華やかなホールに所狭しと並ぶパチンコ・パチスロ台。その一台一台の開発には数多くの「人」が関わっている。
本連載「P業界で働くということ」では、実際にパチンコ・パチスロ業界で働く人々をピックアップ。業務にかける想いや熱意、そして苦労や挫折、さらには転機や今後のビジョンなど、業界の「リアル」な現状に迫り、その声をお届けしていく。
今回は、「海物語」シリーズや「大工の源さん」シリーズなどのオリジナルIPで人気のSANYOで広報を務める、株式会社三洋販売(以下、三洋販売) 営業本部 営業企画部 マーケティンググループ 主任の田合健祐氏と、同じくマーケティンググループの金濱茉由氏に話を伺った。
田合氏と金濱氏が所属するマーケティンググループでは、会社のプロモーション業務全般を担っており、販売促進、広告宣伝、オフィシャルグッズ制作、広報といった4つの業務を大きく担当している。
その中で、田合氏と金濱氏が主に担当する広報業務では、プレスリリースの制作・発信やプレスの対応、記事や動画の監修、そして最近では公式Xや公式YouTube、公式LINEといった公式SNSの運営・管理が重要な役割になりつつあるという。
そして何より、広報は"会社の顔"として表に立つことも多く、「会社全体の動きを知っていることが重要であり、必須」だと金濱氏は説明する。
○■他業種・他業界からメーカー広報に
「学生時代に友人に誘われた」ことが、パチンコ・パチスロを始めたきっかけという田合氏は、「頭の中は本当にパチンコ・パチスロで一杯」だったことから、当然のように「就職活動ではパチンコ・パチスロメーカーを目指した」と振り返る。残念ながらメーカーでの採用には至らなかったが、「やはり好きなことを仕事にしたい」との思いから、パチスロ雑誌の制作会社に入社。雑誌の編集者として業界と関わることになる。
その後、諸事情により転職を決意。当初は同じ出版系の会社を模索したが、「どうせ仕事にするのであれば、もっとパチンコ・パチスロに密接した、もっと深く関われるところで仕事をしたい」と一念発起。
一方、三洋販売に入社するまでパチンコ・パチスロにはほとんど触れてこなかったという金濱氏だが、学生時代の4年間、ゲームセンターでアルバイトを行うなど、「もともと、賑やかな空間が大好き」だと自身を分析する。そして新卒時には、メーカー営業としてキャラクター会社全般を担当し、OEM商品の開発に携わったが、SNSやECサイトを担当したことをきっかけとして、「エンドユーザーさんとコミュニケーションを取りながら、何かを販売していく楽しみ」に目覚め、広告やマーケティング業務に興味を持ち出したという。
そこで、広報を担当できるという理由で建築会社に転職し、広報業務の基礎を身に着けていく。しかし、 社外的なPR活動やメディアリレーションに直接携わる機会が限られていたことからさらなるスキルアップを目指し、三洋販売への転職を決意したと振り返る。
それまで、パチンコ・パチスロ業界との関わりがなかった金濱氏だが、「マリンちゃんだったり、大工の源さんだったり、これまでほとんど関わりのなかった自分でも知っているくらい、自社IPを大切にして、その魅力を発信している」ところに注目。「SANYOというネームバリューの下でスキルを磨けることも大きな理由の一つ」と言及し、「今後のさらなる認知拡大に向けた活動の一助になりたい」との思いを打ち明ける。
パチンコ・パチスロが好きで、立場は異なれど、ずっと業界に携わってきた田合氏と、まったくの異業界から飛び込んできた金濱氏。特にパチンコ・パチスロ業界に初めて触れた金濱氏は、「思っていた以上に硬派な方が多い」ことに驚きを感じたという。
「いわゆるエンタメ業界ならではの、少し個性的な方が多いのかなと勝手に想像していました(笑)」という金濱氏。「テンションの高さに圧倒されてしまうのでは」との危惧を抱いていたが、「社内はもちろん、業界の方も、それこそメディアの方も腰の低い方が多い」との印象を受け、「まったく知識のない自分に対しても、同じような目線で会話してくださる方が多い」との感想を述べる。
一方、同じ業界でありながら、取材する立場から取材される立場に変わった田合氏。
○広報業務の面白さと難しさ
