NTTグループは、ICT・通信の知識を無料で学べる子ども向けイベント「NTTドリームキッズ みらいスクール 大阪・関西万博スペシャル」を開催。光通信の工作実験をはじめ、NTTの最先端技術体験やウェルビーイングの観点からサステナブル社会について考えるワークショップを、東京・仙台・大阪・金沢の全国4カ所で実施した。
本記事では、8月6日に大阪会場「QUINTBRIDGE」で行われたイベントのもようをレポートする。
○■光糸電話を工作、スマホ通信の仕組みを解説

「NTTドリームキッズ」は子どもたちに情報通信やテクノロジーへの興味を持ってもらい、正しく使いこなしてもらうため、NTTグループが2006年から主催してきたイベント。例年、夏休み時期を中心に実施されており、コロナ禍でのオンライン開催などを経て、昨年からはワークショップ形式のリアルイベントとして開催されている。

今年は昨年に引き続き「光通信実験」を行ったほか、「NTTドリームキッズ みらいスクール 大阪・関西万博スペシャル」と題し、例年よりも技術体験コーナーを充実させた。小学校3~6年生を対象に、各32名程度/回(金沢会場は24名/回)の参加者を募集した。

去年は東京・大阪での実施となったが、今年は大阪・関西万博でのNTTのパビリオン出展を踏まえ、年明けから万博会場での体験コンテンツの一部を簡易的に、より多くの会場で体験できるプログラムを検討してきたという。内容や形式などを変えながら20年近く開催しており、最近は子どもの頃に本イベントに参加した経験を持つ、NTTグループ社員もいるそうだ。

32名の参加者はテーブルごとに8人ずつ4チームに分かれ、前半のプログラムでは光を使った通信技術を考える「光通信実験」を実施。音の振動を伝えて遠くまで声を届ける糸電話のように、光ファイバーケーブルによって伝えられた光の点滅で、音楽という音の情報をやり取りする光通信の仕組みが解説された。

子どもたちにとっても身近なスマホは電波を使って通信しているが、その電波が繋がる先にある基地局と基地局の間は光ファイバーケーブルで繋がっている。モールス信号のような原理で、肉眼ではわからない速さで明滅する光を使う光通信は、より少ない電力で速く正確に、大量の情報をやり取りできるという。

光通信の仕組みをより深く理解するため、光通信実験では糸が無くても音が伝わる「光糸電話」を製作。
用意された材料を組み合わせて、光通信に必要な情報を送る送信機と情報を受け取る受信機を作った。

電子オルゴールの音の情報が、送信機で電気信号となってLEDの光に変換され、その光を受信機となる紙コップの底に取り付けた太陽電池が再び電気信号に変換。最後はスピーカーの音の振動となって音楽が再生されることなどを確認した。

さらに、光ファイバーケーブルに見立てた透明な棒に光を当て、光が反射しながら棒の中を伝わり、より遠くから発せられた光でも太陽電池を通して、音楽を再生できるという実験も行われた。

○■五感を伝送する“未来のコミュニケーション”を体験

NTTグループではこうした光を使った通信技術を進化させ、さらに少ない電力でコンピューターを動かせる仕組みの実現に取り組んでいる。その最先端の光通信技術が「IWON」で、2030年の実用化を目標に研究が進められていることなどが紹介された。

後半のプログラムでは、「IWON」などの最先端技術を活用した4つの体験コーナーを各チームで順番に巡った。

「空間データ電送再現技術」は、空間全体のヒトやモノの動きをそのまま伝送し、対象者の視線の動きに合わせて、奥行きのある立体的な映像を再現する技術。CGによる立体的な三次元のバーチャル空間はゲームなどでお馴染みだが、この技術では現実世界の空間をリアルタイムで通信し、より臨場感あるスポーツや音楽のパフォーマンスを遠隔で楽しめるようになるという。

従来の映像と違って奥行きの情報が加えられるため、より膨大な点群データが必要となり、それらのデータをリアルタイムで通信する際に「IWON」が活躍するそうだ。本イベントでは予め録画された映像データが活用されていたが、万博会場のNTTパビリオンでは、「IWON」で接続されたライブカメラの映像などでこの技術を体験できるという。

「筋電」をテーマにした技術を体験するコーナーでは、体に取り付けた筋電センサーで脳から筋肉へ指令を伝える電気信号をセンシング。
3人一組で協力し、通常のコントローラーを使わずにキャラクターを操作するゲームをプレイした。

身体に障害があっても、筋肉から発生する微細な電気信号でアバターなどを操作できるコミュニケーションツールのために開発された「筋電」の技術。万博会場では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の当事者であるDJ MASAさんが、この技術を活用してパフォーマンスを行ったそうだ。

また、振動などの感覚を再現して伝える「触覚電送」の体験では、子どもたちが2人一組で出題者と回答者に分かれ、リアルタイムで触覚を共有できる装置を使ったクイズなどが行われた。

クイズは衝立越しに出題者がソフトボール、ピンポン玉、ビー玉のいずれかのボールを装置の台に落とし、もう一方の台で再現された衝撃や振動の違いから、どのボールが落とされたのか回答者が当てるというもの。

大阪・関西万博のNTTパビリオンでは「ふれあう伝話」という筐体で体験できるほか、音楽ユニット「Perfume」のパフォーマンスがリアルに再現したコンテンツでも、この技術が空間伝送再現技術と合わせて導入されている。

「クロスリンガル音声合成」は、NTTの最新技術によるAIが声の特徴を分析し、話者の声に似た合成音声を自動で作成する技術。

「あたらしいニュースはありません」という一文をマイクに吹き込むだけで、わずか30秒ほどで合成音声が出来上がり、英語や中国語といった外国語も含めて、さまざまな文章を合成音声で再生できる。

NTTパビリオンの6カ国語の音声案内は、この技術で合成されたフェンシング選手・飯村一輝さんの音声が使われているそうだ。事故や病気で声を失ったとしても、ごく短い動画などから音声を分析すれば、よく似た合成音声が作成できるという。「IWON」を活用して話者の声で外国語を同時通訳できるシステムを目指し、現在も開発が進められている。

「IWON」などの最先端技術を活用した4つのコーナーを体験した後、子どもたちが未来の情報通信やコミュニケーションについての考えを発表。
「音声合成で漫才をするロボット」や「飛行機になって風の感覚などを感じられるVR」といったアイデアが紹介された。

本イベントの主催者であるNTTグループの担当者は、「保護者の方々からは、『夏休みの自由研究のテーマに最適』『ワークショップ形式で子どもが自らアイデアを考えて発言する姿が見られて嬉しかった』など、ご好評をいただけています。今回はカードを使って子どもたちが積極的に発言しやすい工夫などもしていて、より積極的に発言したり体験したりする姿が印象的でした」と、イベントの感想を述べていた。

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら
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