サービス付き高齢者向け住宅「アンジェス」では毎月第三水曜日を「スシローの日」とし、入居者の昼食にスシローの寿司を提供している。普段提供される食事ではなかなか生ものは難しく、また寿司を食べる機会も減っている入居者にとって「スシローの日」はとても好評だという。
○難しい課題を乗り越え、サービス付き高齢者向け住宅でお寿司の提供を実現
アンジェスを運営するT.S.Iで施設管理部次長を務める椎葉晴宣氏は、「スシローの日」の仕掛け人。2023年より企画を開始、今年で3年目を迎える。
「弊社社長の想いでもある『愛ある日々のお手伝い』という理念のもと、入居者の皆様により良い生活を送っていただくために“食”は大事なものだと考えております。日々の献立の工夫に加えイベント食としてスペシャルな食事を検討していたのですが、入居者様からはお寿司やお刺身が食べたいという声が多くありました。そこでお寿司の提供に向けて準備を進めていったのです」(椎葉氏)
しかし、全国に30以上の施設を展開するアンジェスで一律にお寿司を提供するにはいくつかの課題があった。まずは提携先。個人経営のお魚屋さんやお寿司屋さんでは難しいことも多く、一方で寿司配達チェーンでは法人との取引が難しいと断られることも。そんな中、唯一実現したのがスシローだった。
もうひとつの課題はアレルギーなどの問題。椎葉氏も「一番難しい問題が多くあった」と話す。
「寿司ネタとして使用する食材自体のアレルギーだけでなく、スシローさんの工場で加工する際にアレルギー食材が混在しないよう気を配る必要があります。だからといって、アレルギー対策メニューを質素なものにするのではなく、同じように喜んでいただけるようなものを選ぶことにかなり時間をかけました」(椎葉氏)
入居者は「通常メニュー」「えび・貝・蟹・卵を抜いたアレルギー対応メニュー」「魚・青魚を抜いたメニュー」「生ものを抜いたメニュー」の4種類から選ぶことができる。
すべてのメニューは各施設最寄りのスシロー店舗へ拠点長が受け取りに行くか、配送プラットフォーム「ピックゴー」を利用し配送している。
利用者の中にはお寿司の状態で食べることが難しい方もいるため、個別に施設内の厨房でお米をお粥状に変更してチラシ寿司のようにしたり、魚を刻んでから提供したりすることもあるという。咀嚼や嚥下が難しい方へは、スシローとは別の事業者が製造している「ムース食」と呼ばれる、寿司をムース状にした商品を提供する。さらに、そもそもお寿司自体が好きではない方には、松屋の牛丼が振る舞われるという。
○「スシローの日があるからアンジェスに入居することにした」と話す入居者も
実際に「スシローの日」が開催されていた9月17日、「アンジェス八王子」を訪れると、施設内には「スシローの日」と書かれたポスターが貼られており、入居者の皆様もどこかウキウキとした様子。
「スシローの日」は入居者からかなり好評だといい、いつもは食事を残してしまう方も「スシローの日」はすべてのお寿司を完食することができたり、本来は食材を刻まなければいけない方も「スシローの日は刻まないで食べたい」と希望されたり、「スシローの日があるからアンジェスに入居することにした」という方まで。
○スシローでは900施設へお寿司の提供を開始
アンジェスへのお寿司の提供を担当した、あきんどスシロー営業企画部法人営業マネージャーの藤原祐二氏は、椎葉氏から初めて相談があった日のことを鮮明に覚えているという。
「高齢者施設の利用者様にはお寿司の需要があると以前から思っていたこともあり、ぜひやりたいと感じました。ただ、これまでスシロー店舗やテイクアウトを利用されて高齢者の方がお寿司をお召し上がりいただくことはもちろんありましたが、高齢者施設にご提供することは行ったことがありませんでした。
社内でも、安全面などについてネガティブな意見も最初は多くありました。ただ、アンジェス様と何度も協議を重ねる中で、『こういう方法なら問題をクリアできるのではないか』などアイディアを出し合い、品質管理についても保冷剤の数まで細かく検討し、調整を進めました。
現在ではアンジェス様以外でも全国約900施設でご提供を開始しています。私たちとしても多くの方にお寿司の提供ができ、このような機会をくださったアンジェス様には大変感謝しております」(藤原氏)
昼食を終え、食堂をあとにする入居者の皆様が笑顔だったことが印象的だった。大好きな食事をいつまでも楽しめるサービスが増えることを願う。
松本果歩 まつもとかほ インタビュー・食レポ・レビュー記事・イベントレポートなどジャンルを問わず活動するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、某コンビニ本部員となり店長を務めた経験あり。日本酒・焼酎・発酵食品が好き。Twitter: @KA_HO_MA この著者の記事一覧はこちら