北海道電力が手がける「きらめくストア」は、電力会社の事業としては珍しい“ECサイト(オンラインショップ)"だ。2023年8月にスタートし、今年で2周年となった同サービスは、北海道各地のこだわりの商品を発掘し、全国の消費者に届けている。
取り扱いは現在約200商品、提携事業者はおよそ50社。サイトの運営から商品発掘、記事執筆や撮影に至るまで、すべて社員が自ら手がけているのも特徴だ。
“きらめくストア"という名前には、電力会社らしさにに加え、「北海道の各地域には、きらめくものがいっぱいある」という思いが込められている。エネルギー事業とは一見かけ離れて見えるが、地域と共に歩んできた北海道電力だからこそできる挑戦だ。
本稿では、北海道電力が進める「きらめくストア」のこれまでの取り組みと、これからの展望について、北海道電力 バリューマーケティング部 インタラクションサービスグループの吉田 匡克氏と瀬川 修平氏に話を聞いた。
北海道の“きらめく逸品" 発掘から開発まで
きらめくストアの強みは、社員による独自の発掘にある。北海道各地に事業所を持つネットワークを活かし、その土地でしか手に入らない商品や、地域に住む社員が見つけたおすすめ品が社内で共有される。
社員は道の駅や地域イベントに足を運び、気になる商品を見つけると直接問い合わせを行う。北海道電力の名をきっかけに、事業者からも話を聞いてもらいやすいのだという。
「食べて本当に美味しいと感じられるかどうか、リアルな体験を大切にしています。自分たち自身が感動できる商品をそろえることを心がけています」(吉田氏)
発掘にとどまらず、事業者との共創による商品開発にも踏み込んでいる。2025年2月に誕生した「北海道生どらきゃら」はその象徴だ。
洞爺湖町の和菓子店・岡田屋と共同で開発したもので、キャラメルや紅茶、メロンなど5種類のフレーバーを展開。同年2月、新千歳空港で行われた期間限定のポップアップストアでは約6000セットを販売し、完売の日も続出するほどの人気を集めた。
「食べ飽きない味を目指すために調整を重ねました。特にオリジナルのキャラメル味は、塩を加える発想を事業者さんとの対話から得て完成させたんです」(吉田氏)
そのほかにも、一粒40gの大ぶりな餃子(北海道産小麦の皮を使用)や、期間・数量限定で発売される希少性の高い一味唐辛子といった商品がラインナップされている。いずれも他のECサイトではなかなか見られない希少な逸品だ。
中でも餃子は、きらめくストアの人気商品として多くの注文が寄せられていると聞き、筆者も実際に取り寄せて味わってみた。
冷凍便で届いた餃子は、通常よりひと回り大きめサイズ。北海道産小麦を使った厚めの皮はもちもちとしており、小麦の香りもしっかりと感じられる。
焼き上げると、肉の旨みが詰まっていて、ジューシーさと食べ応えを兼ね備えている。自宅のフライパンで焼くだけで本格的な味わいが楽しめ、大人のおつまみにも、子どもが喜ぶ食卓の一品にもなる万能さが印象的だった。
EC×読み物で紡ぐ、新しい通販体験
きらめくストアのもう一つの特色は、「読む通販」というスタイルだ。商品の販売だけでなく、その背景や生産者の思いを伝えるコラム記事を、社員自らが執筆している。
「ライター専門の要員はいません。皆、別業務と兼任しながら現地に行って取材し、記事を書いています。カメラを持って山へ行ったり海へ行ったり、想像していなかった電力会社での社員生活ですが、やりがいがあります」(吉田氏)
実際、コラムがきっかけで店舗来訪者が増えた事例もある。ある事業者からは「記事に載ったおかげで店舗に来てくれるお客様が増えた」といった喜びの声もあったそうで、単に“買う"だけではなく、“知る楽しさ"を加えることで、体験価値を高めている。
利用者層も広がってきている。当初は北海道電力の契約者を主な対象と想定していたが、現在では首都圏を中心とする道外ユーザーが逆転するほどに増えている。北海道を全国に知ってもらうというストアの使命にもつながる動きだ。
「商品を買うだけでなく、北海道に関するちょっとした情報にも役立つサイトになりたいと思っています。たとえば今年5月には、北海道で数十年ぶりに開催された『全国菓子大博覧会』を現地で取材しました。開幕日に記事を掲載すると検索流入が大きく伸び、少しでもお役に立てるサービスになってきていると実感しました」(吉田氏)
産地と消費者をつなぐ架け橋として
きらめくストアは、事業者にとっても参入しやすい仕組みを整えている。掲載料や固定費は一切かからず、小規模な生産者でも安心して取り組めるのが大きな特徴だ。
「北海道電力と一緒に何かをやれることがありがたい」という声もあり、特にEC展開やプロモーションに不慣れな事業者にとっては心強い存在になっている。
この仕組みによって、希少な北海道産品が全国の消費者へと届けられる。ストアは単なる販売の場を超え、地域と全国をつなぐ架け橋としての役割を果たしている。
2周年を迎えたきらめくストアは、今後も新たな挑戦を続けていく。
クラフトビールや日本酒など、北海道の多彩なお酒文化を発信する商品ラインナップの拡充も構想中だ。実際に2025年からクラフトビールの取り扱いを始めており、全国的にはまだ知られていないブルワリーの魅力を届ける取り組みも進んでいる。
「北海道は日本酒やワイン、ウイスキーに加え、最近はクラフトジンやクラフトビールも盛んで、実はお酒の文化がとても強いエリアなんです。そうした“意外に知られていない北海道"を情報発信や商品ラインナップからもっと伝えられたら面白いと思っています」(瀬川氏)
さらに食品以外の食器や雑貨などのラインナップ拡大も検討中。10月には吉祥寺のマルイで、11月には錦糸町のマルイでポップアップストアの開催も予定されており、道外の消費者と直接つながる機会も設けている。
今後も、地域事業者との協力を軸に商品の幅を広げ、北海道の魅力を全国に発信していきたい考えだ。