田合氏は、三洋販売に入社後、雑誌編集の経験を活かして、小冊子などの販促物制作を担当していたが、広報業務を担当して以来、「毎日、何かしらの変化がある」ことを実感しているという。販促物の制作は「ひとつの業務をゴールまで着実にこなす」ことが重要となるが、広報業務は、「本当に予測していないことが起こり、先が読めないことが多い」ため、臨機応変な対応が求められる。さらに、プレイヤーやホールと近い立場にいることもあり、「言葉に責任を持つことが当然ですが、説得力も併せ持つ必要がある」と言及。これまでSNSに関してはあまり注目していなかったが、「今ではすごく意識していますし、日々移り変わる変化に翻弄されることなく、そこに楽しさを感じられるようになってきた」と笑顔を見せる。
「遊技機の情報はもちろんですが、SANYOがどういった会社であるか、その取り組みなどを業界内外にお伝えするのが広報としての最大のミッション」という金濱氏。社内で行われている活動のすべてが、最終的には広報に集まるという状況を見据え、「それをいかにわかりやすくお伝えできるかが重要」との視点から、どうすれば面白く、そして楽しく伝えられるかを考えながら、SNSを運用したり、プレスリリースの制作にあたっているという。そして現在は、「情報を発信すると同時に、自分自身も会社のことを勉強している状況」としつつ、「会社の今を一番知っている人でありたい」との思いを告げる。
その一方で、「情報を発信した際、それがどのくらいユーザーの方に届いているかがわかりにくい」と、広報業務の難しさを吐露。SNSの場合、フォロー数やいいね数などである程度の目安は立てられるものの、全体的な効果検証が難しく、「情報によって、それぞれベストな発信方法は違うはず」との見解から、「以前成功したことがそのまま応用できるとも限らず、常にベストなやり方を試行錯誤している」ことに、難しさであり、楽しさを感じているという。
特にパチンコ・パチスロなどの遊技機は、機械の力が第一であり、機械が面白ければ、自ずと人気も高くなる。そこに対して広報は「少しでもユーザーの方に興味を持ってもらい、一度でも打ってもらえるように仕掛ける」こと、つまり、いかにファーストタッチを作り出せるかが大きな役割となる。
そして、広報業務は「マルチタスクが常に求められる」という田合氏。多くの情報に触れていく中で、「いかに情報を迅速かつ正確に伝えられるか」が大事であると同時に、「いかにクリティカルなタイミングで発信できるかも重要」との見解を示す。「たくさんの情報を頭の中で整理して、効果的に発信する」ことの難しさを日々実感していると打ち明け、「そもそも計算できなかったり、計算できていても甘かったり……そのあたりのコントロールに慣れるまでは、苦労が多かった」と振り返る。
○"肌触り"を重視したSNS時代の広報活動
世の中がSNS時代ということもあり、広報業務において、その重要性は非常に高まっているが、やはり「一番気をつけているのは炎上」という田合氏。「自分たちが発信した投稿によって、会社全体のブランドやIPのイメージを低下させることもありえる」という現状を分析し、「気軽に投稿できる分、何気ない一言が悪い意味で注目されてしまう」ことから、そのあたりのリスクをいかに回避するかについて、最大限の配慮を常に考えているという。
その一方で、SANYOがSNSの運用で心がけているのは"肌触り"。ただ機械的に投稿するのではなく、投稿者の温もりであったり、投稿者の人となりや肌感覚が伝わることを重視。発信する情報は同じでも、投稿者によって伝え方はそれぞれであり、投稿者の色を出していくことが、ひいてはSANYOらしさにも繋がっていく。
その点では、「どのような内容で投稿すれば、興味を持ってもらえるかを常に考えている」という金濱氏。常に数字を追い、効果を検証しているが、「自分でも自信のあった投稿があまり注目されなかったり、本当に何気ない投稿がなぜかバズっていたり……結果に対して自分なりの仮説を立てて、次の投稿に活かしていく」というトライアンドエラーの繰り返しが重要としつつ、「そこの読みはSNSを何年やっても難しいところ」と苦笑いを浮かべる。
「SNSは気軽に見るものなので、投稿するものも気軽に見てもらえるものが一番」という田合氏。会社の公式SNSということもあって、どうしても堅苦しくなりがちだが、「絵文字を使ったり、彩りを加えてみたり。できるだけ柔らかい表現にすることで、見ていただく方の負荷にならないようにする」ことが重要であり、「そのうえで、投稿を見て楽しくなるとか、タメになるといったメリットが必須。せっかく見ていただいたのだから、何らかのプラスを付加できるような投稿を心がけています」と自身の考えを明かすと、「会社のSNSは、やはり広報であり、宣伝なのですが、できるだけそれを感じさせない投稿も意識している」という金濱氏。「情報自体はどうしても発信しないといけないのですが、SNSにはコミュニケーションツールという側面もありますから、やはり見ていただく方に楽しんでもらえるような投稿をしていきたい」と続ける。
