「人手不足」という言葉を耳にする機会が増えたが、状況は改善に向かっているとは言い難い。とりわけ地域企業における人手不足は深刻化しており、すぐにでも有効な打開策が求められている。


「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げているパーソルキャリアは9月9日、地域企業と首都圏在住の副業希望者がスキル起点で出会える対面イベント「スキルフォーラム」を開催。地域企業で働く人たちによるディスカッションが行われるなど、地域企業と副業希望者の架け橋となる内容が展開された。
○■プロジェクト単位の時代?

序盤、「トークセッション」が行われ、伝統工芸や生活雑貨を中心にものづくりから小売りまで幅広く手がけている中川政七商店で産地支援事業部経営支援課を務める横山遼大朗氏、鰹節・だし関連商品の製造・卸売を行っている浜弥鰹節で代表取締役社長を務める木村忠司氏、クラフトビールメーカーのヤッホーブルーイングでよなよなエールFUN×FAN団(ファンイベントユニット)ディレクターを務める原謙太郎氏の3名が登壇。地域を舞台にチャレンジすることの意義を話し合う。

最初のトークテーマは地域企業の人材戦略。横山氏は奈良県にある本社には約80人が働いており、奈良県出身者は1~2割ほどだという。出身地が多様である要因として「ビジョン(日本の工芸を元気にする!)に共感して来てくれる人が多い」とビジョンをしっかり示すブランディングの影響を挙げた。

木村氏は「『新しいことやっていかないと事業は保てない』というところで、『昔からプロジェクトごとに人材を募集できたらいいな』と思っていました」と話す。最近はプロジェクトごとに人材が集まり、プロジェクトが終われば解散するという働き方が珍しくなくなってきた状況に触れ、「やっと時代が追いついてきましたね」と笑顔を見せた。

原氏は「中途採用や新卒採用ではおかげさまでたくさん来てくれるのですが、“プロジェクトごと"という話もあり、その時々でクイックに対応できる人の力も必要だなと思っています」と回答。従来型の長期雇用と並行して、変化に合わせて柔軟に人材を活用していく姿勢が、今後の企業成長に不可欠であるという共通認識がうかがえた。
○■心の距離の重要度が増す

次に人材の働く場所について意見交換する。
木村氏は「コロナ禍を経て、オンラインが当たり前になり、地方や都市は全然関係なくなりました。人材戦略においても、もっと流動性を高くしてやっていきたいです」と語る。原氏も「うちは長野県にあるのですが、首都圏からも比較的近いです。中途でも新卒でも、東京に住む人もいれば、『地方に住みたい』と考えて移住してくる人もいる。両方のパターンがあり、距離の制約はあまり意識していません」と同意した。

横山氏は物理的な距離感は両氏同様に感じていないと話すが、「連絡義務とかコミュニケーションの量みたいなのが大事」と“心の距離感"に配慮する必要性を指摘。この意見に原氏も「心の距離は本当に大切。チームで仕事をするのが基本なので、会わずに離れて仕事をしているのは良くないと思っています。『チームで心理的安全性、心理的柔軟性を高めて一緒に仕事をしていく』という点では、積極的に“わざと"会いに行くとかも必要かなと思います」と語る。

また、木村氏はチームワークを高めるためにやっていることについて「情報共有をしています。LINEなどを使ってどんどん情報を送る、みたいな感じです。外部人材・内部人材に関係なく、そこをしっかりしていると『社長はこういう考えを持っているのか』みたいなのが伝わって、プロジェクトは推進できると思っています」と述べ、こまめなコミュニケーションの重要性を強調した。


○■副業・フリーランス人材の活用で仕事が爆速に

副業・フリーランス人材の活用をテーマに議論する。木村氏は新しいプロジェクトはいろいろ思い付くもののリソース不足で取り組めないことに常日頃からもったいなさを覚えていたという。しかし、副業・フリーランス人材を活用するようになった結果、「めっちゃ爆速になった。早すぎて僕はついていけないくらい。『誰が社長やねん』っていうぐらいになっています」と笑みを浮かべた。

登壇者でありながら木村氏の話を熱心にメモを取りながら聞いていた原氏は「プロジェクト単位ということは、うちの場合はまだそんなにできていなかったのですが、今の話を聞いてちょっと試したいなと思いました」と話すと、木村氏は「ぜひ試してみてください」とオススメする。また、横山氏は「『なぜプロジェクト単位が良いのか?』というのを考えて、『ゴールがわかりやすいから、自分の活かし方の想像がつきやすいからなんだろうな』と思いました」と“気付き"を語った。

最後に横山氏は「(副業・フリーランス人材に)頼る姿勢はめちゃくちゃ大事なんだなと学びになりました」、木村氏は「『何かを経験してみる』ということでは、副業ってめちゃくちゃ良いんだろうなと思いました」、原氏は「いろいろな制約がなくなり、『自分のWill(意志)で仕事が選べるようになっているんだな』と感じました」とディスカッションを通して得た発見をそれぞれ口にした。
○■「企業の課題やニーズを知れて良かった」

当日、いきいきファーム(長崎県)、ウタ(福井県)、樫立酒造(東京都)、川東履物商店(奈良県)、Grancell(沖縄県)、ChaChaCha(静岡県)、天年堂(福岡県)、TREASUREINSTOMACH(北海道)、中村屋(京都府)、にこママクラブ(兵庫県)、ネオサイエンス(富山県)、浜口水産(長崎県)、浜弥鰹節(大阪府)、吉田農園(滋賀県)と、出展した地域企業14社の担当者が事業内容や現在求めている人材像などを発表した。

さらには、イベント後半には地域企業と副業希望者が自由に話せる「懇談会」を実施。活発なコミュニケーションが行われる中、「スキルフォーラム」の参加者に感想を聞いた。八丈島の老舗酒造・樫立酒造の最高経営責任者・菊池栄治氏は「販路拡大を目指しており、人脈の多い人やコミュニケーションスキルの高い人を探して出展しました。
何人かと名刺交換させてもらいましたが、中にはアドバイスをいただくこともあり、参加して良かったです」と微笑んだ。

一方、副業希望者にも話を聞く。個人で営業コンサルタントをしている40代男性は「地域企業がどのようなニーズ・課題を持っているのかを知りたくて参加しました。いろいろな企業と話す中で『自分のスキルを役立てられそうだ』と感じる瞬間もあり、仕事のモチベーションになりました」という。また、コンサル系の会社に務める20代男性は「普段は企業の業務効率化などの支援をしているのですが、今回出展企業と話をさせてもらう中で、そのことに悩んでいる会社さんもあったので、もっとお話ができればと思っています」と語った。

「地域企業が多様な働き方の起点になるのでは?」という期待感を抱きたくなる内容だった「スキルフォーラム」。今後の開催が待たれる。
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