オーディオやコンポジットビデオの接続に使われるRCA端子(写真01)というものがある。地上アナログ放送で育った世代には見慣れたもの。
RCA端子は、1937年にラジオと蓄音機(レコードプレーヤー)を接続するために導入された。開発したのは、Radio Corporation of America(RCA)である。RCAは、1986年にGE(General Electric Company)に買収されるまで、通信、放送、家電、電子部品などの総合エレクトロニクスメーカーだった。GEもいまでは航空機エンジンメーカーとして知られるが、エジソンが設立した電力会社がベース、当時は、エレクトロニクス全般を扱う巨大コングロマリット企業だった。
RCAは、バナナと関係があった。いや、RCA端子にはバナナプラグは刺さらないだろ? 関係があったのは端子のほうではなくて会社のほうである。
RCAという会社のベースになったのは、俗にAmerican Marconi、正式にはMarconi Wireless Telegraph Company of Americaという会社だ。同社は、イギリスのMarconi社の子会社で、マルコーニの特許を米国内で利用する権利を持っていた。マルコーニは、電気放電による電波の発生とコヒーラーと呼ばれる受信デバイスで無線通信を可能にし、その関連の特許を持ち無線通信を独占的に行っていた。1912年に詐欺的なビジネスを展開し倒産した米国のユナイテッド・ワイヤレス・テレグラフ社を買収し、American Marconiは米国における主要な無線通信事業者となった。
その後、第一次世界大戦が始まると、米国内の無線通信、ラジオ局の施設はすべて軍の管理下に入った。無線通信を最も必要としていた米国海軍は、イギリスMarconi社が、世界中の海底ケーブルや無線通信を独占することを警戒していた。実際、イギリスは、当時Imperial Wireless Chainと呼ばれる国際無線通信網を構築していた。国際間の通信路としては海底ケーブルがあったが、戦時にはケーブルが切断されて通信が途絶する可能性があった。実際、第一次世界大戦のときイギリスはドイツの北海海底ケーブルを切断した。
この時代、無線通信網は、国家の安全保障の一部だった。このため、米海軍は、英国資本のAmerican Marconiに無線施設を返還したくなかった。そのために浮上したのが、GEによるAmerican Marconiの買収と、それに代わる無線通信会社の設立だった。このためにGE、Westinghouse, AT&T CorporationとUnited Fruit Companyの4社が設立したのがRCAだった。最後のUnited Fruit Companyは、現在のChiquita Brands International、あのバナナのチキータである。
なぜ、この会社がRCA設立に関係したのかというと、RCAは、当初は特許プール会社として設立され、United Fruit Companyがラジオ関係の複数の特許を所有していたからだ。所有した理由ははっきりしないが、同社は、中央アメリカに Tropical Radio and Telegraph Companyという通信会社を設立している。
その後、独占禁止法訴訟で、GEは、RCA株を売却することを強制され、RCAは独立した会社となる。しかし、GEとの関係は続き、GEが開発したさまざまな技術、たとえば真空管などをRCAが製品としてビジネスを行った。
RCAが設立された頃は、無線通信は高周波発電機を使って機械的に電波を作っていた。高周波発電機は、英語で表記するとhigh-frequency Alternatorである。Alternatorなので交流発電機である。高周波発電機は、簡単にいうと、コイルを高速で回して、高い周波数(長波)の交流電力(電波)を出力するものだ。この分野で先頭に立っていたのは、GE社で、80 kHz、200 kWというアレクサンダーソン型高周波発電機を持っていた。RCAの設立のきっかけは、このGE社の高周波発電機で、Marconi社が大量の高周波発電機の購入を決定したが、米国海軍は、Marconiに使わせるつもりもなく、米国企業に国際無線通信を行わせたかった。このため、GEにAmerican Marconiの買収とRCAの設立という話を持ち込んだのである。
国際無線通信は、最初は長波を通信に使っていたが、出力の小さい高周波(短波)のほうがより遠くまで電波を飛ばせることが見いだされ、長波よりも高い周波数が必要になった。
これを解決したのが、GEの化学、物理学者ラングミュアで、当時開発された3極真空管を改良、短波無線通信に利用できるようにした。
しかし、RCAは、1970年台に入り、日本の家電メーカーとの競争が激化する。そしてCapacitance Electronic Disc(CED)によるビデオディスク事業に失敗、多額の赤字を生み出す。同様の失敗としてRCAのコンピュータ事業(IBM互換路線)を挙げる人もいる。CED方式のビデオディスクは、すでにベータマックス(1975)/VHS(1976)ビデオが出荷され、さらにはレーザーディスク(1978)も出荷されていた1981年にようやく販売開始となった。1984年にはプレーヤー生産を中止するも、ディスクの販売は1986年まで継続されることになり、その損失は6億5千万ドルとも言われている。
こうしたことから、RCAの経営状態は急速に悪化、元の親会社であるGEが買収することになった。
今回のタイトルネタは、Philip K. Dickの“Radio Free Albemuth”(邦題アルベマス、創元SF文庫)である。1976年に執筆されたが出版は死後の1985年である。登場する米国の大統領は、偏執的で日和見主義、ポピュリストで陰謀論を唱えるなどと、何か現在に通じるものを感じる。作中では、大統領は、宇宙人が侵略目的で配置した地球軌道衛星から操られている。