また、今後の広報活動を行う上で、決して無視できないAIの存在について田合氏は、「広報業務の全般を、AIに任せる未来があるかもしれない」と示唆。Xへの投稿やプレスリリースの作成などはAIでも十分可能であるという現実を認識しつつも、「だからこそ、生身の人間にしかできないこと、人間らしさを発揮できるところを模索していく必要がある」との見解を示す。そして金濱氏も、「AIを使うことでクオリティが上がるのであれば、積極的に使っていくべき」との考えを示すが、すべてを丸投げすることには否定的で、「会社のことを一番知っていて、一番魅力的に発信できるのは広報である我々である」という気持ちを強く持つことが重要であり、それを現実にすべきだと主張する。そして、「AI自体は、うまく活用すれば業務効率化に繋がる」と評価し、「ツールとしていかにうまく使いこなすか」が今後の課題であるとした。
○パチンコ・パチスロを楽しんでもらうきっかけに
田合氏も金濱氏も現在の広報業務に携わってからの日は浅く、「まだ、自分が広報として具体的に何ができるかを模索している段階」と打ち明けつつ、「海物語とか大工の源さんといった自社IPをもっと世の中に発信し、すでに楽しんでいただいている方はもちろんですが、これまでパチンコやパチスロにあまり触れてこなかった方にも魅力を感じてもらい、実機を楽しんで貰えるきっかけづくりをしていきたい」と将来を展望する。
同様に、「自分の広報活動を通して、SANYOのコンテンツのファンを増やしていくことが目標」という金濱氏。自身がまだあまり詳しくないという課題を逆に活かし、「自分と近い感覚を持っている方へのタッチポイントを増やすことが重要」とし、そのためにも、「イベントやプロモーション活動にも積極的に関わっていきたい」との考えを示す。
三洋販売におけるマーケティンググループの男女比率はおよそ7:3だが、会社全体で言えばおよそ9:1と、圧倒的に男性比率が多い状況について、「特に不満を感じたことはない」という金濱氏。「女性が少ないからこそ、女性同士の助け合いもありますし、女性としての意見が重宝されることも多い」としつつ、まだまだホールに女性ひとりでは入りにくいといった現状を挙げ、業界全体における女性目線の不足を指摘する。「女性に限らず、ノンユーザー目線としても、まだまだ発信していかないといけないことは多い」と力を入れる。
今後、パチンコ・パチスロ業界を目指す人に対して、「自分が仕事と遊びをあまり区別できない人間というのもありますが……」と苦笑いしつつ、自身の経験を踏まえて、「とにかく楽しいことが好きな方、好きなことを楽しく仕事にしたい方が向いている」という田合氏。「まだまだ業界として、あまり良くないイメージを持っている方も少なくないと思いますが、時代も大きく変わって、今では施設もすごくきれいになっていますし、接客レベルも非常に高い」と指摘。「未だに残っている業界の壁を崩していくのも、我々広報の仕事」としつつ、業界未経験の立場で入社してきた金濱氏を、「まったく知らない世界でも、そこにやりがいを見出し、楽しさを感じて、活躍してくれている」と例に挙げ、「ハードルや苦労はもちろんあると思いますが、未経験の方でも十分活躍できるフィールドであることを知ってほしい」とアピールする。
「決して衣食住に関わる業界ではありませんが」と前置きしつつ、「生活にプラスアルファしてくれる業界」と評し、「だからこそ、誰かのために頑張れる業界」という金濱氏。自身がノンユーザーから飛び込んだという過去を踏まえ、「怖い業界と思っている方も少なくないかもしれませんが、決してそんなことはありませんし、逆に、そういったイメージがあるからこそ、業界全体で協力して、盛り上げていこうという取り組みが多い」と、自身が感じた印象を語り、「エンタメ業界を目指している方、とにかく楽しいことが好きな方は、ノンユーザーの方でもやりがいのある仕事だと思うので、どんどんチャレンジしてほしい」とエールを送り、「我々がそういったタイプではないので、"名物広報"になれるような方に来てほしいかも(笑)」と笑顔で締めくくった。