現在開催中の大阪・関西万博にて、2025年9月3日~8日の期間、スポーツ庁主催のイベント「Sports Future Lab ~スポーツがつくる未来~」が行われ、NTT西日本グループのNTTSportictがブース出展とステージイベントを開催した。

○■期間限定のスペシャルステージ

ブースでは、自治体と連携したスポーツDXの取り組み「マチスポ」をフィーチャー。
次世代型ライブ配信サービス「STADIUM TUBE Touch」のAIカメラを備えた卓球台が設置され、来場者がプレイした様子が自動的に映像される仕組みが紹介されていた。

そして、ステージイベントは、「地域とひとをつなぐ、スポーツの力 ー スポーツDXが支える持続可能なまちづくりの実現」と題したトークセッションが行われ、スポーツDXによる地域活性化をめざしたNTTSportictの取り組み「マチスポ」の連携自治体の首長らが登壇。スポーツ界からのスペシャルゲストと共に、地域スポーツの魅力を引き出す映像活用の取り組みが紹介された。

ステージイベントは、期間中の4日間行われ、2日目となる9月4日には、元プロ野球選手で野球評論家の里崎智也氏と大分県別府市 スポーツ推進課の阿部龍星氏が登壇し、別府市における「マチスポ」の取り組みが紹介された。

ステージではまず、NTTSportict 代表取締役社長の中村正敏氏が登場。『スポーツDXソリューションが実現する新たな地域コミュニティのカタチ「マチスポ」』と題したプレゼンテーションを実施した。

NTTSportictでは、地域で頑張る誰かを応援するという思いを込めて、「『あなたの頑張る姿を、あなたの誰かに届ける』を創業以来大事にしている」という中村社長。世の中には、小学校・中学校・高校・大学スポーツやセミプロ、アマチュアスポーツなど、映像化されていないスポーツがたくさんあるが、そのすべてを映像化し、いつでもどこからでも見られるようにすることが、同社の考える未来だと力を込める。

そのための戦略が、「100万人が見る試合を1試合放送するのではなく、100人が見る試合を1万試合配信する」。そのために、AIカメラと配信ソリューションを組み合わせた「STADIUM TUBE」を展開。この「STADIUM TUBE」の目的は、チーム練習の映像化による「チーム力強化」、大会試合の映像化による「メディアコンテンツ拡大」、地域スポーツの映像化による「まちづくり・地域活性化」の3つであり、「STADIUM TUBE」を使ったまちづくりの取り組みが「マチスポ」となっている。

「マチスポ」では、自治体保有のスポーツ競技施設を中心に「スポーツAIカメラ等+スポーツ情報ポータル」を導入することで、地域のスポーツを誰でも簡単に映像化し、配信できる環境を実現。
スポーツ映像に加えて、地元企業・飲食店やイベント情報を発信することによって、地域内外の人の動きを創出し、スポーツを起点としたまちづくりに貢献していくという。

中村社長のプレゼンテーションに続いては、『未来へ続く希望のバトン ~松井秀喜氏とともに「挑戦の力」を世界へ~』と題した、元メジャーリーガーの松井秀喜氏が9月2日に開催した能登野球教室の特別映像を上映。野球教室では野球専用AIカメラで撮影された映像が子どもたちの指導に活用された。

子どもたちに笑顔と夢を届けたいという想いの下、被災地のグランドにて野球教室を行った松井氏は、「挑戦することは、ときには勇気が必要だが、あきらめずに続けることで必ず未来はひらけていく」と語りかけ、自身も野球を通して“あきらめない心の大切さ”を学んだと振り返り、「その経験は、どんな困難にも立ち向かう力になります」と勇気づける。

そして、「皆さんも、自分の夢を信じて挑戦をし続けてください。その積み重ねが未来をつくり、周りの人にも勇気を届けていきます」と続け、「皆さんの夢に向かっていく力、私も応援しております」と熱いエールを送って締めくくった。

メインイベントとなるトークセッションは、ゲストの里崎智也氏と阿部龍星氏に、中村社長を交えて行われた。「マチスポ」Tシャツ姿で登場した里崎氏は、Tシャツを着用していない中村社長に「愛情が足りないですね」とつっこみ、会場の笑いを誘う。

出身地である徳島県鳴門市でスポーツアドバイザーを務めるなど、地域スポーツの盛り上がりにも一役買っている里崎氏は、「地域の皆様からいろいろな恩恵を受け、野球でプロにもなれて、ここまで来ているので、恩返ししていきたい」と、地域スポーツへの協力を惜しまない気持ちを明らかにする。

