2025年7月9日にClaris International Inc.(以下、Claris)から「Claris FileMaker 2025」の提供が開始された。詳細は提供開始直後の記事でお伝えしているのでご一読いただだきたいが、今回のリリースの大きな特徴として、AI関連機能が強化されたことと、有効な対象のライセンス契約があればClaris FileMakerだけでなく追加料金なしでClaris StudioとClaris Connectも利用できるようになったことが挙げられる。
また、Clarisに関する最近のトピックといえば、米国時間3月14日にRyan McCann(ライアン・マッキャン)氏が新たに同社のCEOに就任したことが発表された。
Claris FileMaker 2025のリリース後、7月下旬に同氏が来日し、7月30日にインタビューする機会を得て、新CEOとしての取り組みや同社の動向などを聞くことができた。インタビューには同社North Asia Sales Directorの日比野暢氏と、法人営業本部セールスエンジニアリングマネージャーの森本和明氏も同席した。このインタビューの模様をお届けする(以下、敬称略)。
○お客様を第一に考えてパーパスを実現していく
-- Clarisは長年「making advanced technology accessible to more people(先進的なテクノロジーに多くの人がアクセスできるようにする)」というパーパスを掲げ、ライアンさんのCEO就任を伝えるプレスリリースにもこのフレーズが出てきます。このパーパスのために、CEOとしてこれからどのように取り組んでいきますか?
マッキャン お客様を第一に考えるということです。「お客様」には、エンドユーザも、インハウスのシチズンデベロッパも、開発で生計を立てているプロのデベロッパも含まれます。
インタビューの数日前には、神奈川県藤沢市の「傷病者情報管理システム」が使われている現場を訪れました。救急と医療機関の緊密な連携が実現していて、お客様のコミュニティにとって良いインパクトとなる優れた事例であり、これほど勇気づけられることはありません。
-- ClarisのWebサイトによると、ライアンさんは2013年に米州セールス担当シニアディレクターとしてClarisに入社したそうですね。
マッキャン そうですね、その背景から、私はお客様と向き合うこと、お客様の近くにいることを重視しています。セールスは私にとってはスポーツのような感覚で、お客様とのやりとりがとても楽しいのです。
-- 11月に東京で開催される「Clarisカンファレンス2025」の際にも来日する予定ですか?
マッキャン はい、その予定です。
○ビジネスは好調、新規ユーザのハードルも下げていきたい
-- Clarisのビジネスの動向はいかがでしょうか。
マッキャン 好調です。2024年と2025年を比較した対前年比で、世界的に大きく伸びています。お客様の組織数も、1組織あたりのユーザ数も、両方とも増えています。新規のお客様としては、Appleとの協業によりヨーロッパや米国で教育市場が成長しています。業績が成長しているという点では日本も同様で、日本の市場は一貫してClarisにとって最も力強い市場のひとつです。
-- 今後のさらなる成長に向けて、どのようなことを考えていますか?
マッキャン 最も重要なのは、既存のカスタマーベースを守ることです。しかしそれだけではなく、今後1年間のロードマップとしては、新しいチャンスをつかみ、新しい市場を獲得していくために、お客様が新たにClarisプラットフォームを使う際のハードルを下げることも重要だと考えています。
○新バージョンでClarisプラットフォーム全体をスムーズに使えるようになる
-- 新規のお客様のハードルを下げるというお話がありました。
マッキャン まず、既存のデベロッパがClarisプラットフォームをスムーズに使えるようにするためです。そしてさらに、新規のお客様も初めからClarisプラットフォームをフルで使えるという意義があります。
-- Claris FileMaker 2025のリリースにより、Claris StudioやClaris Connectの単体での契約がなくなりました。ゆくゆくはこの3つがまとまって1つのプロダクトになるのでしょうか?
マッキャン 統合されたプラットフォームではありますが、1つずつの機能をしっかり呼び分けられるようにしておきたいと考えています。開発のプロのためのFileMaker、シチズンデベロッパが構築するのにも役立つClaris Studio、そしてインテグレーションのためのClaris Connectという位置づけです。
-- 新規のお客様の獲得にあたり、力を入れていく分野などはありますか?
マッキャン Clarisプラットフォームは絵を描く人のキャンバスだと考えています。つまりプラットフォーム自体は、使用する企業の規模や業種を想定していません。あらゆる規模、業種、業務に対応できます。とはいえ、主なターゲットとして念頭にあるのは、これまでと同様に中小企業やワークグループです。また、日本では医療、製造、教育分野のお客様に多く使われているというように、市場の特徴もあります。
○AI活用に関するClarisプラットフォームのアドバンテージは?
-- FileMakerにデータがすでに蓄積されていれば、AI関連機能のうち特にセマンティック検索や回帰モデルを用いた予測などは有効だと思いますが、これから始める場合はデータがまだFileMakerに蓄積されていません。そのことは、新規ユーザにとってのハードルになりませんか?
マッキャン AIに関するロードマップとして意識しているのは、既存のデベロッパがスムーズに開発できること、新規のデベロッパが始めやすいこと、エンドユーザがAIを最大限に活用できることの3点です。
日比野 FileMakerのデータはまだないとしても、実はすぐに有効に活用できます。まず、多くの企業がExcelでデータを管理していると思いますが、ドラッグ&ドロップするだけでFileMakerのデータになり、複数のワークシートを統合して扱えるようになります。また、先ほどお話しした藤沢市の事例がそうなのですが、紙の書類をスキャンしてデータを収集するという使い方もできます。そしてClaris StudioやClaris Connectをあわせて利用することで、ウェブのフォームなどからデータを容易に集めることもできます。
-- Claris FileMaker 2025ではAIの機能が強化されましたが、今後もAIに重点を置いて開発していくのでしょうか?
マッキャン AIもそれ以外も、健全なバランスが必要だと考えています。コアなデベロッパの方々の声も、新たに使う方々の声もしっかり聞きながら、ニーズに合った機能が入っているか、ロードマップを検証しながら進めていきます。
-- Apple Intelligenceなど、Appleの新しいテクノロジーにはどのように対応していきますか?
マッキャン 私たちはApple Companyであることを幸運に思っています。Appleのテクノロジーを最大限に活用できるよう、さらに投資していきます。
日比野 Appleから新しいテクノロジーがリリースされると、1年ほどでしょうか、しばらく経った後に、対応してほしいとお客様から要望があがってくるんですね。日本から要望があがり、それが実現して世界中のお客様が喜ぶ、ということはよくあります。
森本 新しい機能だから、ということではなく、お客様の業務のユースケースにとってどうかということを考慮しますね。
日比野 冒頭で話があったように社内の組織が変革され、今はチケットベースでCEOに声が届いて意思決定ができるので、迅速に開発を進められるようになっています。
小山香織 ライター、インタビュアー、翻訳者、トレーナー。Apple 製品やビジネス系アプリケーションなどに関する著書多数。近著に『iPadマスターブック 2024-2025 iPadOS 17対応』(マイナビ出版)。マイナビニュースでは連載「iPhoneユーザーのためのMacのトリセツ」のほか、インタビューや取材記事を執筆。 この著者の記事一覧はこちら