キリンビールは2025年9月25日、「海外戦略発表会」を開催し、10月1日付でマレーシア・クアラルンプールに東南アジア地域本社「KIRIN BREWERY SOUTHEAST ASIA(KBSEA)」を設立すると発表した。APAC(アジア・北米・オセアニア)を中心に、ビール/RTD(氷結など)/国産洋酒の3本柱で海外展開を強化する。
○■アルコール市場を取り巻く環境変化
冒頭に堀口英樹社長は「インフレ長期化や米国の関税政策、アルコールの多様化、アルコール規制、健康志向の高まりなど、消費者の動向や市場環境は大きく変化している」と述べた。世界のアルコール消費量は2010年以降ほぼ横ばいで、先進国では減少傾向にある。一方で、東南アジアを含む新興市場は今後の成長を牽引すると見通しを示した。カテゴリー別ではRTDが構成比を拡大しており、特にビール類からの流入が増加傾向にあるなど、消費スタイルの変化が見られると語った。
○■キリンビール海外事業の変遷振り返り
続いて、同社の海外展開を歴史軸で紹介した。キリンビール社の前身であるジャパン・ブルワリーによる1888年の輸出開始に始まり、米国・台湾・欧州・中国・東南アジアへと拠点を広げてきた。グループ全体では2009年にLion、2020年にはNew Belgium Brewingの子会社化で基盤を拡大。ブランド面でも、「一番搾り」や「富士」などを積極的に拡売し、2025年現在、キリンブランドは世界40カ国以上で展開されている。
直近10年で海外売上は着実に拡大した一方で、2024年の海外売上比率は7%。堀口氏は「まだ低い構成比にとどまっているというのが現状です」と語り、海外売上比率の引き上げをテーマに位置づけた。
2025年上期のハイライトとしては、北米の商流を改編、台湾での「晴れ風」のテスト販売、RTD(氷結)の海外売り上げが前年比180%に拡大、ウイスキー「富士」の免税店・韓国での取り扱い開始など、さまざまな取り組みが紹介された。
○■今後の取り組みと目標
同社は今後の戦略を「エリア戦略」と「カテゴリー戦略」の二軸で進める。
エリア戦略ではAPACに集中し、特に成長が見込まれる東南アジアを最重要エリアに据える。10月1日に設立される地域本社KBSEAを通じ、現地の嗜好を反映した商品開発やマーケティングを日本と連動して進める体制を構築する。「アジア市場のアルコール消費量は2010年から2029年まで年平均2.5%程度の成長が見込まれる。全世界ではマイナス0.1%と予測される中で、成長の機会は大きい」と堀口氏は語った。
カテゴリー戦略では、ビール・RTD・洋酒を3本柱とする。ビールでは「一番搾り」を中心に、糖質ゼロやノンアルコールなどの機能系商品の強化やグローバルでのマーケティング展開を推進。RTDでは「氷結」がニュージーランドや台湾でシェア首位を獲得しており、日本と現地が連動した開発体制が成果につながっている。
今後は現地ブランドの構築やイノベーションサイクルの加速を目指す。洋酒「富士」については、富士御殿場蒸留所から輸出を続けつつ、PRやマーケティングを一層強化し、ブランド認知を高めていく。
同社はこうした取り組みを通じ、2035年に売上収益1,000億円、海外売上比率20%を目標に掲げている。
○■海外展開の進め方
発表会後半では海外事業部長の藤嶋氏が登壇し、キリンビールの海外展開をどのように進めてきたか、そして今後どう展開していくかを説明。その中で「世代」という区分で進化の過程を整理した。
かつては日本仕様の商品をそのまま輸出する「第1・第2世代」だったが、現在は日本で開発したレシピを現地工場で製造する「第3世代」にあり、各地で地産地消の仕組みが整いつつある。今後は日本からノウハウを移管しながらR&D(Research and Development)の現地化を進め、必要に応じてM&Aや拠点統合も視野に入れるという。藤嶋氏は「現地初のキリンブランドを投入できる段階へと進みつつあり、現在は第3世代から第4世代への移行期にある」と述べた。
○■地域ごとの展開戦略
エリア別の戦略については、次のような方針が示された。
北東アジアブロックでは、中国・台湾・韓国での成長を基盤に、ビール類に続くRTDや洋酒といった新たな柱の育成を目指す。また、台湾南部や中国ECなど販路拡大にも取り組む。
東南アジアブロックは地域本社KBSEAの設立を起点に、現地ニーズに即した商品開発やマーケティングを加速。現地製造拠点設置も視野に入れる。北米ブロックは「一番搾り」と「富士」を中心に、New Belgium Brewing社を通じて安定供給体制を構築。
オセアニアブロックはLion社との協業を基盤に、「一番搾り」シェア拡大やRTDの首位維持を図る。欧州ブロックは「一番搾り」と「富士」を展開し、英国でDamm社への商流切り替えを進めるほか、欧州の中での最適な生産体制の構築を検討する。
最後には、来年2026年に向けた取り組みにも言及した。
2026年度の主な取り組み。サッカー日本代表応援プロモーションと、「氷結」発売25周年キャンペーンを展開する
小野口 輝紀 この著者の記事一覧はこちら