続いて、別府市における「マチスポ」の取り組みを紹介。現在、市民球場、実相寺サッカー競技場、総合体育館の3カ所にAIカメラが設置され、ポータルサイト「湯けむりべっぷAIライブ」での配信が行われている。「マチスポ」の取り組みが始まって以来、市民からも「多くの反響をいただいています」と笑顔の阿部氏。
「肖像権などの問題もあり、マニュアルなどを作成しながら、慎重に進めていきたい」と、運営における姿勢を示した。

なお、ポータルサイト名の“けむり”と“べっぷ”がひらがなになっているのは「誰からでも親しみやすいように」という思いからで、「温かさも伝えられれば」と阿部氏は続ける。

そして、実際に配信されている映像を見て、「思っていたよりもすごい」と里崎氏は絶賛。「普通の中継と変わらない」と驚きを隠せない様子だった。

一方、阿部氏は、本取り組みを通じて、「市民の皆さんがよりスポーツを楽しめるようになる」ことに加え、スポーツイベントの開催や合宿誘致も含めて、「観光分野とも連携させて、全体を盛り上げていきたい」と意欲を見せ、「温泉だけじゃないということもアピールしていきたい」と締めくくった。
○■イベント終了後のコメントを紹介

イベント終了後も、「(AIカメラの映像を)初めてちゃんと見たので、想像以上にびっくりしました」と驚きを隠せない里崎氏。「特に地方での少子化によるスポーツ人口の低下は、野球に限らず、スポーツ界全体の課題」との危機感を示しつつ、「普通に野球中継をしているかのような映像だったので、これが広がっていけば、より多くの人がスポーツを楽しめるようになる」と笑顔をみせた。

阿部氏は「あらためて、こういった映像を見て、DX推進の必要性をひしひしと感じた」と話す。別府市では、メジャーなスポーツとマイナーなスポーツの差が出てきているという現状を示し、「別府では、ラグビーの合宿誘致をたくさん行っていますが、今回の取り組みを通して、サッカーとか野球とか、いろいろなスポーツの合宿などを誘致して、すべてのスポーツを盛り上げていきたい」との意気込みを明かした。

そして、「地域によって課題が違ったり、取り組むスポーツが違う」ことから、しっかりとヒアリングを行って、「一緒に寄り添っていくことが大事」という中村社長は、「スポーツだけでなく、いろいろまちの良いものをポータルサイトで発信して、“知るきっかけ”づくりを増やしていきたい」と今後の展望を明かした。
○■NTT西日本の「マチスポ」への取り組み

今回、ステージイベントで別府市における「マチスポ」の取り組みを紹介するということもあり、NTTSportictとともに別府市の「マチスポ」を推進するNTT西日本 大分支店長の谷奈生絵氏にも話を伺った。

NTT西日本では様々な社会課題の解決や地域の活性化に取り組んでいるが、大分においてどのような形で地域に貢献するかを考えた際、「別府市は温泉が有名なので、温泉という観光資源をさらに活性化させる」ことを検討。
そこで、温泉という観光資源にスポーツを組み合わせ、まちの活性化を目指すという方向性で、「マチスポ」の活用にたどり着いたという。

「温泉は別府が誇るすばらしい観光資源」としつつ、「もっといろいろな切り口があるはず。スポーツをやって温泉で癒されるという、ひとつのストーリーを作りたかった」という谷支店長。別府市の長野市長が提唱する、温泉をウェルネスビジネスに昇華する「新湯治・ウェルネス」に賛同。スポーツ施設に新たな価値をつけることによって県外からの合宿誘致を行うという流れの中で、「県外から人をもっと呼べるのではないか」との提案を行ったという。

現在、「マチスポ」の取り組みにおいては、先述した通り、市民球場、実相寺サッカー競技場、総合体育館の3カ所にAIカメラを設置。昨年11月から実証実験をはじめ、住民からの好評を受け、今年7月から本格始動となっている。

今後の重要な課題は“認知の向上”であり、「市民の皆さんはもちろん、実際に大会を運営される方にもしっかりと知っていただき、使いこなしていただく、使い倒していただくことが重要」との見解を示した。

運用が始まったばかりの別府市の「マチスポ」だが、地元の放送局も興味を示すなど「地方は人が少ないため、AIの活用が都市部以上に求められている」という谷支店長。「これからも続けていくためには、自立した事業として成立させる必要がある」と話す。決して慈善事業ではなく、「お金も回る。人も繋がる。
新しい技術もPRできる。そういったところを目指していきたい」との意気込みを明かした。
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