すっかり定番化した「完全ワイヤレス(TWS、True Wireless Stereo)イヤホン」が、さらなる進化を続けています。近頃の人気は耳を塞がないオープン構造、それも耳を挟むように装着するクリップ型が、快適性と音質の両面から支持を集めています。
○クリップ型TWSのニューフェイス
クリップ型TWSは「イヤーカフ型TWS」と呼ばれることもあるように、耳たぶではなくその上部、耳のふちを挟むように装着します。EarFunロゴが刻まれた楕円状のパーツ(レシーバー部)を耳の裏側に回り込ませ、弾力性がある軸でつながった球体状のパーツ(スピーカー部)を耳孔の上にくるようにすれば装着完了です。あとは一般的なBluetoothイヤホンと同様にペアリングを済ませればOK、iPhoneとAndroidどちらも同じです。
他のクリップ型TWSと違う点は、左右ユニットの役割が明確なこと。孔の向きなど左右の耳の構造にあわせて音の出る方向を最適化したかった、しっかりとした低音を出すことをより重視した、というのがEarFunの主張です。
左右ユニットの区別がないクリップ型TWSは、センサーの働きにより装着すると左右の耳を自動識別し、LRチャンネルの信号を適切に割り当てることでステレオ再生を実現しますが、この機能の弱点は「左右ユニットが完全にシンメトリー(左右対称)」でなくてはならないこと。左右の耳の構造に最適化されているとはいえず、EarFunの主張にも一理あると思えます。
実際にEarFun Clipの音を聞いてみると、確かに低域再生に余裕が感じられます。ウッドベースの弦の跳ね具合、バスドラムを踏み込んだときの圧には、しっかりとした量感があります。
クリップ型TWSにはオープン構造のメリットとデメリット -- 耳孔を塞がないため圧迫感が少なく自然な音場が得られる反面、音漏れしやすく低音が不足しがち -- がありますが、EarFun Clipでは敢えて左右非対称にして左右の耳の構造に最適化することで、低域の量感不足を目指したのでしょう。彼らの狙いは、まずまず当たっているのではないでしょうか。
なお、EarFun Clipは高効率のオーディオコーデック「LDAC」に対応しています。LDACを有効にするためには、マルチポイント接続(EarFun Audioアプリではデュアルデバイス接続と表記)を無効化しなければならず、立体的な音場再現を行うシアターモードも使えなくなりますが、標準のコーデック(SBC)に比べ音の輪郭や明瞭感、中高域の艷やかさがワンランク上の印象になります。AndroidなどLDACをサポートするスマートフォンのユーザにとっては、魅力的なフィーチャーとなるはずです。
○女子大生に装着感を訊いてみた
クリップ型TWSの特長であり他のイヤホンにないメリットは、耳孔を塞がない構造による「快適さ」ですが、イヤーカフを連想させるデザイン性も人気の理由となっています。中年を通り越し壮年の領域に足を踏み込んでいる筆者にとって、耳周りのアクセサリはまったくの門外漢、ここは若者の意見を求めたほうがよさそう...というわけで、現役女子大生にEarFun Clipをしばらく利用してもらい、装着感を中心に印象を訊いてみました。
ピアスやイヤリングと干渉しないかという点については、「ほとんど気にならない」とのこと。EarFun Clipは耳たぶの少し上を挟むような構造で、レシーバー部がやや大きめのため、ピアス/イヤリングの金具部分と干渉するかもと予想していましたが、杞憂に終わったようです。
装着感については、想像していたよりずっと安定しているけれど、スピーカー部が微妙に動くときがある、とのこと。EarFun Clipは外耳部を挟むように固定されるといっても、その力はとても弱く、挟まれるような感触はほとんどありませんが、レシーバー部の"座り"に個人差があるのでしょう。
外観については、色調がなあ...という率直な回答が。スピーカー部は"黒玉"で、レシーバー部とつなぐ軸も黒一色、確かに女性目線ではもうひと工夫欲しいところ。EarFun Clipにはホワイトモデルも用意されているので、そちらを手配すれば印象は違ったかもしれません。
サウンドについては、各種楽器やボーカルがクリアに聴こえて好印象、周囲の音が自然に耳に入るから"ながら聴き"にピッタリかも、だそう。耳孔を塞がないオープン構造だから若干の音漏れは仕方ない、通学電車ではノイズキャンセリング付きのカナル型を使い、EarFun Clipは授業の課題をこなすときのBGM再生用に使います、とのことでした。
○まとめ ~後発組ならではの完成度の高さ~
EarFun Air Pro 4などノイズキャンセリング対応機を中心に展開するEarFunが、満を持して投入した「EarFun Clip」。先行する他社製品を慎重に研究したのか、オープン構造/クリップ型TWSカテゴリでは後発組となってしまいましたが、そのぶん装着感や音質/低域の量感などカテゴリ全体の課題とされる事項にはしっかり対応できている印象です。充電ケースの手触りなど細部まで入念に検討されており、コストパフォーマンスの高さには唸らされます。
強いて言うとすれば、デザインでしょうか。敢えて左右非対称にしなかったところは英断だとしても、目に留まりやすいスピーカーと軸の部分にはもう少し遊び心を出してもよかったような。グローバルで売上好調のEarFunなだけに、チャレンジを続けてほしいものです。
海上忍 うなかみしのぶ IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。マイナビニュースでは、「いまさら聞けないiPhoneのなぜ」のほか、前世紀から続く「(新)OS Xハッキング!」などを連載中。