少子高齢化の進行により、育児や介護と仕事の両立をするビジネスパーソンは多い。2035年には、育児や介護、はたまたその2つを担うダブルケアをしながら働く“ケア就業者”は1,285万人にのぼり、就業者全体の6人に1人を占めると予想されている。
ケア就業者が職場のマジョリティとなりつつある昨今、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げるパーソルグループによる勉強会『子育ても、介護も、仕事も。 ケア就業者1,285万人時代に企業ができること ~2割しか使われない支援制度。「6人に1人はケア就業者」時代のはたらき方再設計~』を開催。登壇者のパーソル総合研究所の研究員・中俣良太氏は「ケア就業者に関する研究」の調査結果を取り上げ、「非ケア就業者との関係性にどう配慮するか」など、ケア就業者に関するさまざまな課題を解説した。
○■ケア就業者が当たり前の時代
冒頭、中俣氏は総務省『就業構造基本調査』の分類に基づき、小学校就学前の0~6歳の未就学児を対象とした乳幼児の世話や見守りを行っている人を“育児者(孫や弟妹の世話は含まない)”、自宅外にいる場合も含めて家族の介護をしている人を“介護者”と定義。また、育児と介護のいずれも行っているケースを“ダブルケア”と定める。そして、育児のみ行う就業者を“育児就業者”、介護のみ行う就業者を“介護就業者”、いずれも行う就業者を“ダブルケア就業者”と定義した。
今後、男性の育児参加率の上昇や高齢化社会の影響によって、育児就業者・介護就業者の双方が増加し、それに伴ってダブルケア就業者も増えると予想されている。その結果、2035年のケア就業者数は、2022年比で9.7%増の1,285万人にのぼるという。中俣氏は「自分自身がケア就業者になる可能性、ケア就業者と一緒に働く可能性はどちらも当たり前になってくるのではないかと思います」と語った。
○■制度はあれど利用率は低い
ケア就業者の増加が予想されるため、どのような労働環境を目指すことがケア就業者の、ひいては非ケア就業者の働きやすさにつながるのか。2025年4月1日より「育児・介護休業法の改正」が段階的に施行され、ケア就業者が働きやすい環境整備を企業に促している。
実際、「短時間勤務」「残業免除」「テレワークでの勤務」など、従業員規模が大きい企業ほど柔軟な働き方に関する制度の整備は進行中だ。
ただ、中俣氏は「環境整備は進んでいるものの、制度を利用しているケア就業者は約2割にとどまる」と指摘する。その背景として「成果が明確な業務、スキルや経験が問われる高技能業務は制度利用を促進させる傾向があります。言い換えれば、相互依存性の強い曖昧な仕事が、ケア就業者の制度利用を抑制する可能性があります」と語る。日本特有のチーム単位で役割が曖昧なまま業務に取り組む“メンバーシップ型”の働き方が影響していると説明する。
さらには、非ケア就業者の不満による影響も大きい。ケア就業者は周囲の従業員に仕事を任せる傾向が高く、その影響で非ケア就業者の約4割がケア就業者に対して不満を抱いている。月間の平均残業時間を比較すると、ケア就業者の業務をフォローする非ケア就業者(14.1時間)は、業務フォローのない非ケア就業者(8.5時間)と比べて5.6時間も多く残業している。「周囲の社員に対して不満を抱かせてしまうのではないか」という不安が、ケア就業者が制度利用を敬遠させる要因になっていることを示唆した。
○■非ケア就業者の不満解消に向けたマネジメントの再考
非ケア就業者側の不満に対する具体的な解決策を紹介していく。まず非ケア就業者側の不満の要因として上司のマネジメントを挙げる。就業者同士で直接業務の調整をするのではなく、上司が間に入ることが有効であるという。
加えて、上司からの激励がかえって非ケア就業者側の不満を高める可能性に触れ、「根性論ベースのマネジメントは機能しなくなっていて、業務をいかに公平・公正に調整するのかが今の時代の上司に求められます」と話す。
企業側の対応が不十分であることにも言及する。「ケア就業者の仕事を引き受ける非ケア就業者に対する企業側の支援が手薄い」と感じている人は約7割にのぼることから、「業務をフォローしてくれた社員へのインセンティブを考えていくことが有効ではないかと思っています」という。続けて、業務をフォローしている非ケア就業者は残業時間が増える傾向があり、“残業代が多くもらえる”というインセンティブは現状でも発生しているが、それとは別の報酬を用意することが重要であると語った。
○■ケア就業者だけに制度を許容してもダメ
また、各働き方制度が一部の就業者にのみ利用可能な場合と、全就業者が利用可能な場合では、全就業者が利用可能な制度のほうが利用率が高い。全員が利用できるため、ケア就業者への不満や不公平感が生まれにくいことが、利用率を押し上げていることがうかがえる。中俣氏は「多くのはたらき方制度の全面整備には限界がある」としながらも、「ケア就業者だけに制度を許容しているだけでは、利用率は上がっていきません。その辺りを企業はしっかり意識する必要があるのではないかなと思います」と解説する。
そして、「今後はケア就業者の周りの社員も含めたような組織単位、チーム単位という視点を持ち、包括的なアプローチでしっかり『ケアと仕事の両立』というテーマへの対策を講じていく必要があるのではないかと考えています」と締めた。
制度がどれだけ整備されても、利用しやすい空気感を醸成できなければ“無用の長物”になりかねない。非ケア就業者の心理を理解したうえで制度整備が推進されれば、ケア就業者だけでなく非ケア就業者の働きやすさにもつながるだろう。
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