北海道電力は9月13日、科学であそぼ「おもしろ実験室」(札幌市東区)の開設30周年を記念したイベントを実施した。

約400人規模の親子連れが来場し、手作り教材を用いた実験教室のほか、熱気球の打ち上げやホバークラフトの乗車体験など、大規模な特別プログラムも展開。
子どもから大人まで科学の魅力を楽しめる1日となった。
おもしろ実験室とは

おもしろ実験室は、青少年の「理科離れ」が社会的に懸念される中、電気事業と関わりが深い科学技術の分野で北海道の青少年育成を支援したいとの思いから、1995年に開設された。

札幌市東区苗穂町に位置し、道路からも目を引く「大きな目玉」と「ピノキオのような鼻」が特徴的な外観を持つ。

高さ15メートルの天井を備える「うちゅうの大実験室」では、ダイナミックな実験や演示が可能だ。待合コーナーには手作りの科学玩具が並び、子どもたちが遊びながら科学に触れられる工夫がされている。

さらに館内には約3,500冊の科学関連書籍がそろえられており、実験体験のあとに知識を深められる学習環境が用意されている。

常設の教育プログラムは対象学年や目的に応じて設計されており、3・4年生向けや5・6年生向けの学期コースのほか、1日完結型の「1DAYサイエンス」、低学年とその保護者対象の「親子deサイエンス」などを展開。

さらに、専門的な機器を使った高度な実験を行う中学生向けの「サイエンスラボ」も実施し、小中学生を対象にさまざまな科学体験を提供している。

実験に使うテキストは、歴代の講師が試行錯誤を重ねて作り上げてきたオリジナルのもの。教材も木材や電気部品を組み立てて手作りされており、市販にはない工夫が詰まっている。

おもしろ実験室館長の野島氏曰く、「一方的な知識の押し付けではなく、『なぜ?』という疑問が次々と湧くような仕組みになっています」とのことだ。

30周年イベントの概要と当日の模様

おもしろ実験室は今年で開設30周年を迎え、これまでに延べ18万人以上が来館してきた。

野島氏は「この間、たくさんの子どもたちに科学に親しんでいただく機会を提供できたのは、教育関係者や保護者、地域の方々の温かいご支援のおかげ」と振り返り、「今回のイベントは30年分の感謝を伝えたく企画した」と話す。

30周年イベントでは、いつもの実験室を使った工作・実験プログラムに加え、館内のさまざまなスペースを活用した体験プログラムなど、全体で10種類の企画を展開。節目を祝うにふさわしい充実した内容となった。

会場には午前10時の開場を前に来場者が列を作った。事前抽選制の実験教室は満席となり、当日の会場は終始にぎわいを見せた。

実験教室「光で羽を回そう!」では、ラジオメーター効果を利用した実験を実施。子どもたちは厚紙を用いて羽を組み立て、ライトを照射して羽が回転する仕組みを確認した。

講師は赤外線の身近な利用例として飲食店の保温機を紹介し、子どもたちが身近な生活と科学を結びつけて理解できるよう工夫していた。

うちゅうの大実験室では「熱気球を飛ばそう」を実施。ポリ袋と針金で作られた気球を用い、エタノールを染み込ませた綿に点火して上昇させる。気球は紐で制御されており、天井に達する前に浮力が収まるよう設計され、安全性に配慮されていた。

事前には、ビニールの厚さや針金の重さ、エタノールの量などを調整しながら、何度もリハーサルを繰り返したという。
そうした工夫の積み重ねにより、子どもたちは安心して熱気球の仕組みを体験できた。準備は子ども4人1組で行い、実験を通して浮力や熱の作用を学ぶ形式となっていた。

会場には、手作りの科学知育玩具や科学関連の掲示物が並び、教室以外の時間でも子どもたちが科学に触れられる工夫がされていた。

また、スタンプラリーでは、3つのスタンプを集めるとオリジナルグッズがもらえる仕組みを用意。学びと遊びを組み合わせた仕掛けが、子どもたちの参加意欲を引き出していた。

このイベントは10周年以来20年ぶりの周年企画であり、コロナ禍以降では初の大規模開催となった。会場運営には学生アシスタントも総動員され、子どもたち一人ひとりを丁寧にサポート。

アシスタントの中には、かつてこの施設のプログラムに参加し、理系大学へ進学したおもしろ実験室のOBも含まれていた。過去には、この実験室で科学に関心を持ち、北海道電力に就職した例もあるという。
指導者・参加者の声

おもしろ実験室の講師陣は、小中学校で校長を務めた経験を持つ先生方で構成されている。教育現場で培った経験を活かしながら、子どもたちに科学の面白さを伝えている。

三木氏は「子どもたちが学んでいることがストーリーとしてつながるように構成することを意識している」と語る。
過去の講座では橋の模型を題材にした授業で、子どもが自ら「三角形を作れば強度が増す」と気づいた場面もあったという。

伊藤氏は「どうして?どうなる?どうする?」という発問を通じ、子ども自身が科学的に考えるきっかけを大切にしている。

両氏は共通して、単に知識を教えるのではなく、科学技術の重要性を体験を通じて伝え、「なぜ?」を考える習慣を育てることを自らの役割と位置づけている。

会場では、子どもたちから「ホバークラフトが楽しかった」「羽が回ったのが面白かった」といった声があがった。低学年で理科の授業が始まっていない子どもも参加していたが、「工作が好き」と興味を持って取り組む様子が見られた。作った作品を持ち帰り、家で繰り返し遊べる点も好評だった。

保護者からは「学校からの案内を見て参加した」「子どもがパンフレットを見て『行きたい』と希望した」といった声が寄せられた。「自宅から近く、以前から気になっていたがイベントをきっかけに参加できて良かった」という感想もあった。

教育的な価値については「科学を身近に感じられる良い機会」「子供の将来の進路はまだわからないが、理系への興味喚起につながる」と評価する意見が寄せられた。また、「次は通常のプログラムにも参加してみたい」という声もあり、今回のイベントが今後へのきっかけになっていることがうかがえた。

今後の展望

おもしろ実験室は、開設から30年にわたり子どもたちに科学の魅力を伝えてきた。責任者の野島氏は「今後も参加される方々に喜んでもらえるよう努力を重ね、存続させていくことが一番の使命」と語る。


そのうえで「北海道では半導体関連企業などの進出により理系人材の需要が高まっている。当館の活動が理科好きの子どもを育て、地域における人材育成の一助になれば」と期待を寄せた。

先生方からは「細胞の観察やDNAの取り出し」「赤外線や紫外線など“見えない力"を見える形で体験する実験」「GX(グリーントランスフォーメーション)を題材にしたエネルギー実験」など、今後挑戦してみたいテーマも挙がっている。最新の科学を子どもたちの生活に結びつけることで、学びの幅をさらに広げたい考えだ。

また、施設としてはコロナ禍に実施したYouTubeでの実験配信、小学校への出張授業、大学との連携などにも取り組んできた。

こうした活動は保護者アンケートや教育会からも高く評価されており、北海道および札幌市教育委員会からの後援も受けている。今後もこうした活動を継続・拡大し、子どもたちが身近に科学とふれあう機会を増やしていく構えだ。
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