自分の人生経験や伝えたいことが「100%込められるようになった」

「何も隠さずに音楽を作れることが、改めて幸せだと感じています」。そう語るのは、新曲およびニューアルバムのリリース、2026年春開催の全国ツアーを発表したアーティストの與真司郎(AAA)だ。ゲイだとカミングアウトしてから着手し、約2年半かけて完成させた新アルバムの制作期間には、さまざまな困難や発見があったという。
その制作秘話や、約5年ぶりに開催する全国フルライブツアーへの意気込みなどを語ってもらった。

――まず、9月17日リリースの新曲「262」の魅力をお聞かせください。

結構イケイケな楽曲です。これまであまり使ってこなかった語気が強めの言葉も散りばめました。少しアグレッシブな曲ですが、人は反対意見に出会ったり価値観の違いに直面したりすると、イラッとしたり悲しくなったり感情が揺れますよね。そんなときにこの曲を聴いて、強く生きる気持ちを取り戻してほしい。そういう思いで制作しました。

――その変化は、やはりカミングアウトの影響が大きいですか?

そうですね。カミングアウト後から本当に多くの楽曲を作ってきました。自分の人生の経験や、世の中に伝えたいことを100%込められるようになったので、作り方も今までと違いますし、1曲ごとへの思い入れも格段に強くなりました。

――やはりカミングアウト前は、感情にモヤがかかったような時期もあったのでしょうか。

だいぶありましたね。
どこかで演じている自分がいて、嘘をつかざるを得ない場面もありました。今はありのまま表現ができますし、プライベートもそのままの姿で生きられます。だから得るものが本当に多いんです。出会う人たちがありのままの自分を受け入れて接してくれるので、こちらも何でも話せるようになりました。そこで得た言葉や考え方を曲へ落とし込めるようになったのは大きな成長です。何も隠さずに音楽を作れることが、改めて幸せだと感じています。

――いろいろな変化があったと思いますが、最たるものを挙げるとしたら?

隠さずに話せる関係が広がったことです。ゲイの友人も増えましたし、LGBTQ+のアライ(ALLY)の仲間も周りにたくさんいます。それに、インターナショナルな人も多く、そういった人たちは「ゲイだから何?」という感覚を持たれています。恋愛の話も含めてオープンに語り合えるから、そこで得るものが大きい。ストレートの人がどう恋愛するのか、どんな思いがあるのか。そういう話を素直に聞けるし、僕も話せます。
以前はどこかで「この先は言いたくない、バレそうだ」とブレーキを踏んで会話が止まりがちでしたが、今はラインがないのでその分得るものが圧倒的に増えました。

――楽曲制作にもかなり影響を与えているとのことですが、2026年春発売の新アルバムはどのようなテーマで制作されたのでしょうか。

メンタルヘルスアルバムのような、聴くと「頑張ろう」と思えたり、「自分はこうだよな」と確認できる作品にしました。皆それぞれ抱えている感情があると思うんですけど「こういう感情って誰にでもあるんだな」と照らし合わせてもらえたらいいなと思います。

――制作期間を振り返って、今思うことをお聞かせください。

カミングアウト直後に発表した『Into The Light』から数えると、約2年半かかりました。公表後、精神的に少し参ってしまって、制作が一度ストップしてしまい……。ファンのみんなが理解してくれたこともあり、自分のペースで制作を進められたのは本当に救いでした。結果的に、その時間があったからこそ「こういう曲を作りたい」「こういう歌詞を書きたい」というアイデアが次々と湧いてきたので、今考えると必要な期間だったと思います。

――当時は相当きつかったのでは?

そうですね。そのときはLAに住んでいたのですが、外に出られないし、普段よくするワークアウトすらできない。何もやる気が起きない状態でした。
そんな僕のために親友たちは毎日家に来てくれたり、電話をしてくれたり、メキシコなどに無理やり連れ出してくれたり、支えてくれました。正直、自分はメンタルがやられないタイプだと思っていたので、少し鬱っぽいかもと感じたときはショックでしたけど、どこかで必ずよくなると信じている自分もいたんです。周りからは「いつもハッピーでしょ。ストレスないでしょ」と思われがちですが、僕にもそういう時期はありました(笑)。

――そのタイミングで、いろいろな国を見るようになったんですか?

そうです。少しよくなってきた頃に「このままじゃよくない。環境を変えよう」と決めました。それでLAを出る決断をしたんです。9年半住み、友人のほとんどがLAにいるのにその街を離れるのは大きな決断でしたが、そこから生活の仕方が変わり、人生が大きく動きました。悩んだときこそ、環境を変えることが必要だと改めて思いました。もちろんリスクはありますが、得るものも大きい。最近は「すべては手に入らない。
得るときは何かを手放す必要がある」と感じながら生きています。

隠し事がなくなり「自分の人生と歌がマッチしている」と実感

――2000人のファンを前にしたカミングアウトも大きな決断でしたよね。

自分で言うのもなんですが、今はよくやったなと思います。頑張ったからこそ、今も応援してくれるファンの方が残ってくれている。こうして取材の機会をいただけるのもそうで、毎日感謝しています。

――今回の制作を通じて、アーティストとして変わったと感じたことも多かったのではないでしょうか。

曲調も、歌い方も今までと違うと思います。AAAで活動していた時期とも、これまでのソロ2作とも全然違う。カミングアウトが直接の理由というより、隠さなくてよくなったことで歌に自信を持てるようになったんです。歌うことが本当に楽しいと感じられるようになりました。以前は隠していたのでつらかったのですが、今はオープンでいられる。レコーディングも楽しいですし、自分の人生と歌がマッチしていると強く思います。
それに、音楽に対する感覚も変化しました。以前はどこか仕事の感覚がありましたが、今は好きだから作るという感覚が強いです。

――2026年4~5月に開催予定の全国ツアーでは新しい姿が見られそうですね。

アルバムを引っ提げてのツアーになります。フルのライブは5年ぶりです。正直、感覚を少し忘れていないか不安もありますが、隠し事なくステージに立てるのは僕にとっては夢のようなことなので、間違いなく楽しめると思っています。

――最後に、全国ツアーへの意気込みをお願いします。

長くお待たせしてしまった感覚はあります。それでも、カミングアウト後も変わらず応援してくれる人たちがいる。メディアの皆さんも支えてくれる。多くの人に背中を押してもらっていると日々感じています。だからこそ期待に応えたい。
アルバムもツアーも120%でいいものにするつもりです。ぜひ遊びに来てください。いい意味で変わった、本当の與真司郎がきっとステージに立っています。

■與真司郎(あたえ しんじろう)
1988年11月26日生まれ、京都府出身。2005年にAAAの最年少メンバーとしてデビューし、俳優・ダンサー・歌手として活動。2013年からは「SHINJIRO ATAE」名義でもソロ展開を行う。2023年にエイベックスとの専属契約を満了して独立し、同年7月にはアーティスト活動の再開とともに自身がゲイであることを公表した。2025年9月17日に新曲「262」を発表、2026年にニューアルバムをリリースし、全国フルライブツアーを開催予定。
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