女優の吉永小百合が主演を務める映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』(10月31日公開)が、第73回サン・セバスチャン国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出され、現地時間の9月20日に特別上映会が実施された。

『てっぺんの向こうにあなたがいる』は、「女性だけで海外遠征を」を合言葉に結成されたエベレスト(ネパール名でサガルマータ、中国名でチョモランマ)日本女子登山隊の副隊長として知られる女性登山家・田部井淳子氏の実話を基にした作品。


主人公・多部純子(田部井淳子氏がモデル)を演じるのは今作で映画出演124本目となる、女優の吉永小百合。純子を支える夫・正明を演じるのは数々の映画賞を受賞している名優、佐藤浩市。純子の盟友であり、エベレスト登頂の相棒でもある北山悦子役には、吉永と映画『最高の人生 の見つけ方』以来、5年ぶりのタッグとなる天海祐希。青年期の純子役はアーティスト活動から俳優活動まで多方面で活躍しているのん。さらに、木村文乃、若葉竜也、工藤阿須加、茅島みずきらがキャスティングされており、険しい高峰へ向けて実力派の俳優たちが揃った「パーティー」となっている。

9月20日(現地時間)、スペイン北部のバスク州サン・セバスチャンで開催されている第73回サン・セバスチャン国際映画祭のオフィシャルセレクションで上映され、ゲストとして阪本順治監督 、本作の主人公・多部純子(吉永)の息子・多部真太郎役を演じた若葉竜也、若葉演じる多部真太郎のモデルであり、田部井淳子氏の実子・田部井進也氏が参加した。

劇場に到着するやいなや、上映を待つ200人ほどの観客に囲まれ、次々と写真やサインを求められた3名は笑顔で応じた。満席となった会場(262席)の観客から大きな拍手で迎え入れられた。映画『顔』で招待されて以来25年ぶりの参加となる阪本監督は「この映画は山の映画でもあり、登山の映画でもありますけど、それ以上に家族の映画です。主人公が後年、いろんな困難と闘いながら、それを乗り越えたくましく生きた。その姿が皆さんの心を打ってくれればなと思っております。今夜この映画を 選んでいただいてありがとうございます」と感謝の言葉を述べ、本映画祭初参加となる若葉は『Kaixo. I Ryuya Wakaba.(こんにちは、若葉竜也です)』と現地のバスク語で挨拶すると「日本で丹精込めて丁寧に作った映画をこうやって世界の皆さんに観ていただくということにとても強い思いがあります。
そしてそれを 叶えてくださった阪本監督、進也さん、そしてこの映画を観に来てくださったみなさんにとても感謝しています。そして、偉大なる田部井淳子さんにとても感謝しています」と熱い想いを語った。晩年、病と闘いながらも登山家として山に挑戦し続けた母を支えてきた田部井氏は「2003年、母がビルバオに来てハイキングしたっていう記録が残ってまして、その地域に来れたことをとても嬉しく思います。母のことをこうやって世界の方に観ていただけること、そういう作品を作ってくれた監督、演じてくれた竜也くん、本当に皆様ありがとうございます」と感謝を伝えた。

上映中は母親と息子、妻と夫、姉と弟の掛け合いを中心に何度も笑いが起き、観客が楽しみながら映画を鑑賞する様子がうかがえた。客電がつくと同時に3人を迎えたのは笑顔で立ちあがる観客たちの温かい拍手だった。

日本公開に先駆けて、世界初お披露目となった上映会を一緒に鑑賞した阪本監督は「いろいろな国際映画祭に行きましたけど、画面を見つめる姿や背中を見ていると、何もこぼさず見届けようみたいなそういう姿勢があり ますよね。それを感じました。ちゃんと集中してもらっているなと思いました。観ている途中からこういう環境の中で、この国で観ている喜びを感じました」と語り、若い観客が多いことに驚いていた若葉は「10代の女の子た ちが本当に感激したという声をかけてくれたんです。男性の方が(劇中に登場するエピソードの一つである)ピアスの仕草をして、『フリーダム! フリー ダム!』と言っていて、心にも自由のピアスを持って、みたいな意味かなと思いました。その彼も20歳くらいの若い方で、物語がちゃんと届いているという感じがすごい嬉しかったです。
けっこう感激してしまいました。届いた! みたいな気持ちです。世代は関係なく、こうやって映画は届いていくんだなと思いました」と感激した様子を見せた。多くの観客から写真撮影を求められて驚きの表情を浮かべていた田部井氏は「フィクションではありますが、海を越えて世界の人たちに、事実としてそういう女性が50年前にチャレンジしたことがあるよ、その人がガンになって、それでも色んな思いを持って山に登り続けたっていうことを伝えられるのは感謝でしかありません」と何度も感謝の言葉を述べて会場を後にした。

(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会

【編集部MEMO】
本作は、女性登山家である田部井淳子氏が執筆した『人生、山あり“時々”谷あり』をベースにしている。1975年にエベレストの女性世界初登頂に成功。その後も挑戦は続き、生涯で76カ国の最高峰・最高地点の登頂に成功している。映画では実話と、前出の著作を基に、エベレスト女性初登頂から、晩年の闘病、余命宣告を受けながらも亡くなる直前まで山に登り続けた姿を描いている。
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