値下げが続いていたスマートフォンの料金プランですが、ここ最近は一転して大手から値上げの動きが相次いでいます。この状況は、「格安スマホ」などと呼ばれ低価格に強みを持つMVNOにとってチャンスとなりそうなものですが、必ずしもそうなっていないようです。
ここ最近のMVNOを巡る変化から、理由を探ってみましょう。
大手の値上げが必ずしもMVNOの商機となっていない

NTTドコモやKDDIの新料金プランが投入されたことで、携帯電話料金は新たな局面に入っています。国策として携帯電話料金引き下げを推し進めた菅義偉氏の政権下にあった2020年以降、携帯電話料金は下がり続けていましたが、昨今の物価高の影響を大きく受けたことで、ようやく値上げの動きが出てきたようです。

実際、NTTドコモの「ドコモ MAX」や「ドコモ mini」など、KDDIのauブランドが提供する「auバリューリンクプラン」、UQ mobileブランドが提供する「コミコミプランバリュー」「トクトクプラン2」などは、いずれも付加価値を追加しながらも、実質的に月額料金を上げています。それに加えて、KDDIはauの既存料金プランを値上げすることを明らかにしており、UQ mobileに関しても今後料金改定を予定しています。

執筆時点では、まだソフトバンクが動きを見せていませんが、それでも大手2社が相次いで値上げを発表したことで、値下がりを続けてきた携帯電話料金が値上がりに転じる時期に来たことは間違いないでしょう。ですが、昨今の物価高によって、消費者の節約志向が進んでいるだけに、ついに携帯電話も料金値上げとなると、家計に与えるダメージが大きいというのが正直なところではないでしょうか。

では、かつて「格安スマホ」と呼ばれ大きな注目を集めたMVNOの現状はどうなのでしょうか? MVNOは通信量が少ないながらも、携帯大手より圧倒的に安い価格を実現したことで、およそ10年前に人気となっていました。ですが、政府の料金引き下げの影響もあって、携帯各社が低価格のサブブランドを設立したり、オンライン専用プランを提供したりするなど低価格の領域に力を入れてきたことで、急速に存在感を失ってしまいました。

しかしながら、その携帯大手が値上げの動きを進めており、なかでもその影響が大きいのが、MVNOが得意としている小容量・低価格の料金プランです。実際、NTTドコモは小容量のドコモ miniでプランを半減させ縮小を図っていますし、KDDIに至っては、UQ mobileの小容量・低価格プラン「ミニミニプラン」の後継を用意せず、実質的に手を引いてしまっています。

それだけに、現在の状況はMVNOにとって大きなチャンスにも見えるのですが、これを機としてMVNOが新料金プランを投入して積極的に顧客を開拓しようという動きはあまり進んでいません。
低価格の領域でいえば、日本通信が2025年4月10日にデータ通信専用ながら通信量20GBで月額1,200円、1GB以下であれば119円で利用できる「ネットだけプラン」の提供を開始していますが、ほかに大きな動きは出てきていない印象です。

増える異業種からのMVNO参入、その理由は

一方でここ最近、密かに増えているのが異業種からのMVNO参入です。2025年の代表的な例としては、フリマアプリ大手のメルカリが2025年3月に提供を開始した「メルカリモバイル」が挙げられるでしょう。

メルカリモバイルの大きな特徴は、フリマアプリらしくユーザー間で“ギガ”、つまり通信量の売買ができること。料金の支払いにも特徴があり、サービス開始時点ではメルカリが発行するクレジットカードの「メルカード」と、メルペイが提供する後払いサービス「メルペイのあと払い」の2つのみ。後者を利用すれば、メルカリの売上金などで料金を支払うことも可能となっています。

そしてもう1つは、航空大手の日本航空(JAL)が提供する「JALモバイル」です。こちらはMVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)との協業によって提供されているものですが、JALが提供するだけあって毎月の利用に応じてJALのマイルが貯まるほか、契約していると国内線往復特典航空券「どこかにマイル」が1,500マイルで利用できるなど、航空サービスと連携したさまざまな特典が得られるメリットがあります。

さらに2024年に遡れば、9月にはドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが「マジモバ」を開始。11月には、実業家の前澤友作氏が設立したカブ&ピースが「KABU&モバイル」を開始し、一時同社がテレビCMを積極展開したことなどもあって大きな話題となっていました。

そして、これらのサービスに共通して言えることは、モバイル通信サービスだけで勝負するのではなく、すでに自社が提供しているサービスと連携して顧客にメリットを提供しようとしていることです。最も分かりやすいのがJALモバイルの事例ですが、メルカリモバイルのようにメルカリの売上金でお金を支払える仕組みや、KABU&モバイルのように利用料金に応じて株式がもらえるような仕組みなども、モバイル通信の提供でより自社サービスの利用促進を図る狙いがあるといえます。


既存のMVNOが新料金プランの提供にあまり積極的に動いていない一方で、異業種からのMVNO参入が増えている現状からは、低価格が売りのMVNOとはいえ、これ以上価格競争を加速しても顧客獲得が難しくなっている様子が見えてきます。携帯電話料金は確かに下がりましたが、一方で日本の消費者は携帯電話会社に対する忠誠心が高く、他社サービスに積極的に移る人はあまり多くないのが実情です。

それゆえ、MVNOのシェアもここ最近は横ばい傾向が続いており、知名度が高いとは言えない独立系のMVNOが大きくシェアを伸ばすのは難しい状況です。それだけに、すでに大きな顧客を持つ異業種の企業にMVNE(Mobile Virtual Network Enabler、MVNOの支援サービスを提供する事業者)などとしてサービスを提供し、そちらでの顧客獲得に重きを置いた方が、事業面でのメリットが大きくなってきているではないでしょうか。

実際、先に触れた新規参入のMVNOは、いずれも自社で直接携帯電話会社からネットワークを借りているわけではなく、既存のMVNOなどがネットワークなどを提供しています。そうしたことを考えると、MVNOも携帯大手と同様に、価格から価値の勝負へ変わりつつあるといえそうです。

佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら
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