェブ小説を原作に、韓国で実写化された話題作の日本オリジナル版。日韓共同プロジェクトとして制作され、二度目の人生を送る主人公・神戸美紗と、美紗の上司・鈴木亘をW主演の小芝風花と佐藤健が務め、美紗の一度目の人生の夫・平野友也を横山裕、そして美紗の親友・麗奈を白石が演じる。
10年前にタイムリープし、夫と親友への復讐を誓う美紗。劇中のいわば悪役として、横山演じる“クズ男”の友也は強烈な存在だが、白石も「ヘビーなシーン」の連続で視聴者を引き込んでいく。
「唯一の親友だった麗奈に裏切られていたことに気づいた瞬間から、歯車が狂い出します。そこからは、はちゃめちゃに暴れていくので、精神的にも体力的にもすごく消耗しました。感情のスイッチの入れ方や持っていき方が大変でした」
感情を爆発させる象徴的なシーンとして、「全部ぶっ潰してやる!」と絶叫する姿が予告編に収められている。
「あのシーンは“やってやるぞ!”の瞬間が切り抜かれています。あのシーンもすごく気合いを入れて臨んだシーンで、映像としてどのように仕上がっているのか、自分でもちょっと怖さ半分、楽しみ半分なシーンです」
監督は、『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』(22)などで知られ、サスペンスやヒューマンドラマを得意とするアン・ギルホ。表情の細部にまで及ぶ演出に応えるべく、撮影中も“鏡の自分”を見つめ続けた。
「作品に入る前に、監督から『麗奈を演じるにあたって、顔の筋肉をたくさん動かして表情を豊かにしてほしい』と言われていて。撮影期間中は鏡の前でにらめっこというか、顔の筋トレみたいなことを毎日していたんです。それによって『自分ってこんな表情もできるんだ』と発見がありました。これまでの作品では見せられなかった自分の表情を、たくさん出せたと思います」
安牌を捨て、表現方法の“殻”を破る覚悟
クランクアップ時、「この役に出会えてよかった」と語っていた白石。これまで感じることのなかった感情や気持ちに触れることができたのは、「麗奈のおかげ」と感謝する。役に導かれて見つけた一つの答え。それをしっかりと握り締め、その手で“殻”を打ち破った。「アウトプットをし続けなきゃいけない仕事だと思うのですが、自分なりに違うアプローチをしても、映像を見ると『なんかつまらないな』と思う瞬間が自分の芝居にはありました。違う角度でチャレンジできたのが麗奈で、アン・ギルホ監督とご一緒できる機会はなかなかないので、自分の表現方法の“殻”を破れるように思い切りやってみようと。『こんな感じでやると、こう見えるのかな』みたいに安全牌にいきたくなるところを、『失敗してもいいから思いっきりやってみよう!』と挑みました」
○“生の言葉”の掛け合いで実感「お芝居ってやっぱり楽しい」
成長を実感しながらも、「お芝居は相手がいて成立すること」と気を引き締める。カメラを向けられると、緊張の中で「普段と違う自分になれる」と高揚したデビュー当初。それから数々の現場を経験し、今では演者やスタッフが一体となって物語が生み出されることを知る。かつての“名もなき役”は、当時の作品、そして自身の役者人生においても重要な1ピースだ。
「今回の現場は韓国のスタイルにあわせて、テストがなく、段取りからすぐに本番に入りました。最初は慣れなくて戸惑いましたが、逆にフレッシュな気持ちで臨めました。その場で生まれる“生の言葉”のようなやりとりができて、お芝居ってやっぱり楽しいなと実感しました」
デビューからこれまで、「芝居の楽しさ」を強く感じ始めたのはいつ頃のことなのか。その問いに対しても、8年前と同じように「お芝居は最初から楽しいと感じていました」と素直に返す。
「『I"s』(18~19・BSスカパー!)という作品では、監督がワークショップを開いてくださって、言葉のキャッチボールをしながら、“セリフの掛け合い”の根柢の部分を教えていただきました。デビューしてすぐのタイミングで『I"s』という作品に出会うことができたので、最初から“お芝居って楽しいな”と思いながらここまで来ることができたと思っています。
『絶対正義』(19・東海テレビ)という作品では、感情の見せ方やカメラの位置を意識することを教えていただきました。目の動きひとつで見え方が変わるということを学んだ作品で、そこまで意識してお芝居できていなかったので勉強になりましたし、楽しかったと強くそこでも思いました」
声優になる夢が遠く感じた高2の夏
2026年は、デビュー10周年となる節目の年。そのことを伝えると、「もう10年なんですね」と実感はなかったようで、高校2年生の夏休みに原宿の竹下通りでスカウトされた当時を懐かしむ。
「将来の夢もまだ漠然としていて。声を使ってキャラクターに命を吹き込んだり、ナレーションなどで何かを表現したりする声優に憧れていたのですが、外部から来てくださった講師の先生のお話を聞いて、『自分が想像していたものと現実は違うのかな』『どうしようかな』と迷っていました。絶対に自分は声優になるんだとか、そこまでの強い意志もなくて、なんとなく専門学校に行ってやりたいことを見つけて……と本当にぼんやりしていたところに声をかけてもらったのがきっかけになりました」
将来に不安を感じていたあの日からたどりついたのは、声優とも共通点のある「役に命を吹き込む」役者業。変幻自在に役柄になりきり、SNSで「気づかなかったけど、あのときのあの子だったんだ!?」の声を目にした際には、「そうですよ! 気づいてくれてありがとう!」とそっと感謝する。
○遠くに感じた“麗奈”を目指した先に
別の取材では、「壁にぶつかったことは?」という質問に「まだない」と即答していた。芝居の楽しさを追求し、走り続けてきた彼女の目の前にあるものとは。
「壁はあったと思いますが、それを“壁”だと認識せずに生きてきました(笑)。でも、いま振り返ると、『あのとき難しかったな』『あれで正解だったのかな』とか思うことはあります。今回の麗奈という役は本当に難しくて、自分の中でこれをやり切ったら、すごい達成感が得られるだろうなと。
理想とする麗奈像がすごく遠くて高かったので、それを目指していた感覚です。“壁”ではなくて“坂”。“坂”はありました(笑)」
壁ではなく、“坂”があった――登ることを選び続けた先に、彼女は知らなかった自分に出会っていた。決まった答えがなく、殻を破るたびに面白さに魅了される役者業。静かに積み重ねてきたものが、気づけば誰かの心を震わせていた。
白石聖の物語は、新しい坂とともにこれからも続いていく。
■白石聖
1998年8月10日生まれ。神奈川県出身。2016年にデビュー。2020年に放送された『恐怖新聞』(東海テレビ・フジテレビ系)で連続ドラマ初主演。2020年10月に1st写真集『白石聖2016-2020』を発売した。直近の出演作は、Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』、『フェルマーの料理』(TBS系)、『新空港占拠』(日本テレビ系)、『しょせん他人事ですから』(テレビ東京系)、『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系)など。
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