ドキュメンタリー映画『はだしのゲンはまだ怒っている』が、2025年11月より東京・ポレポレ東中野、広島・サロンシネマほか全国で順次公開されることが決定した。

本作は、世界的に知られる反戦漫画『はだしのゲン』の歩みと、そのメッセージを見つめ直すドキュメンタリー映画。
『はだしのゲン』は、6歳で広島への原爆投下を体験し、過酷な戦後を生き抜いた中沢啓治氏によって描かれた。主人公ゲンの姿には、中沢氏自身の体験と記憶が色濃く投影されており、1973年の『週刊少年ジャンプ』での連載開始から50年を経た今も、世界25カ国以上で翻訳出版され続けている。しかし、近年はその過激な描写や歴史観を巡って賛否も。学校図書館での閲覧制限や、広島市の平和教材からの除外といった動きが広がり、作品の存在意義が再び問われている。戦争の悲惨さと平和の尊さを訴え続けてきたこの作品が、なぜ今なお人々の心を揺さぶるのか。その問いに本作は真正面から向き合う。

映画の原案となったのは、2024年9月にBS12で放送されたドキュメンタリー番組『「はだしのゲン」の熱伝導~原爆漫画を伝える人々~』。放送後、多くの反響を呼び、第15回衛星放送協会オリジナル番組アワード〈ドキュメンタリー部門〉最優秀賞をはじめ、数々の賞を受賞した。番組をもとに長編映画化された本作は、より深く、より広く、『はだしのゲン』の思想と波紋を描き出す。

監督を務めたのは、これまで数々の社会派ドキュメンタリー番組の演出を手がけてきた込山正徳。映画監督としては本作が初めての挑戦となる。製作は、テレビ版と同じ東京サウンド・プロダクションが担当し、込山監督を支える形で、大島新氏(『香川1区』『国葬の日』)と前田亜紀氏(『NO選挙,NO LIFE』)が共同プロデューサーとして参加している。


■込山正徳監督 コメント

私の祖父は東京大空襲で殺され、骨も出てこなかったそうです。母親はその悲惨な出来事を、私が子どもの頃、何度も語っていました。現代は、あの戦争のことを語る方が高齢になり、戦争によって苦しんだ記憶を皮膚感覚で知る機会が、極端に減りました。辛い記憶が伝承されないことに危惧を感じています。また戦争が起こるのではと。戦争によって命を落とすのは一般人なのに、なぜ我々は戦争を止められないのでしょうか。未だに核兵器によって、他国を脅すことが普通に行われています。人類は、ヒロシマ、ナガサキから何を学んだのでしょうか。『はだしのゲン』から学ぶことは、たくさんあります。この映画から感じ取っていただけたら幸いです。

■高橋良美プロデューサー コメント

2024年に放送したテレビ番組『「はだしのゲン」の熱伝導~原爆漫画を伝える人々』が、より力強い内容になり、映画となりました。BS12が自ら映画を作ることはこれが初めてです。
この作品のテーマは、「怒り」。「なぜこんな目に合わなければいけないのか」というゲンの怒り、その怒りを今に伝える人々の熱を感じてほしい、その思いで映画化までたどり着きました。ゲンの怒りは、2025年のこの今にこそ伝えるべきものだと、思いはますます強くなっています。

■大島新 共同プロデューサー コメント

込山正徳監督とはもう30年の付き合いになる。ずっと尊敬する先輩ディレクターだったが、目標にするのは早くから諦めた。なぜなら「込山スタイル」は、とても真似ができないから。込山さんは、人懐こい笑顔と優しい人柄で、難しい被写体とも自然体で向き合う。差別に苦しむ人たちや難病患者、百姓家族や悪ガキたちにカメラを向け、数々の傑作ドキュメンタリーを作ってきた。そんな込山さんが初めて映画に挑んだのが『はだしのゲン』だ。ところが今回の込山さんは、いつもとちょっと違う。果てしない優しさに、静かな「怒り」が加わった。映画は叫んでいる。
「日本人よ、人類よ、これでいいのだろうか」と。

【編集部MEMO】

込山正徳監督は、1962年生まれ。神奈川県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、約40年にわたり市井の人々の喜びや悲しみに寄り添うドキュメンタリーを制作。『春想い~初めての出稼ぎ~』でギャラクシー選奨、『生きてます16歳』でATP総務大臣賞を受賞。『われら百姓家族』はシリーズ化されて話題に。瀬戸内寂聴との中国旅や、伝説の女装家キャンディさんの人生を追った作品など、幅広いテーマに挑む。自身の子育て経験を綴った著書はドラマ化され、映像と人生を深く結びつける表現者として活躍。映画『はだしのゲンはまだ怒っている』で初の劇場監督を務める。
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